概要
生物活性天然有機化合物(天然物)は生命の40億年にわたる進化によって選択された高機能分子であり,特別な機能をもつ.その天然物の全合成は創薬への応用など,科学的な重要性はきわめて高く,合成を効率化するためには,新反応と新合成戦略が必要不可欠である.本書では,近年発展した新反応と新合成戦略,およびその実用までをレビューする(引用;化学同人書籍紹介より).
対象者
- 有機合成に興味がある化学者
- 有機合成化学を学びたい大学院生
- 天然物合成に興味がある学生
- 有機合成化学の専門家
内容
本書は、化学同人社より出版されている「CSJ カレントレビュー」シリーズである。本シリーズは、分野外の人にも優しく説明があり、加えて最新化学もガッツリ学べる書籍として定評がある。本書は、シリーズ28番目の書籍であり、分子を扱った合成化学の花形、天然物合成を扱っている。
書籍の構成は他のCSJカレントレビューと同様で、分野の基本的なことが学べる「Part I 基礎概念と研究現場」、全力だけど出来る限り分かりやすく自身の研究を解説する「Part II 研究最前線」分野の革新的な論文や重要用語を解説する「Par III 役立つ情報・データ」である。
実をいうと、私もこの書籍にはかなり貢献していて、PartIの第一章にあるインタビューと、4章の触媒反応におけるものづくり基礎、そしてPart IIでは直接連結法による芳香族天然物の合成を執筆した。もちろん参照の有用HPサイト・データベースには拙ウェブサイトも掲載されている。
さて、肝心な本書の内容だが、いきなりまとめると最新合成化学のエッセンスが散りばめられており、ぜひとも分子レベルのものづくりロマンに浸ってほしいと思う。正直「なぜそれをつくるのか?」といった疑問に答えられる記事はほぼないが、そんなもの気にならないほど複雑分子の華麗な合成法に目を奪われる。そもそも、合成目標に関して壮大な目標があろうとも、つくれなければなにもできない。机上の空論である。だからこそ、分子レベルで何かをなそうと思っている研究者・研究者の卵には、少なくとも合成化学の真髄を紙面上でも学んでいただきたいと思う。
加えて、面白かったのはPart IのChap 2にある 天然物の全合成タイムスリップ。現在の精密有機合成化学に至る、もっと昔の分析さえできなかった時代の天然物合成(有機合成)について述べている。個人的な話になるが、時間の限られた講義のなかで私もできるかぎりここに掲載された話を取り上げている。私はもちろん体験したわけでもなく便利な時代に育った、新世代人間なのかもしれない。しかし、右も左もわからない時代に合成化学に切り込んでいった開拓者たちの歩んだ道程は、歴史好きの大河ドラマのようなもので化学好きにはたまらなく楽しい。内容は裏話のようなものではなく、かなり一般的で平易なものなので、大学生にも読めるだろう。ちなみに、私はこういう話を目を輝かせて聞くような学生と一緒に研究をしたい。
ちなみに本書の刊行を記念して、先の日本化学会年会にて特別シンポジウムを行った。私自身は他の講演もあり全然参加できなかったのと、2日前にもう少し簡略した内容を英語で話したため、日本語が出てこずいまいちであったが、最終日に多くの人が集まってシンポジウムは大盛況であった。ぜひともお買い求めください
(一応断りを入れておきますが、この書籍がものすごく売れたとしても、私や関係者の先生方には一銭もはいってきません)