[スポンサーリンク]

化学書籍レビュー

Metal-Organic Frameworks: Applications in Separations and Catalysis

[スポンサーリンク]

[amazonjs asin=”352734313X” locale=”JP” title=”Metal-Organic Frameworks: Applications in Separations and Catalysis”]

内容

この参考書では分離, 吸着, および触媒に焦点を当て, このワクワクするようなアツい話題の重要性を示す. 本書では, MOF の合成と修飾, 産業的規模での合成, CO2 や化学兵器に対する吸着剤としての利用, そして触媒作用における欠陥の役割を述べる. さらに生体触媒, 光触媒そして光電機器のような新しい側面についても扱う.

(WILEY の書籍紹介のページの翻訳)

対象

  • MOF 研究者
  • 人の役に立つ材料を開発したいと本気で意気込む学生 (大学生以上)

解説

MOF の物質分離や触媒への応用に狭く深く切り込んだマニアックな書籍です。具体的な章立ては次の通りで、それぞれの章はその分野を専門とする研究者によって執筆されています。

  1. MOF の安定性
  2. 合成後修飾による MOF の性質の調節
  3. 工業的規模での MOF の合成
  4. 層状 MOF とそのメソ領域およびマイクロ領域での組織化
  5. MOF の CO2 分離への応用
  6. メタン貯蔵 MOF の最前線
  7. 化学兵器の吸収および分解のための MOF
  8. MOF 膜
  9. MOF の複合体: 合成と分離や触媒への応用
  10. MOF の合成前および合成後の機能化による触媒と分離への応用
  11. 触媒作用における欠陥の役割
  12. 液相反応中での不均一触媒としての MOF
  13. MOF に内包された金属ナノ粒子: 触媒への応用に向けて
  14. 生体触媒における酵素担体としての MOF
  15. 光触媒としての MOF

これらの章を内容別に分類すると、MOF の合成や修飾および工学的応用 (1-3 章と 9-10 章)、二次元 MOF (4 章)、物質分離 (5–8 章)、触媒 (11–15 章) となっています。

本書は MOF 研究の初心者にとって役立ちますか?

MOF の合成や修飾に関する章(1-3, 10 章) は、この分野への新参者にとって通読する価値があると感じました。それらの章は、MOF 研究の基礎的で一般的で実用的な話題が取り上げられているからです。具体的な内容は次の通りです。

1 章は 「MOF の安定性とはなんたるか」という疑問から始まり、MOF の安定性を向上させるための戦略が述べられています。例えば、 MOF の安定化法として、金属と配位子の組合せ方や MOF 外部の保護法などを学ぶことができます。ただし、いくつもの手法が単に羅列されているだけではありません。「ある用途の MOF を開発するためには、具体的にどんな安定性を重視すべきか」についても触れられています。そのため、この章を読めば MOF 開発における研究のセンスを身につけることができると思います。

2 章では、MOF を合成後に機能化する手法である合成後修飾 (Post-Synthetic Modification, PSM) について、その基礎から応用まで解説されています。具体的には、PSM をおおまかに分類した後で、MOF の特定の機能を向上させるためにはどのような PSM が有効であったかについての実例が紹介されています。 スキーム、模式図、写真が豊富に掲載されているため読みやすいと感じました。面白かったです

なお、 10 章でも PSM について解説されています。ただし、10 章では物質分離と触媒への応用に焦点を当てています。2 章よりも具体的で豊富な実例を学ぶことができます。

3 章には、MOF 合成におけるスケールアップの実例とともに、MOF を工業的に生産するにあたり考慮すべき点が紹介されています。例えば簡単に合成できる配位子を利用することなどです。言われてみれば当然ですが、「カッコいいMOF を作るぞー」と盲目になっていると見過ごしてしまう点かもしれません。

分離材料の研究をしてるんだけど、触媒の章も読むべきですか?

研究対象外の章に目を通してみても、面白い発見があるかもしれません

4 章以降ではMOF 研究の中でもさらに特定の研究分野について深く突っ込んでいくため、ドンピシャのテーマを研究している方には有益だろうと思います。一方で、自身の研究と関連しない章に関しては、個人的にやや退屈に感じてしまうこともありました。しかしパラパラと目を通していくと、思わず「へぇー」と唸ってしまうような情報を得ることもできました。例えば「11 章 触媒作用における欠陥の役割」が面白いと感じました。せっかくなので、11 章の内容を手短にお話します。

MOF の欠陥はルイス酸性部位になりえる

MOF は結晶性が高い化合物であると考えられていますが、MOF 構造中の欠陥が触媒活性の鍵を握ると認識され始めています。

MOF の典型的な触媒活性点には、 配位不飽和な金属サイト (Coorinatively Unsaturated Metal Site: CUS) が挙げられます。CUS はルイス酸性部位として作用するからです。 CUS を形成する方法には、 溶媒を配位子として含む MOF からその溶媒を除く方法がよく知られています。ただしこれは欠陥というよりも、MOF に生来与えられる CUS です。

触媒活性点を増やすために、CUS を欠陥として導入することはできないのでしょうか。その答えは「できる」であり、”切頭の配位子 (Truncated Linker)” を合成後修飾で導入することで達成できます。”切頭の配位子” とは、多くの MOF で用いられるような二箇所以上の配位点を持つ “双頭の配位子” の片方の頭を落とした配位子のことです。11 章では、その他の欠陥とその役割についても模式図や構造式を用いながら丁寧に解説されています。

切頭の配位子 (Truncated Linker) を合成後修飾で導入すると, 配位不飽和な金属サイトを形成できる

まとめ

本書の内容は、MOF を用いた分離材料および触媒を開発するにあたり一読の価値があると思います。特定の機能を付与させるための具体的なアイデアはもちろんですが、実用的な MOF に求められる条件は何かや、スケールアップの際に考慮すべき点まで解説されているからです。MOF を実用化して世の中の役に立てようと本気で意気込む研究者にとっては刺激的な本だと感じました。

関連記事

関連書籍

[amazonjs asin=”4759813632″ locale=”JP” title=”革新的な多孔質材料―空間をもつ機能性物質の創成 (CSJ Current Review 3)”]
Avatar photo

やぶ

投稿者の記事一覧

PhD候補生として固体材料を研究しています。学部レベルの基礎知識の解説から、最先端の論文の解説まで幅広く頑張ります。高専出身。

関連記事

  1. 交響曲第6番「炭素物語」
  2. 有機化学の理論―学生の質問に答えるノート
  3. 元素に恋して: マンガで出会う不思議なelementsの世界
  4. 生物活性分子のケミカルバイオロジー
  5. 有機スペクトル解析ワークブック
  6. 生体分子反応を制御する: 化学的手法による機構と反応場の解明
  7. 研究者としてうまくやっていくには ー組織の力を研究に活かすー
  8. 香料化学 – におい分子が作るかおりの世界

注目情報

ピックアップ記事

  1. 檜山クロスカップリング Hiyama Cross Coupling
  2. バートン脱アミノ化 Barton Deamination
  3. 【ケムステSlackに訊いてみた③】化学で美しいと思うことを教えて!
  4. 英文校正会社が教える 英語論文のミス100
  5. 酢酸フェニル水銀 (phenylmercuric acetate)
  6. 抗体ペアが抗原分子上に反応場をつくり出す―2つの抗体エピトープを利用したテンプレート反応の開発―
  7. これからの理系の転職について考えてみた
  8. 近況報告PartI
  9. フリー素材の化学イラストを使ってみよう!
  10. ビス[α,α-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼンメタノラト]ジフェニルサルファー : Bis[alpha,alpha-bis(trifluoromethyl)benzenemethanolato]diphenylsulfur

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2018年6月
 123
45678910
11121314151617
18192021222324
252627282930  

注目情報

最新記事

有機合成化学協会誌2024年12月号:パラジウム-ヒドロキシ基含有ホスフィン触媒・元素多様化・縮環型天然物・求電子的シアノ化・オリゴペプチド合成

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2024年12月号がオンライン公開されています。…

「MI×データ科学」コース ~データ科学・AI・量子技術を利用した材料研究の新潮流~

 開講期間 2025年1月8日(水)、9日(木)、15日(水)、16日(木) 計4日間申込みはこ…

余裕でドラフトに収まるビュッヒ史上最小 ロータリーエバポレーターR-80シリーズ

高性能のロータリーエバポレーターで、効率良く研究を進めたい。けれど設置スペースに限りがあり購入を諦め…

有機ホウ素化合物の「安定性」と「反応性」を両立した新しい鈴木–宮浦クロスカップリング反応の開発

第 635 回のスポットライトリサーチは、広島大学大学院・先進理工系科学研究科 博士…

植物繊維を叩いてアンモニアをつくろう ~メカノケミカル窒素固定新合成法~

Tshozoです。今回また興味深い、農業や資源問題の解決の突破口になり得る窒素固定方法がNatu…

自己実現を模索した50代のキャリア選択。「やりたいこと」が年収を上回った瞬間

50歳前後は、会社員にとってキャリアの大きな節目となります。定年までの道筋を見据えて、現職に留まるべ…

イグノーベル賞2024振り返り

ノーベル賞も発表されており、イグノーベル賞の紹介は今更かもしれませんが紹介記事を作成しました。 …

亜鉛–ヒドリド種を持つ金属–有機構造体による高温での二酸化炭素回収

亜鉛–ヒドリド部位を持つ金属–有機構造体 (metal–organic frameworks; MO…

求人は増えているのになぜ?「転職先が決まらない人」に共通する行動パターンとは?

転職市場が活発に動いている中でも、なかなか転職先が決まらない人がいるのはなぜでしょう…

三脚型トリプチセン超分子足場を用いて一重項分裂を促進する配置へとペンタセンクロモフォアを集合化させることに成功

第634回のスポットライトリサーチは、 東京科学大学 物質理工学院(福島研究室)博士課程後期3年の福…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP