概要
本書は、月刊誌「PHARM TECH JAPAN」で4年間にわたり連載した好評企画をまとめたもので、第I部「医薬品を支える化学」、第II部「創薬を目指す医薬品化学」、第III部「最近の創薬に思う」の三部構成である。それぞれを独立して読むこともでき、研究者だけでなく、薬剤師、薬学部生、その他、くすりに携わるすべての人に読んでいただきたい1冊。「グレープフルーツジュースの謎」では、その謎を構造式から紐解き、その他にも「セルロースはなぜ水に溶けないの」?など、有機化学の視点からさまざまな現象の謎を解明する指南書。
対象
- 創薬・医薬品合成に興味がある方
- 薬学系の大学生
解説
著者の2人とお会いしお話することがあり、ちょうど完成したこの書籍を献本いただいた。著者のひとり、夏苅氏は武田薬品工業で創薬研究所所長まで歴任したバリバリのお薬合成屋さんである。その後、大学に移り帝京大学時代に高橋教授(現東京理科大学・教授)と月刊誌に共同執筆した内容をまとめて書籍として発売したようである。内容は、三部構成。
第一部は医薬品を支える有機化学として、有機化学の基礎から説明を行っている。とはいえ、普通の有機化学の教科書と違うのはタイトル通り、医薬品を理解するための有機化学の基礎だということだ。もちろん、酸・塩基、共鳴構造・キラリティー、置換・付加反応、カルボニルの化学という低分子の化合物から生体分子の構成要素であるタンパク質(アミノ酸・ペプチド)や糖まで俯瞰して解説してある。しかし、その裏には「医薬品の構造や薬理を説明するために最低限の知識を伝えるよ」という著者の意思が見え隠れしている(そう思うのは私だけか?)。もちろん途中に、何度も医薬品に関するコラムが登場する。
基礎的内容のあとは、一転して、ノーベル賞と有機合成・光化学・そして有機触媒など、古典的から最新の有機化学まで誘う形で第一章が終わる。もちろん、生物化成物質にこれらがどう関わっていくのかという解説付きである。
第二部は、創薬を目指す有機化学。創薬化学の用語(バイオアイソスターやファーマコア、拮抗薬、阻害薬・ルールオブファイブなど)がばんばんでてくる。ただ中身は難解なものではなく、読み物として読めるレベルの創薬化学の基礎的な内容である。第一部でまなんだ有機化学の基礎に加えて、創薬化学で知っておいてほしい用語を解説し、なにをいっているのかわからない!という状態を防ぐためのものであろう。
さらには、創薬化学におけるフッ素の重要性、プロドラッグ、キラルスイッチ医薬品、軸不斉医薬品、フラットランドからの脱出など、実際に発売されている医薬品の例を示し解説している。この部分もかなり読み物要素が強い。
第三部は、最近の創薬に思う、ということで、完全に読み物だ。創薬化学に興味があるひとならば、基礎的な内容を学んでいる間にこちらから読んでしまう人がいるかもしれない。
というわけで、全体的に読み物要素が強く、独学でも読み進めていくことができるようになっている。有機化学の基礎的な部分は大学学部1年生から3年生程度までであるが、創薬化学に関してはかなり細かい基礎用語まで網羅している。講義に使えそうな内容も多々見られたので、参考にしたいと思う。
紙面のほんの一部を雰囲気がわかるように適当に掲載