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化学書籍レビュー

生体分子反応を制御する: 化学的手法による機構と反応場の解明

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概要

生体反応を手本にして,人工的に模倣・再現することや,その機能を超えるような系を開発することは,環境・エネルギー問題を解決するうえで重要である.また,生体反応を制御して食糧問題解決や医薬品開発をする試みも行われている.これらの研究には,生体反応を化学の言葉で理解することが必須だが,まだその途上であるといわざるをえない.生体分子反応を制御するためには,複雑な生体反応を分子レベルで明らかにすることが必要であり,それを制御する分子や方法論および反応場を本書で明らかにする..(引用;化学同人書籍紹介より).

対象者

  • 化学・生物の融合領域に興味がある学生
  • ケミカルバイオロジー ・バイオケミストリーを専門とする化学者
  • 研究室配属先に悩む学部生

目次

第Ⅰ部 基礎概念と研究現場

  • 1章 Interview:フロントランナーに聞く(座談会)
  • 2章 Basic concept-1:生体分子反応を制御するための無機化学
    Basic concept-2:遺伝子発現を制御するための有機化学
    Basic concept-3:生体制御分子を可視化するバイオプローブ
  • 3章 研究の歴史と将来展望
    History and Future-1:ペプチド・タンパク質の化学
    History and Future-2:糖鎖の化学

第Ⅱ部 研究最前線

  • 1章 エピジェネティック修飾の謎を解き明かす核酸およびタンパク質化学
  • 2章 光による生体分子機能の制御
  • 3章 植物におけるテトラピロールの代謝制御
  • 4章 光合成反応中心タンパク質を利用した光駆動酵素反応
  • 5章 人工分子-生体分子ハイブリッド型分子からなる刺激応答性超分子システムの創製
  • 6章 光合成アンテナの分子レベルでの制御
  • 7章 タンパク質の超分子制御
  • 8章 バイオセンサーと生体反応制御
  • 9章 非天然アミノ酸による生体反応の制御法
  • 10章 生物発光反応の制御方法
  • 11章 相分離や分子クラウディングによる核酸の機能制御
  • 12章 体内現場での有機合成化学による未来の医療診断技術
  • 13章 天然物に学ぶ環状ペプチドの三次元構造制御
  • 14章 iPS細胞を用いた細胞治療に貢献する合成化合物
  • 15章 糖鎖構造を制御した糖タンパク質の合成と糖鎖機能解明
  • 16章 複合糖質の反応場を探る:代謝耐性型アナログと光親和性標識法
  • 17章 生物に学ぶ新しい化学的活性制御:植物ホルモンの標的選択性チューニング
  • 18章 自然免疫を介した免疫制御

第Ⅲ部 役立つ情報・データ

  • ① この分野を発展させた革新論文48
  • ② 覚えておきたい関連最重要用語
  • ③ 知っておくと便利!関連情報

内容

化学同人より出版されている「CSJカレントレビュー」シリーズ第36弾です。本書のトピックは「生体分子反応の制御」。タイトルは少しだけ曖昧ですが、文字通り生体システム中ターゲットの機能を化学的、生化学的手法を用いて調整・解明することに焦点が当てられています。

他のCSJカレントレビューシリーズ同様の構成で、第Ⅰ部 第1章にてフロンティアランナーへのインタビューから現在の研究傾向・将来の見通しを明示したのち、第2章以降で基礎的な知識の振り返りがなされます。そして第Ⅱ部では研究最前線と銘打って、日本で活躍する研究者の方々の研究総説がまとめられています。最後の第Ⅲ部はデータ集として、重要な論文・用語集がまとめられているため、より深い学習に使用できます。

 

感想

生物・化学融合領域関連のカレントビューとしては

06. 核酸化学のニュートレンド

10. ここまで進んだバイオセンシング・イメージング

17. 極限環境の生体分子: 過酷な環境下での機能を科学する

19. 生物活性分子のケミカルバイオロジー :標的同定と作用機構

24. 医療・診断・創薬の化学―医療分野に挑む革新的な化学技術

30. 生命機能に迫る分子化学

に続く、第7弾のカレントレビュー。30弾を除いて一通り目を通したことがありますが、本書の内容は他のケミカルバイオロジー 系レビューに比べて、化学バックグラウンドの学生にとっつきやすい印象がありました。本書のトピック「生体分子反応の制御」では、(1)ターゲットとする生体システムの設定 (2)システム制御のための手法の設定。が全体的なキーポイントとなっており、(1) ターゲットについては、イントロでその機能・重要性について事実ベースに解説されるため、生物に関する深い知識がなくとも理解ができます。(2). 手法については複雑なことも多いですが、化学的エッセンスが詰まっているため、学部以上の化学知識を備えていれば読み解けます。くわえて、化学徒が苦しむであろう、「新たに得られた生物的知見からの新規生体システムの開拓・医学臨床応用」のようなパートは本書ではフォーカスされていないのが読みやすさの理由ではないかと思います。

第 I 部第1章では、浦野先生・袖岡先生・中谷先生がそれぞれの専門(イメージング・タンパク質・核酸)を軸に現在の流行、未来の展望について語られています。特に軽く述べられる「ケミカルバイオロジー を超えたケミカルメディスン」の考え方は分野のフォロワーとして心踊りました。

第 I 部第2,3章では、第Ⅱ部に続くための基礎知識:生物無機化学・エピジェネチィクス・バイオイメージングに糖鎖、タンパク質合成の歴史。が語られますが、少し内容がAdvancedで他のカレントレビューに比べて教育的価値は低いかなと感じました。

続いて第Ⅱ部。日本各地の先生方の研究が章立てて述べられます。前述のようにターゲットとなる生体システム・そこに変化を加えるための方法論の2点に注目することで体系立てて読めました (ケミカルバイオロジー 研究全般に言えることですが)。

個人的にターゲットが面白かったのは、

6章 (光合成アンテナ) 11章 (分子クラウディング下における核酸) 14章 (iPSC, 発生生物) 15章 (糖タンパク質) 18章 (自然免疫系)

メソドロジーが面白かったのは、

5章 (超分子ゲル) 9章 (非天然アミノ酸) 12章 (生体内有機合成) 13章 (環状ペプチドのStructure-activity relationships) 15章 (糖タンパク質合成)

でしょうか。特に個人的なお気に入りは東工大・田中先生の書かれた12章です。最初、生体内で化合物を細かくデザイン、反応性を解析する基礎研究なのかな?と思っていた所、最後にとんだ龕灯返し。有効な臨床研究につながってしまいました。もちろんここに挙げていない他の章も、ユニークなターゲットを様々な方法で制御しており、1日で一気読みしてしまいました。

最後に第Ⅲ部、こちらは僕は今の所活用していませんが、ケミカルバイオロジーの分野に飛び込むなら読んでおいて損しない論文がまとめられています。時間のあるときにぼちぼち読んでいこうと思います。

 

最後に

他の記事でも紹介されていますが、私個人の意見としても、このCSJカレントレビューシリーズの読者は学部生も含まれると思っています。

研究室選択、自身のやりたいことを探索するには、もちろん興味のある研究室の論文や当該分野のレビュー論文を片っ端から読むのが一番です。しかし、学部の知識でそこまで容易ではないと思います。

そんなとき基礎的な知識の補完、最先端研究の紹介が日本語で得られる教科書はCSJカレントレビューシリーズの他に少ないです。学部の知識で理解した気にはなれるので、今日本で活性化してる幅広い分野をそれぞれ深くまで知るのに最適な「教科書」だと思います。

実際私も、学部3年当時、刊行されてた物を読み漁り

20.精密重合が拓く高分子合成: 高度な制御と進む実用化

19. 生物活性分子のケミカルバイオロジー :標的同定と作用機構

の二冊に心惹かれた事から高分子合成とケミカルバイオロジーを学習の軸に据えることに決めました。結果ラボ配属後も大体やりたいことが出来て楽しんでいます。

アドバイスできる立場でもありませんが個人的な経験から、研究の面白さで研究室を選びたい方も是非本書を活用していただきたいと思います。

CSJカレントレビューとケミカルバイオロジー に関するケムステ過去記事

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学生。高分子合成専門。低分子・高分子を問わず、分子レベルでの創作が好きです。構造が格好よければ全て良し。生物学的・材料学的応用に繋がれば尚良し。Maitotoxinの全合成を待ち望んでいます。

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