概要
21世紀は「環境の世紀」とよばれており,持続可能な原料の供給,より優れた性能をもつ素材開発などの観点から,バイオプラスチックの基礎・応用研究が世界各国で進められている.本書は,高分子の化学・材料学・構造学・環境化学・グリーンサステイナブルケミストリーなどをテーマに,最近のアカデミアの基礎研究から企業研究者の実用化研究まで幅広く解説する.(引用;化学同人書籍紹介より).
対象者
- 環境問題に興味がある学生
- 高分子を専門とする化学者
- バイオプラスチックの研究に携わる専門家
- バイオプラスチックの採用を検討している技術者
目次
第Ⅰ部 基礎概念と研究現場
- 1章 Interview:フロントランナーに聞く(座談会)
- 2章 バイオプラスチックの基礎と研究開発の歴史
- 3章 バイオプラスチックに関する国際標準化
第Ⅱ部 研究最前線
- 1章 ポリ乳酸の設計と応用
- 2章 微生物産生ポリエステルの性質と生合成
- 3章 高分子多糖類の誘導体
- 4章 高分子多糖類のナノファイバー
- 5章 バイオマス由来の汎用プラスチック
- 6章 植物由来の芳香族化合物ポリマー
- 7章 自然界に存在するポリアミド
- 8章 その他の注目すべきポリマー
- 9章 バイオプラスチックの将来展望
第Ⅲ部 役立つ情報・データ
内容
本書は、化学同人社より出版されている「CSJ カレントレビュー」シリーズです。第一弾の驚異のソフトマテリアル の出版から10年が経ちましたが、興味深いトピックを取り扱ったカレントレビューの出版が続いています。本書の題材はバイオプラスチックですが、そもそもバイオプラスチックという言葉には、バイオマス由来の原料を使ったバイオマスプラスチックとプラスチックを使用後に微生物によって分解される生分解性プラスチックの2種類が含まれています。ポリ乳酸は、どちらも満たすプラスチックですが、バイオマス由来の原料から作られたバイオPETなどは、バイオマスプラスチックである一方、微生物によって分解されることはありません。またポリビニルアルコールは、微生物によって分解される生分解性プラスチックですが、原料は化石資源由来です。第一部では、このようなバイオプラスチックの基礎について具体的なポリマーとともに紹介しています。また、近年ではマイクロプラスチックの問題が海外を中心に叫ばれていますが、その対策としてバイオプラスチックの国際標準規格を作り、評価方法を統一する活動が進められています。この国際標準化の動きや評価内容についても第一部で取り上げられていて、産業サイドでのバイオプラスチックに対応する必要性が強調されています。
第二部では、9種類のバイオプラスチックについて最新の現状や研究例について紹介されています。1章のポリ乳酸と2章の微生物産生ポリエステルについては、バイオプラスチックとしての地位がある程度確立されている中、プラスチックとしての性能を向上させる研究がメインで紹介されています。3章の高分子多糖類の誘導体と4章と高分子多糖類のナノファイバー、7章の自然界に存在するポリアミド、8章のその他の注目すべきポリマーでは、自然界に高分子の多糖類として存在する素材をどのように応用できるかという点に注目して、応用研究が紹介されています。代替についての研究トピックでは、一般的に代替元と同じ性能を持つことを求められますが、コストの面で困難であることがよくあります。そんな中、バイオプラスチックだからこその応用用途を探索するという新しい技術の開発として興味深い内容になっています。5章のバイオマス由来の汎用プラスチックでは、各バイオマスプラスチックの合成について現状と課題がまとめられています。それぞれのプラスチックについて石油由来とバイオマス由来の合成経路が一つのスキーム図にまとめられてわかりやすいと感じました。また課題についても言及されていて、バイオマスの工業的な合成に適した不均一系触媒の開発が重要であることが理解できました。6章の植物由来の芳香族化合物ポリマーでは、植物によって合成された芳香族化合物を活かした新規のポリマー合成について様々な合成例が紹介されています。最後に、9章のバイオプラスチックの将来展望では、生分解性プラスチック研究の栄枯盛衰の歴史や進めるべき基礎研究の課題がアカデミアからの将来展望として書かれています。一方の産業界からの将来展望としてプラスチックの現状と課題、どのようにこのバイオプラスチックを社会の中で使っていくかがまとめられています。
他のCSJ カレントレビュー同様に、専門外からこの研究を行っている専門家まで読みやすい内容になっています。研究結果についてガラス転移点や破壊強度などのポリマー物性に関する用語を知っていると、よりポリマーの特徴が理解しやすいかと思います。各省の最後には企業の研究例・採用例が紹介されていて、企業での研究も多く進んでいることが実感できる構成になっています。ポリ乳酸の生分解性プラスチックは、高校の教科書で紹介されていたことを覚えていますが、身の回りのプラスチックのほとんどはいまだに非生分解性プラスチックです。もちろん生分解性プラスチックへの代替において課題はコストであることは明らかですが、それ以外にも技術的な課題もいくつかあることが本書を読んで理解することができました。また冒頭の座談会では、バイオプラスチックの普及には単純な材料の切り替えだけでなく、バイオプラスチックの性能に合わせた最終製品の設計などが必要だと主張されています。このように、バイオプラスチックに関する現状、研究例、今後の展望がまとめられているので、本書を多くの人に読んでもらい、プラスチックの環境問題について化学的なアプローチについて関心を持ってほしいと思います。