内容
世界市場において日本の国際競争力の低下傾向が続いており、製造業のシェアは年々低下、化学産業においてもここ四半世紀の間に世界の化学工業の構造は大きく変化しました。
本書は、経営戦略の立案から工業化・事業化に至るまで一貫した企業活動における研究開発活動との関わり合いが理解できるよう、(1) 研究開発テーマの決定、実行、マネジメントの手法、(2) リーダーに求められる資質・能力・役割などを含む人材育成、(3) 研究開発の推進、知的財産、成果と評価などを「現場の視点」から実践的に解説。また、経営・企業戦略をより効果的に立案するためにグローバル化に伴う欧米・日本の化学企業の変貌と動向、直面する課題や目指すべき方向についても触れています。
企業で活躍する研究者、技術者や人材育成に携わる実務者、大学生や技術系大学院生などの必読書です。 (引用 : 書籍紹介のページより)
対象者
- 研究のマネジメントを行っている企業の研究者:実践的内容
- 企業の研究戦略に興味があり、将来そのような役割を担いたい学生:興味探索的内容
目次
はじめに
第1章 序 論
第2章 経営戦略の立案・策定
第3章 技術戦略の立案・策定
第4章 企業における研究開発組織
第5章 企業における研究開発
第6章 研究開発のマネジメント
第7章 企業価値創出のための研究開発における人材育成
第8章 研究開発に係るその他の重要事項
第9章 事業化(工業化)へのステップ
第10章 工業化のフォローアップ
第11章 研究開発の失敗と成功
第12章 グローバル化に伴う欧米及び日本の化学企業の変貌と動向
第13章 研究開発のグローバル化
内容
第2章では、企業の経営戦略に関して解説しており、役員レベルの視点で経営戦略を考えるための内容です。第3章では、研究に視点を絞り、研究部長といったような役職の人が研究戦略を決定するために必要な内容を解説しています。第4章、第5章では、研究組織とプロセスについて解説しています。第6章、第7章では、研究員とプロジェクトのマネジメントについて解説しています。第8章では、知的財産について触れ、第9章、第10章では、事業化=商品化までのステップについて紹介して第11章では、実際の成功例と失敗例を解説しています。最後に第12、13章で、海外企業のトレンドについて触れ、日本企業が目指すべき方向について筆者の考えが載せられています。
解説
理論を解説する本は難解な文章が羅列されているイメージですが、この本では図が多く載せられていて理解しやすく書かれています。さらには筆者の体験や大手企業や国のHPに書かれている多数の引用が、理解を深める助けになっていて、研究マネジメントに関する本を読んだことがない私でもとても興味深く最後まで読むことができました。
本の前半では、組織・プロジェクト全体のことに解説しており会社の研究戦略の作られ方について理解することができます。興味深い内容の一例をあげると、企業の研究では、いくつものステップ(「アイデア・基礎研究」→「応用(開発)研究」→「設計・製造」→「販売」)がありますが、上のステップに進む際にはゲートがあり、それをステップごとに「魔の川」「死の谷」「ダーウィンの海」と呼んでいます。これらのゲートをどう開け閉めするかが会社の成功を考える上で重要であることがわかります。
ヒューマンマネジメント、具体的には研究チームやキャリアデザインについても触れていて、リーダーとマネージャーの違いと適任者、研究チームの組織論やリーダーの配置の仕方などが特に興味深かったです。書かれている内容は、組織を作る時だけでなく、自分が作られた組織の中にいる時にどう立ち回るべきかを考える際にも参考になると私は思います。
第11章の実際の成功例と失敗例では、一例ですが、失敗例も例示されていてどうして失敗要因を知ることができます。プロジェクトのサクセスストーリーは簡単に知ることができますが、事故以外の失敗例は表面には表れない情報なので、とても参考になると思います。成功例では、ダイセルの主力製品であるキラルカラムの開発の歴史について紹介しています。
最後のパートでは、ビジネスのグローバル化において、必要な考えである欧米企業と日本企業の考え方の違いや海外企業の現状が紹介されていて、日本の企業人が国外に積極的に出ていきグローバルな視点を得る必要性を感じました。
大事な点は、研究戦略は、経営戦略・知財・ヒューマンマネジメントの上に成り立つものであるということだと考えます。そして更なる研究戦略の理解のためには、それぞれに関する専門書を読むきっかけになるかもしれません。研究者はまず目の前の実験・研究に全力すべきですが、今後のキャリアを見据えてこのような理論を勉強することも必要だと思います。企業の研究者であれば、いつか現場を離れる日が来る人がほとんどです。その時にこの本が紹介している研究を支える仕事の重要性を感じることができるのではないでしょうか。