概要
アルカロイドはその顕著な生物活性のため,さまざまな学問進展の「原動力」として注目され続け,医薬品開発の鍵化合物としても重要な役割を担っている.
本書は生薬学,天然物化学,有機合成化学,生化学,薬理学,毒性学,創薬化学,分析化学といった各分野におけるアルカロイドの基礎的な内容から最新の研究成果までを盛り込んだ待望の成書である.アルカロイドの研究体系とその広がりを俯瞰できる(引用:化学同人)
対象
- 有機化学者
- 天然物化学者
- 医薬品・ケミカルバイオロジー関係の研究者
内容
アルカロイドの書籍が出版されたという話を聞き、早速手に入れた。編者は「Dr.アルカロイド」(勝手に名付けました)である千葉大学高山廣光先生だ。高山先生は個人的に化学も然ることながら、人間的にもステキな先生である。アルカロイドファン?の一人として購入。
早速届いた書籍をみてみると、あれ?なんかこれめちゃくちゃ分厚くない?
なんとページ数は560ページもある。確かにアルカロイドのことを語れば、数千ページでも足りないくらいだが、ニッチな同人シリーズにおいても最多ページだ。目次もみてみると、これまた長い。第25章まである。ここに掲載するのを戸惑うぐらい長いので、目次はここをご覧あれ。
さて、中身について述べると、一言で言えば、「アルカロイド祭り」である。アルカロイドに関連する研究者がいい意味で好き勝手に自分のアルカロイド科学を語っている。
アルカロイドってなんぞや?というひとはケムステ読者にはあまりいないと思うが、広義には窒素を含む化合物のこと。遠い昔は植物から取られたアルカリ性を示す化合物をアルカリっぽい化合物でアルカロイドといったが、植物だけでなく、海洋や微生物や昆虫、動物そこらじゅうにある含窒素化合部物で、現在2万種以上の化合物が知られている。
知られている化合物で言えば、タバコのニコチンや、鎮痛剤であるモルヒネ、世の中にある危険度ドラッグもすべてアルカロイドあるが、「ほほう、それがアルカロイドか。」と思った人はこのへんで満足し、この書籍には手を出さないほうがよい。
もう一度いうが、そんな化合物群の天然からの単離や構造決定、合成、生合成、ケミカルバイオロジー、医薬品などなど有機化合物の構造満載の「アルカロイド祭り」なので、一般的にはまったく理解できないであろう。
この書籍が適している人は、こんな化合物群を手に取り研究し始めた研究者の卵(大学4年生〜大学院生以上)や、アルカイドに青春をかけようとする若者達だ。
洋書にはアルカイドの名著はたくさんあるが、ここまでたくさんアルカロイドづくしの日本語書籍はみたことがない。筆者もアルカロイド研究にどっぷり使っていた身であるので、知っている部分は多いものの、楽しく読むことができた。
中身に少し触れてみると、
アルカロイドは種々多様な構造を有していおり、それらを人工合成するアルカロイドの全合成の項もたくさんページ数を割いている。個人的にはほとんど知っている内容・研究者であったがまとめてみると大変勉強になる。折角なので、パラウアミンのようなピロールーイミダゾールアルカロイドの全合成も個人的にはぜひ取り上げてほしかった。
第19章ではアルカロイドに関わる医薬品がまとめて網羅されているのもよい。アルカロイドをリード化合物としてデザインされた医薬品の経緯についても記載されており、大変わかりやすい。
長瀬先生が執筆されている第20章「オピオイドのドラッグデザインと医薬品開発」はモルヒネなどに代表されるアルカロイド鎮痛薬の医薬品開発について述べている。メディシナルケミストリーの基礎であり、スムーズに読むことができた。
これ以外にも第25章に記載のある「危険ドラッグの分析化学」が面白かった。危険ドラッグの構造決定かと思いきや、危険ドラッグ内にある微量の異性体や副生成物について構造を決めている。純度が問題になることが多い危険ドラッグだが(もちろん本体もよろしくない)、その健康被害はこれら異性体や副生成物からくるものも多いという。それらの分析方法がなかなか参考になった。
以上、乱筆となるが、総じてアルカロイドマニアならばさらりと楽しく読める内容、そうでなくとも化合物の構造を理解できる人なら歴史あるアルカロイド科学を俯瞰することができる、良書であるといえる。値段が少し高いのが玉にキズであるが研究室に1冊ぜひ購入してみてみてはいかがだろうか。