「軌道の見方がわかる!有機反応を一貫して軌道論に基づいて解説。新しい有機化学を切り拓く読者へ贈る入魂の一冊」
(引用:書籍の帯)
昨年末刊行された「フロンティア軌道論で理解する有機化学」をご存じでしょうか。
今回はこの本についてご紹介させていただきたいと思います。
内容
量子論に基づくフロンティア軌道論は,有機電子論では難しかった筋の通った説明を有機化学に与えうる.本書の精緻な軌道図とその解説は,複雑な計算なしに学生や有機化学者の軌道図を見る目を養う.現代の有機化学に必要なエッセンスをコンパクトにまとめた意欲作.
(引用:化学同人による書籍紹介ページ)
その本の名の通り、フロンティア軌道論を用いて有機化学の基礎的な反応を理解していこうという本です。
対象
- 有機化学を学ぶすべての人
- 軌道論が軌道計算式ばかりでとっつきづらいと感じている人
本書の構成
- 序章 軌道論のすすめ
- 1章 構造と結合に関する軌道論
- 2章 反応と機構に関する軌道論
- 3章 軌道論の基礎固め
- 4章 代表的な反応剤のHOMO,LUMO
- 5章 HOMO,LUMOからみた有機反応
いきなり反応について学ぶのではなく、結合の軌道論を学び(1章)、反応を見る際に必要となる基礎的な軌道について学んでいき(2章)、・・・と段階的に学んでいくことにより有機反応をフロンティア軌道論によって理解することができます。
反応に関してはカルボニル化合物への求核攻撃やヒドロホウ素化、金属カップリングに至るまで、学部生が授業で学ぶ有機化学の反応の軌道論はほぼ網羅されています。
以下に私が個人的にこんな基礎概念も本書の軌道論からわかりやすく学べますよというものを何個かご紹介します。
立体反発って何?
みなさんは立体反発という言葉を何気なく使ってはいませんでしょうか。
便利な言葉ではあるため、よく用いて反応の機構を説明することかと思います。
使うに当たっては、意味(その由来)をよく理解した上で、その説明を省略するために用いるということがよいかと思いますが学会などで稀に誤った用法が見受けられます。
この本の中では、立体反発がどこに起因しているのかというのを軌道間相互作用を可視化して記載しているため、だれにでも理解できるように構成されています。
ゴーシュ効果
ゴーシュ効果といったらみなさんもご存じかと思います。
それではゴーシュ配座はなぜそのような配座をとっているのでしょうか。
それこそ立体反発のみで考える方も多いかと思います。
しかし、本書で記載されている分子軌道論による説明を読めば化合物によってはそれだけではないということがわかります。
たとえば、エタンの両炭素に立体的に嵩高い置換基がついていた場合にはその分子は置換基がアンチペリプラナーの関係になるような配座をとると知られています。
しかしながら1,2-ジフルオロエタンではそのような配座よりもゴーシュ配座の方が安定なのです。
本書ではそのような各基礎的な現象・概念の細かな部分も軌道論を用いて解説されており、それが可視化されているという点で読みやすい書となっています。
最後に
本書は有機分子を扱う方で、分子軌道論を学びたいと考えている初学者の方には強くおすすめする本です。