[スポンサーリンク]

化学書籍レビュー

天然有機化合物の全合成:独創的なものづくりの反応と戦略

[スポンサーリンク]

[amazonjs asin=”475981387X” locale=”JP” title=”天然有機化合物の全合成:独創的なものづくりの反応と戦略 (CSJカレントレビュー)”]

概要

生物活性天然有機化合物(天然物)は生命の40億年にわたる進化によって選択された高機能分子であり,特別な機能をもつ.その天然物の全合成は創薬への応用など,科学的な重要性はきわめて高く,合成を効率化するためには,新反応と新合成戦略が必要不可欠である.本書では,近年発展した新反応と新合成戦略,およびその実用までをレビューする(引用;化学同人書籍紹介より).

対象者

  • 有機合成に興味がある化学者
  • 有機合成化学を学びたい大学院生
  • 天然物合成に興味がある学生
  • 有機合成化学の専門家

内容

本書は、化学同人社より出版されている「CSJ カレントレビュー」シリーズである。本シリーズは、分野外の人にも優しく説明があり、加えて最新化学もガッツリ学べる書籍として定評がある。本書は、シリーズ28番目の書籍であり、分子を扱った合成化学の花形、天然物合成を扱っている。

書籍の構成は他のCSJカレントレビューと同様で、分野の基本的なことが学べる「Part I 基礎概念と研究現場」、全力だけど出来る限り分かりやすく自身の研究を解説する「Part II 研究最前線」分野の革新的な論文や重要用語を解説する「Par III 役立つ情報・データ」である。

実をいうと、私もこの書籍にはかなり貢献していて、PartIの第一章にあるインタビューと、4章の触媒反応におけるものづくり基礎、そしてPart IIでは直接連結法による芳香族天然物の合成を執筆した。もちろん参照の有用HPサイト・データベースには拙ウェブサイトも掲載されている。

さて、肝心な本書の内容だが、いきなりまとめると最新合成化学のエッセンスが散りばめられており、ぜひとも分子レベルのものづくりロマンに浸ってほしいと思う。正直「なぜそれをつくるのか?」といった疑問に答えられる記事はほぼないが、そんなもの気にならないほど複雑分子の華麗な合成法に目を奪われる。そもそも、合成目標に関して壮大な目標があろうとも、つくれなければなにもできない。机上の空論である。だからこそ、分子レベルで何かをなそうと思っている研究者・研究者の卵には、少なくとも合成化学の真髄を紙面上でも学んでいただきたいと思う。

加えて、面白かったのはPart IのChap 2にある 天然物の全合成タイムスリップ。現在の精密有機合成化学に至る、もっと昔の分析さえできなかった時代の天然物合成(有機合成)について述べている。個人的な話になるが、時間の限られた講義のなかで私もできるかぎりここに掲載された話を取り上げている。私はもちろん体験したわけでもなく便利な時代に育った、新世代人間なのかもしれない。しかし、右も左もわからない時代に合成化学に切り込んでいった開拓者たちの歩んだ道程は、歴史好きの大河ドラマのようなもので化学好きにはたまらなく楽しい。内容は裏話のようなものではなく、かなり一般的で平易なものなので、大学生にも読めるだろう。ちなみに、私はこういう話を目を輝かせて聞くような学生と一緒に研究をしたい。

ちなみに本書の刊行を記念して、先の日本化学会年会にて特別シンポジウムを行った。私自身は他の講演もあり全然参加できなかったのと、2日前にもう少し簡略した内容を英語で話したため、日本語が出てこずいまいちであったが、最終日に多くの人が集まってシンポジウムは大盛況であった。ぜひともお買い求めください

(一応断りを入れておきますが、この書籍がものすごく売れたとしても、私や関係者の先生方には一銭もはいってきません)

Avatar photo

webmaster

投稿者の記事一覧

Chem-Station代表。早稲田大学理工学術院教授。専門は有機化学。主に有機合成化学。分子レベルでモノを自由自在につくる、最小の構造物設計の匠となるため分子設計化学を確立したいと考えている。趣味は旅行(日本は全県制覇、海外はまだ20カ国ほど)、ドライブ、そしてすべての化学情報をインターネットで発信できるポータルサイトを作ること。

関連記事

  1. なぜあなたの研究は進まないのか?
  2. 食品添加物はなぜ嫌われるのか: 食品情報を「正しく」読み解くリテ…
  3. 【書籍】「世界一美しい数学塗り絵」~宇宙の紋様~
  4. Guide to Fluorine NMR for Organi…
  5. 【書評】現場で役に立つ!臨床医薬品化学
  6. 【書籍】機器分析ハンドブック3 固体・表面分析編
  7. 二次元物質の科学 :グラフェンなどの分子シートが生み出す新世界
  8. セールスコピー大全: 見て、読んで、買ってもらえるコトバの作り方…

注目情報

ピックアップ記事

  1. 製薬業界の現状
  2. 人名反応から学ぶ有機合成戦略
  3. バーゼル Basel:製薬・農薬・化学が集まる街
  4. 普通じゃ満足できない元素マニアのあなたに:元素手帳2016
  5. 有機合成化学協会誌2023年1月号:[1,3]-アルコキシ転位・クロロシラン・インシリコ技術・マイトトキシン・MOF
  6. 最新有機合成法: 設計と戦略
  7. 2残基ずつペプチド鎖を伸長できる超高速マイクロフロー合成法を開発
  8. ノーベル賞化学者と語り合おう!「リンダウ・ノーベル賞受賞者会議」募集開始
  9. リンダウ会議に行ってきた②
  10. 特長のある豊富な設備:ライトケミカル工業

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2018年4月
 1
2345678
9101112131415
16171819202122
23242526272829
30  

注目情報

最新記事

【スポットライトリサーチ】汎用金属粉を使ってアンモニアが合成できたはなし

Tshozoです。 今回はおなじみ、東京大学大学院 西林研究室からの研究成果紹介(第652回スポ…

第11回 野依フォーラム若手育成塾

野依フォーラム若手育成塾について野依フォーラム若手育成塾では、国際企業に通用するリーダー…

第12回慶應有機化学若手シンポジウム

概要主催:慶應有機化学若手シンポジウム実行委員会共催:慶應義塾大学理工学部・…

新たな有用活性天然物はどのように見つけてくるのか~新規抗真菌剤mandimycinの発見~

こんにちは!熊葛です.天然物は複雑な構造と有用な活性を有することから多くの化学者を魅了し,創薬に貢献…

創薬懇話会2025 in 大津

日時2025年6月19日(木)~6月20日(金)宿泊型セミナー会場ホテル…

理研の研究者が考える未来のバイオ技術とは?

bergです。昨今、環境問題や資源問題の関心の高まりから人工酵素や微生物を利用した化学合成やバイオテ…

水を含み湿度に応答するラメラ構造ポリマー材料の開発

第651回のスポットライトリサーチは、京都大学大学院工学研究科(大内研究室)の堀池優貴 さんにお願い…

第57回有機金属若手の会 夏の学校

案内:今年度も、有機金属若手の会夏の学校を2泊3日の合宿形式で開催します。有機金…

高用量ビタミンB12がALSに治療効果を発揮する。しかし流通問題も。

2024年11月20日、エーザイ株式会社は、筋萎縮性側索硬化症用剤「ロゼバラミン…

第23回次世代を担う有機化学シンポジウム

「若手研究者が口頭発表する機会や自由闊達にディスカッションする場を増やし、若手の研究活動をエンカレッ…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー