内容
この本は、有機リチウム化合物の基本性質について解説していて最新の合成的な発展を包括的にまとめている。パート1では、有機リチウム化合物の計算と分光学アプローチ、反応性の関係について書かれている。パート2では、新規合成法とリチウム化合物のの応用について解説されている。この本は、初学者にとってもアカデミックや産業で合成を行っている研究者にとっても有用な情報元である。(Willy社の解説ページ訳)
対象
有機合成や錯体化学を研究する学生から研究者
概要
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PART I: リチウム化合物の構造的局面
1. 有機リチウム化合物の構造と反応の関係性:配位子や溶媒、クラスター構造によるリチウムと各原子間距離の違いと反応性の考察
2. 計算化学的な見方:DFT計算によるリチウム試薬の反応性の解釈
3. Rapid-Injection NMRによる分光学的な検証:NMRによる低温と反応追跡測定による中間体の同定
4. DOSYと固体NMRによる有機リチウム化合物の解析:DOSYNMRとリチウム固体NMRによる重合構造の推定
5. リチウム混合錯体の合成と応用:リチウムと他のアルカリ金属・アルカリ度類金属の錯体の合成例と応用例 -
PART II: リチウム化合物の新規合成
6. 酸素を含むリチウム化合物に関する合成方法:安定/不安定なリチウムを経由する含酸素化合物の合成
7. 窒素を含むリチウム化合物に関する合成方法:リチウム試薬を利用した含窒素環状化合物の合成
8. 硫黄を含むリチウム化合物に関する合成方法:様々なタイプの硫黄化合物の合成
9. リンを含むリチウム化合物に関する合成方法:3/5価の有機リン化合物の合成
10. キラルなリチウムアミドの合成:リチウムアミド化合物の構造と反応への応用
11. カルボリチオ化:リチオ化体と各基質の反応例
12. 還元的リチウム反応:リチウムを使った還元反応
13. 脱芳香族とアリール転位反応:リチウム試薬を用いた脱芳香族とアリール転位反応
14. リチウムとボロン試薬:多段階反応におけるリチウムとボロンの試薬を用いた効率の良い合成戦略
15. アザヘテロ化合物:リチウム試薬を利用したアザヘテロ化合物の合成
16. クロスカップリング反応におけるリチウム化合物:リチウム化合物の触媒を利用したクロスカップリング反応
17. リチウム化学におけるマイクロリアクター合成:マイクロリアクターでの合成例とフローリアクターの設計
18. まとめ:反応のまとめとリチウム試薬を使用する際の安全対策
解説
概要の通り、リチウム化合物のことなら構造、反応、応用と何でも書いてある本です。構造に関しては、分光法による構造決定からターボグリニャール試薬のようなリチウムを含む複合錯体の存在に関して書かれています。反応に関してはBuLiといったメジャーな試薬の反応例から新しいリチウム試薬の反応開発についてまで一通り書かれています。まとめでは、反応性の高いリチウム試薬の取り扱いの注意からNMRの測定法まで研究ですぐに役に立つ情報が盛り込まれています。編集者は、イタリアのバーリ大学薬学部のRenzo Luisi教授とVito Capriati教授で、日本からは、京都工芸繊維大学 分子化学系 機能合成化学研究室の清水正毅先生と京都大学工学系研究科吉田研究室の永木愛一郎先生が著者に入っています。
リチウム化合物は、合成では反応性が高い重要な基質ですが、反応後は副生成物として捨てられる名脇役です。この書籍からそんな有機リチウムについて自分の専門とは異なる観点で探求してみてはいかがでしょうか。