[スポンサーリンク]

化学書籍レビュー

持続可能社会をつくるバイオプラスチック

[スポンサーリンク]

[amazonjs asin=”4759813942″ locale=”JP” title=”持続可能社会をつくるバイオプラスチック:バイオマス材料と生分解性機能の実用化と普及へ向けて (CSJカレントレビュー)”]

概要

21世紀は「環境の世紀」とよばれており,持続可能な原料の供給,より優れた性能をもつ素材開発などの観点から,バイオプラスチックの基礎・応用研究が世界各国で進められている.本書は,高分子の化学・材料学・構造学・環境化学・グリーンサステイナブルケミストリーなどをテーマに,最近のアカデミアの基礎研究から企業研究者の実用化研究まで幅広く解説する.(引用;化学同人書籍紹介より).

対象者

  • 環境問題に興味がある学生
  • 高分子を専門とする化学者
  • バイオプラスチックの研究に携わる専門家
  • バイオプラスチックの採用を検討している技術者

目次

第Ⅰ部 基礎概念と研究現場

  • 1章 Interview:フロントランナーに聞く(座談会)
  • 2章 バイオプラスチックの基礎と研究開発の歴史
  • 3章 バイオプラスチックに関する国際標準化

第Ⅱ部 研究最前線

  • 1章 ポリ乳酸の設計と応用
  • 2章 微生物産生ポリエステルの性質と生合成
  • 3章 高分子多糖類の誘導体
  • 4章 高分子多糖類のナノファイバー
  • 5章 バイオマス由来の汎用プラスチック
  • 6章 植物由来の芳香族化合物ポリマー
  • 7章 自然界に存在するポリアミド
  • 8章 その他の注目すべきポリマー
  • 9章 バイオプラスチックの将来展望

第Ⅲ部 役立つ情報・データ

内容

本書は、化学同人社より出版されている「CSJ カレントレビュー」シリーズです。第一弾の驚異のソフトマテリアル の出版から10年が経ちましたが、興味深いトピックを取り扱ったカレントレビューの出版が続いています。本書の題材はバイオプラスチックですが、そもそもバイオプラスチックという言葉には、バイオマス由来の原料を使ったバイオマスプラスチックとプラスチックを使用後に微生物によって分解される生分解性プラスチックの2種類が含まれています。ポリ乳酸は、どちらも満たすプラスチックですが、バイオマス由来の原料から作られたバイオPETなどは、バイオマスプラスチックである一方、微生物によって分解されることはありません。またポリビニルアルコールは、微生物によって分解される生分解性プラスチックですが、原料は化石資源由来です。第一部では、このようなバイオプラスチックの基礎について具体的なポリマーとともに紹介しています。また、近年ではマイクロプラスチックの問題が海外を中心に叫ばれていますが、その対策としてバイオプラスチックの国際標準規格を作り、評価方法を統一する活動が進められています。この国際標準化の動きや評価内容についても第一部で取り上げられていて、産業サイドでのバイオプラスチックに対応する必要性が強調されています。

第二部では、9種類のバイオプラスチックについて最新の現状や研究例について紹介されています。1章のポリ乳酸と2章の微生物産生ポリエステルについては、バイオプラスチックとしての地位がある程度確立されている中、プラスチックとしての性能を向上させる研究がメインで紹介されています。3章の高分子多糖類の誘導体と4章と高分子多糖類のナノファイバー、7章の自然界に存在するポリアミド、8章のその他の注目すべきポリマーでは、自然界に高分子の多糖類として存在する素材をどのように応用できるかという点に注目して、応用研究が紹介されています。代替についての研究トピックでは、一般的に代替元と同じ性能を持つことを求められますが、コストの面で困難であることがよくあります。そんな中、バイオプラスチックだからこその応用用途を探索するという新しい技術の開発として興味深い内容になっています。5章のバイオマス由来の汎用プラスチックでは、各バイオマスプラスチックの合成について現状と課題がまとめられています。それぞれのプラスチックについて石油由来とバイオマス由来の合成経路が一つのスキーム図にまとめられてわかりやすいと感じました。また課題についても言及されていて、バイオマスの工業的な合成に適した不均一系触媒の開発が重要であることが理解できました。6章の植物由来の芳香族化合物ポリマーでは、植物によって合成された芳香族化合物を活かした新規のポリマー合成について様々な合成例が紹介されています。最後に、9章のバイオプラスチックの将来展望では、生分解性プラスチック研究の栄枯盛衰の歴史や進めるべき基礎研究の課題がアカデミアからの将来展望として書かれています。一方の産業界からの将来展望としてプラスチックの現状と課題、どのようにこのバイオプラスチックを社会の中で使っていくかがまとめられています。

他のCSJ カレントレビュー同様に、専門外からこの研究を行っている専門家まで読みやすい内容になっています。研究結果についてガラス転移点や破壊強度などのポリマー物性に関する用語を知っていると、よりポリマーの特徴が理解しやすいかと思います。各省の最後には企業の研究例・採用例が紹介されていて、企業での研究も多く進んでいることが実感できる構成になっています。ポリ乳酸の生分解性プラスチックは、高校の教科書で紹介されていたことを覚えていますが、身の回りのプラスチックのほとんどはいまだに非生分解性プラスチックです。もちろん生分解性プラスチックへの代替において課題はコストであることは明らかですが、それ以外にも技術的な課題もいくつかあることが本書を読んで理解することができました。また冒頭の座談会では、バイオプラスチックの普及には単純な材料の切り替えだけでなく、バイオプラスチックの性能に合わせた最終製品の設計などが必要だと主張されています。このように、バイオプラスチックに関する現状、研究例、今後の展望がまとめられているので、本書を多くの人に読んでもらい、プラスチックの環境問題について化学的なアプローチについて関心を持ってほしいと思います。

CSJカレントレビューとバイオプラスチックに関するケムステ過去記事

Avatar photo

Zeolinite

投稿者の記事一覧

ただの会社員です。某企業で化学製品の商品開発に携わっています。社内でのデータサイエンスの普及とDX促進が個人的な野望です。

関連記事

  1. その病気、市販薬で治せます
  2. 有機金属反応剤ハンドブック―3Liから83Biまで
  3. 化学で何がわかるかーあなたの化学、西暦何年レベル?ー
  4. 有機反応の立体選択性―その考え方と手法
  5. マリンス有機化学(上)-学び手の視点から-
  6. レア RARE 希少金属の知っておきたい16話
  7. 最新ペプチド合成技術とその創薬研究への応用
  8. タンパク質の構造と機能―ゲノム時代のアプローチ

注目情報

ピックアップ記事

  1. ペリプラノン
  2. ポロノフスキー開裂 Polonovski Fragmentation
  3. 「未来博士3分間コンペティション2020」の挑戦者を募集
  4. 第46回ケムステVシンポ「メゾヒエラルキーの物質科学」を開催します!
  5. Actinophyllic Acidの全合成
  6. 加熱✕情熱!マイクロ波合成装置「ミューリアクター」四国計測工業
  7. ガボール・ソモライ Gabor A. Somorjai
  8. テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0) : Tetrakis(triphenylphosphine)palladium(0)
  9. 元素周期 萌えて覚える化学の基本
  10. スタチンのふるさとを訪ねて

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2020年5月
 123
45678910
11121314151617
18192021222324
25262728293031

注目情報

最新記事

新発想の分子モーター ―分子機械の新たなパラダイム―

第646回のスポットライトリサーチは、北海道大学大学院理学研究院化学部門 有機反応論研究室 助教の …

大人気の超純水製造装置を組み立ててみた

化学・生物系の研究室に欠かせない超純水装置。その中でも最も知名度が高いのは、やはりメルクの Mill…

Carl Boschの人生 その11

Tshozoです。間が空きましたが前回の続きです。時系列が前後しますが窒素固定の開発を始めたころ、B…

PythonとChatGPTを活用するスペクトル解析実践ガイド

概要ケモメトリクスと機械学習によるスペクトル解析を、Pythonの使い方と数学の基礎から実践…

一塩基違いの DNA の迅速な単離: 対照実験がどのように Nature への出版につながったか

第645回のスポットライトリサーチは、東京大学大学院工学系研究科相田研究室の龚浩 (Gong Hao…

アキラル色素分子にキラル光学特性を付与するミセルを開発

第644回のスポットライトリサーチは、東京科学大学 総合研究院 応用化学系 化学生命科学研究所 吉沢…

有機合成化学協会誌2025年2月号:C–H結合変換反応・脱炭酸・ベンゾジアゼピン系医薬品・ベンザイン・超分子ポリマー

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2025年2月号がオンライン公開されています。…

草津温泉の強酸性硫黄泉で痺れてきました【化学者が行く温泉巡りの旅】

臭い温泉に入りたい!  というわけで、硫黄系の温泉であり、日本でも最大の自然温泉湧出量を誇る草津温泉…

ディストニックラジカルによる多様なアンモニウム塩の合成法

第643回のスポットライトリサーチは、関西学院大学理工学研究科 村上研究室の木之下 拓海(きのした …

MEDCHEM NEWS 34-1 号「創薬を支える計測・検出技術の最前線」

日本薬学会 医薬化学部会の部会誌 MEDCHEM NEWS より、新たにオープン…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP