概要
現代社会のさまざまなトピックからふさわしいテーマを選び,導入で化学にまつわる「おはなし」を紹介.ついで化学がそのトピックにどうにかかわるかを,「化学の概念」を織り交ぜながら解説する.化学(科学)のリテラシーや批判的思考力を養うことに重点が置かれ,化学の本質や面白さを実感できる構成となっている.ニュースに登場する科学を理解するための書.非化学系向けの化学のテキストに.(化学同人より)
対象
- 大学一年生の教養として
- もう少し化学に踏み込みたい高校生
- うまい化学の説明を探している大学教員
解説
化学同人から、8月20日に発売されたばかりの新書。大学1年生の有機化学を教えており、講義の雑談の幅をもたせようと思い購入した。開いてみると、圧倒されるほどカラフルな内容である。目次からカラフルで、こんなに飾った化学の書籍をみたことがない。内容のレベルは「教養としての化学入門」という名の通り、正直言ってベースは高校レベルの。有機化学でいえば、大学レベルの話は1つもない。ただし、環境問題や一般とのつながり、また身近に見られる化学の解説など、高校の化学の教科書はもちろん大学の教科書にも掲載されず、講義にもおそらくでてこないであろう内容がふんだんに散りばめてある。
また、本文はどうかというと、訳者も述べているが、化学をある程度学んだ読者には「うっとおしい」と感じられるくらい実にていねいに説明してある。これまでの教科書の文章とは全く異なる語り口調に近い文章だ。例えば、
ある物質に含まれる原子の数を追跡するとき、「炭素8原子、水素10原子、窒素4原子、酸素2原子を常に含む」といちいち書くのは面倒だろう。いくらか時間を節約するために、化学者はこの種の情報を書き出すための化学式(chemical formula)と呼ばれる速記術を編み出した。この速記術によると、カフェインの構造はC8H10N4O2となる。
と言った感じだ。「カフェインの構造は元素記号を用いた化学式で表すことが可能であり、C8H10N4O2となる。」といえば良いだけのところをここまで説明するのはすごい。引き込まれるように読むことができる。訳者は翻訳が大変であっただろう。自分で興味をもって読み進めていく書籍としては最高の部類に入ると思う。ただし、欠点は重要なところはどこなのかわからないところだ。教養の講義で使うのならば、脱線しすぎないように気をつけなければならない。とはいえど、講義の本質は化学に対する興味をもってもらったら成功、ポイントのみを解説するところだと思っているので、学生が自学により化学と身近な現象とのつながり感を得られる内容にしたい。ここに書いてある文章を一部使って、化学の面白さを「こいつ気持ちが悪い」と思ってもらうくらい語ってみたくなった。
そういうわけでまとめると、レベルは大学初年度にも達していないが、教養としては十二分であり、講義で使える表現やおはなしがふんだんに散りばめてある書籍である。そしてこの書籍は、化学が大好きで一歩先を進みたい高校生や、化学が専門でない教養としての講義、または化学を魅了する言葉や比喩を常に探している私みたいな大学教員にはおすすめしたい。