内容
この参考書では分離, 吸着, および触媒に焦点を当て, このワクワクするようなアツい話題の重要性を示す. 本書では, MOF の合成と修飾, 産業的規模での合成, CO2 や化学兵器に対する吸着剤としての利用, そして触媒作用における欠陥の役割を述べる. さらに生体触媒, 光触媒そして光電機器のような新しい側面についても扱う.
(WILEY の書籍紹介のページの翻訳)
対象
- MOF 研究者
- 人の役に立つ材料を開発したいと本気で意気込む学生 (大学生以上)
解説
MOF の物質分離や触媒への応用に狭く深く切り込んだマニアックな書籍です。具体的な章立ては次の通りで、それぞれの章はその分野を専門とする研究者によって執筆されています。
- MOF の安定性
- 合成後修飾による MOF の性質の調節
- 工業的規模での MOF の合成
- 層状 MOF とそのメソ領域およびマイクロ領域での組織化
- MOF の CO2 分離への応用
- メタン貯蔵 MOF の最前線
- 化学兵器の吸収および分解のための MOF
- MOF 膜
- MOF の複合体: 合成と分離や触媒への応用
- MOF の合成前および合成後の機能化による触媒と分離への応用
- 触媒作用における欠陥の役割
- 液相反応中での不均一触媒としての MOF
- MOF に内包された金属ナノ粒子: 触媒への応用に向けて
- 生体触媒における酵素担体としての MOF
- 光触媒としての MOF
これらの章を内容別に分類すると、MOF の合成や修飾および工学的応用 (1-3 章と 9-10 章)、二次元 MOF (4 章)、物質分離 (5–8 章)、触媒 (11–15 章) となっています。
本書は MOF 研究の初心者にとって役立ちますか?
MOF の合成や修飾に関する章(1-3, 10 章) は、この分野への新参者にとって通読する価値があると感じました。それらの章は、MOF 研究の基礎的で一般的で実用的な話題が取り上げられているからです。具体的な内容は次の通りです。
1 章は 「MOF の安定性とはなんたるか」という疑問から始まり、MOF の安定性を向上させるための戦略が述べられています。例えば、 MOF の安定化法として、金属と配位子の組合せ方や MOF 外部の保護法などを学ぶことができます。ただし、いくつもの手法が単に羅列されているだけではありません。「ある用途の MOF を開発するためには、具体的にどんな安定性を重視すべきか」についても触れられています。そのため、この章を読めば MOF 開発における研究のセンスを身につけることができると思います。
2 章では、MOF を合成後に機能化する手法である合成後修飾 (Post-Synthetic Modification, PSM) について、その基礎から応用まで解説されています。具体的には、PSM をおおまかに分類した後で、MOF の特定の機能を向上させるためにはどのような PSM が有効であったかについての実例が紹介されています。 スキーム、模式図、写真が豊富に掲載されているため読みやすいと感じました。面白かったです。
なお、 10 章でも PSM について解説されています。ただし、10 章では物質分離と触媒への応用に焦点を当てています。2 章よりも具体的で豊富な実例を学ぶことができます。
3 章には、MOF 合成におけるスケールアップの実例とともに、MOF を工業的に生産するにあたり考慮すべき点が紹介されています。例えば簡単に合成できる配位子を利用することなどです。言われてみれば当然ですが、「カッコいいMOF を作るぞー」と盲目になっていると見過ごしてしまう点かもしれません。
分離材料の研究をしてるんだけど、触媒の章も読むべきですか?
研究対象外の章に目を通してみても、面白い発見があるかもしれません。
4 章以降ではMOF 研究の中でもさらに特定の研究分野について深く突っ込んでいくため、ドンピシャのテーマを研究している方には有益だろうと思います。一方で、自身の研究と関連しない章に関しては、個人的にやや退屈に感じてしまうこともありました。しかしパラパラと目を通していくと、思わず「へぇー」と唸ってしまうような情報を得ることもできました。例えば「11 章 触媒作用における欠陥の役割」が面白いと感じました。せっかくなので、11 章の内容を手短にお話します。
MOF の欠陥はルイス酸性部位になりえる
MOF は結晶性が高い化合物であると考えられていますが、MOF 構造中の欠陥が触媒活性の鍵を握ると認識され始めています。
MOF の典型的な触媒活性点には、 配位不飽和な金属サイト (Coorinatively Unsaturated Metal Site: CUS) が挙げられます。CUS はルイス酸性部位として作用するからです。 CUS を形成する方法には、 溶媒を配位子として含む MOF からその溶媒を除く方法がよく知られています。ただしこれは欠陥というよりも、MOF に生来与えられる CUS です。
触媒活性点を増やすために、CUS を欠陥として導入することはできないのでしょうか。その答えは「できる」であり、”切頭の配位子 (Truncated Linker)” を合成後修飾で導入することで達成できます。”切頭の配位子” とは、多くの MOF で用いられるような二箇所以上の配位点を持つ “双頭の配位子” の片方の頭を落とした配位子のことです。11 章では、その他の欠陥とその役割についても模式図や構造式を用いながら丁寧に解説されています。
切頭の配位子 (Truncated Linker) を合成後修飾で導入すると, 配位不飽和な金属サイトを形成できる
まとめ
本書の内容は、MOF を用いた分離材料および触媒を開発するにあたり一読の価値があると思います。特定の機能を付与させるための具体的なアイデアはもちろんですが、実用的な MOF に求められる条件は何かや、スケールアップの際に考慮すべき点まで解説されているからです。MOF を実用化して世の中の役に立てようと本気で意気込む研究者にとっては刺激的な本だと感じました。