[スポンサーリンク]

仕事術

化学産業を担う人々のための実践的研究開発と企業戦略

[スポンサーリンク]

[amazonjs asin=”4873266831″ locale=”JP” title=”改訂版 実践的研究開発と企業戦略”]

内容

 世界市場において日本の国際競争力の低下傾向が続いており、製造業のシェアは年々低下、化学産業においてもここ四半世紀の間に世界の化学工業の構造は大きく変化しました。
本書は、経営戦略の立案から工業化・事業化に至るまで一貫した企業活動における研究開発活動との関わり合いが理解できるよう、(1) 研究開発テーマの決定、実行、マネジメントの手法、(2) リーダーに求められる資質・能力・役割などを含む人材育成、(3) 研究開発の推進、知的財産、成果と評価などを「現場の視点」から実践的に解説。また、経営・企業戦略をより効果的に立案するためにグローバル化に伴う欧米・日本の化学企業の変貌と動向、直面する課題や目指すべき方向についても触れています。
企業で活躍する研究者、技術者や人材育成に携わる実務者、大学生や技術系大学院生などの必読書です。 (引用 : 書籍紹介のページより)

対象者

  • 研究のマネジメントを行っている企業の研究者:実践的内容
  • 企業の研究戦略に興味があり、将来そのような役割を担いたい学生:興味探索的内容

目次

はじめに
第1章 序 論
第2章 経営戦略の立案・策定
第3章 技術戦略の立案・策定
第4章 企業における研究開発組織
第5章 企業における研究開発
第6章 研究開発のマネジメント
第7章 企業価値創出のための研究開発における人材育成
第8章 研究開発に係るその他の重要事項
第9章 事業化(工業化)へのステップ
第10章 工業化のフォローアップ
第11章 研究開発の失敗と成功
第12章 グローバル化に伴う欧米及び日本の化学企業の変貌と動向
第13章 研究開発のグローバル化

内容

第2章では、企業の経営戦略に関して解説しており、役員レベルの視点で経営戦略を考えるための内容です。第3章では、研究に視点を絞り、研究部長といったような役職の人が研究戦略を決定するために必要な内容を解説しています。第4章、第5章では、研究組織とプロセスについて解説しています。第6章、第7章では、研究員とプロジェクトのマネジメントについて解説しています。第8章では、知的財産について触れ、第9章、第10章では、事業化=商品化までのステップについて紹介して第11章では、実際の成功例と失敗例を解説しています。最後に第12、13章で、海外企業のトレンドについて触れ、日本企業が目指すべき方向について筆者の考えが載せられています。

解説

理論を解説する本は難解な文章が羅列されているイメージですが、この本では図が多く載せられていて理解しやすく書かれています。さらには筆者の体験や大手企業や国のHPに書かれている多数の引用が、理解を深める助けになっていて、研究マネジメントに関する本を読んだことがない私でもとても興味深く最後まで読むことができました。

本の前半では、組織・プロジェクト全体のことに解説しており会社の研究戦略の作られ方について理解することができます。興味深い内容の一例をあげると、企業の研究では、いくつものステップ(「アイデア・基礎研究」→「応用(開発)研究」→「設計・製造」→「販売」)がありますが、上のステップに進む際にはゲートがあり、それをステップごとに「魔の川」「死の谷」「ダーウィンの海」と呼んでいます。これらのゲートをどう開け閉めするかが会社の成功を考える上で重要であることがわかります。

 

ヒューマンマネジメント、具体的には研究チームやキャリアデザインについても触れていて、リーダーとマネージャーの違いと適任者、研究チームの組織論やリーダーの配置の仕方などが特に興味深かったです。書かれている内容は、組織を作る時だけでなく、自分が作られた組織の中にいる時にどう立ち回るべきかを考える際にも参考になると私は思います。

第11章の実際の成功例と失敗例では、一例ですが、失敗例も例示されていてどうして失敗要因を知ることができます。プロジェクトのサクセスストーリーは簡単に知ることができますが、事故以外の失敗例は表面には表れない情報なので、とても参考になると思います。成功例では、ダイセルの主力製品であるキラルカラムの開発の歴史について紹介しています。

ダイセル社のキラルカラム (引用:ダイセルHP

最後のパートでは、ビジネスのグローバル化において、必要な考えである欧米企業と日本企業の考え方の違いや海外企業の現状が紹介されていて、日本の企業人が国外に積極的に出ていきグローバルな視点を得る必要性を感じました。

大事な点は、研究戦略は、経営戦略・知財・ヒューマンマネジメントの上に成り立つものであるということだと考えます。そして更なる研究戦略の理解のためには、それぞれに関する専門書を読むきっかけになるかもしれません。研究者はまず目の前の実験・研究に全力すべきですが、今後のキャリアを見据えてこのような理論を勉強することも必要だと思います。企業の研究者であれば、いつか現場を離れる日が来る人がほとんどです。その時にこの本が紹介している研究を支える仕事の重要性を感じることができるのではないでしょうか。

Avatar photo

Zeolinite

投稿者の記事一覧

ただの会社員です。某企業で化学製品の商品開発に携わっています。社内でのデータサイエンスの普及とDX促進が個人的な野望です。

関連記事

  1. 集積型金属錯体
  2. 世界のエリートが今一番入りたい大学 ミネルバ
  3. 【書評】奇跡の薬 16 の物語 ペニシリンからリアップ、バイアグ…
  4. 誰も教えてくれなかった 実験ノートの書き方 (研究を成功させるた…
  5. ヒューマンエラーを防ぐ知恵 増補版: ミスはなくなるか
  6. 有機反応の立体選択性―その考え方と手法
  7. English for Writing Research Pap…
  8. NMR in Organometallic Chemistry

注目情報

ピックアップ記事

  1. 製品開発職を検討する上でおさえたい3つのポイント
  2. 乙卯研究所 研究員募集 2022年度
  3. 【書籍】「世界一美しい数学塗り絵」~宇宙の紋様~
  4. 酢酸フェニル水銀 (phenylmercuric acetate)
  5. 金属容器いろいろ
  6. 「触媒的オリゴマー化」によるポリピロロインドリン類の全合成
  7. 吉岡里帆さんが出演する企業ブランド広告の特設サイト「DIC岡里帆の研究室」をリニューアル
  8. 有機合成化学協会誌2022年5月号:特集号 金属錯体が拓く有機合成
  9. ウェブサイトのリニューアル
  10. 化学の力で名画の謎を解き明かす

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2017年8月
 123456
78910111213
14151617181920
21222324252627
28293031  

注目情報

最新記事

有機合成化学協会誌2024年12月号:パラジウム-ヒドロキシ基含有ホスフィン触媒・元素多様化・縮環型天然物・求電子的シアノ化・オリゴペプチド合成

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2024年12月号がオンライン公開されています。…

「MI×データ科学」コース ~データ科学・AI・量子技術を利用した材料研究の新潮流~

 開講期間 2025年1月8日(水)、9日(木)、15日(水)、16日(木) 計4日間申込みはこ…

余裕でドラフトに収まるビュッヒ史上最小 ロータリーエバポレーターR-80シリーズ

高性能のロータリーエバポレーターで、効率良く研究を進めたい。けれど設置スペースに限りがあり購入を諦め…

有機ホウ素化合物の「安定性」と「反応性」を両立した新しい鈴木–宮浦クロスカップリング反応の開発

第 635 回のスポットライトリサーチは、広島大学大学院・先進理工系科学研究科 博士…

植物繊維を叩いてアンモニアをつくろう ~メカノケミカル窒素固定新合成法~

Tshozoです。今回また興味深い、農業や資源問題の解決の突破口になり得る窒素固定方法がNatu…

自己実現を模索した50代のキャリア選択。「やりたいこと」が年収を上回った瞬間

50歳前後は、会社員にとってキャリアの大きな節目となります。定年までの道筋を見据えて、現職に留まるべ…

イグノーベル賞2024振り返り

ノーベル賞も発表されており、イグノーベル賞の紹介は今更かもしれませんが紹介記事を作成しました。 …

亜鉛–ヒドリド種を持つ金属–有機構造体による高温での二酸化炭素回収

亜鉛–ヒドリド部位を持つ金属–有機構造体 (metal–organic frameworks; MO…

求人は増えているのになぜ?「転職先が決まらない人」に共通する行動パターンとは?

転職市場が活発に動いている中でも、なかなか転職先が決まらない人がいるのはなぜでしょう…

三脚型トリプチセン超分子足場を用いて一重項分裂を促進する配置へとペンタセンクロモフォアを集合化させることに成功

第634回のスポットライトリサーチは、 東京科学大学 物質理工学院(福島研究室)博士課程後期3年の福…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP