概要
―なぜ自分の研究は進まないのか,どうすれば先の見えないトンネルを抜け出しゴールにたどり着けるのか
研究が進まない理由から迫る研究生活サバイバル術!
すべての研究者へ送る,困難を突破するための道標!多くの若手医師・研究者の研究,学会発表,論文執筆を指導してきた著者が,その経験から見えてきた「研究が進まない理由」を40のQuestionにまとめ,珠玉のメッセージと方法論だけはない独自の視点で解決します。
簡潔な構成なので,忙しい合間にも読み進められます。目次の40のQuestionを是非ご覧ください! あなたの研究が進まない理由がきっと見つかります。(内容紹介より)
対象
- 研究に携わり、成功を目指すべての人。とくに若手研究者(大学院生・博士研究員・駆け出し助教~PI)
解説
2016年7月に発刊されたばかりの研究ノウハウ本のひとつ。研究者として自らに問うておくべき「Question」が40個掲げられ、それぞれの末尾に著者なりの考え方が「Message」として掲載される、という構成になっている。名誉欲や承認欲求充足を追い求めたすえに捏造・研究不正などに手を染めることが多く顕在化している風潮を懸念し、研究者として生きるために欠かせないポイントを読者自身に見つめ直して欲しい、付随する問題には解決パターンがあるのでそれを伝えたい、との意図から執筆されている。ゆえに枝葉末節の研究テクニック/TIPS伝授などについては、ほとんど述べられていない。
著者の佐藤雅昭氏は、トロント大PhD→京大→東大と研究機関を渡り歩いてきた、呼吸器外科研究医である。それゆえ医学生物学系の例示が主となっているが、上記のような思想下に執筆されているため、分野を問わない話になっている。
「そもそもなぜ研究をするのか、研究とは一体何なのか」を見失いそうになった時に、根本に立ち返るためのリファレンスとして捉えることもできる。研究について多くを掴めていない学生にはもちろん有益だが、プロ研究者にも十二分に役立つ内容と思われる。指導的立場に向けて1章が割かれている点も、貴重である。
筆者のように10年以上の研究キャリアを経た立場でも、心に留めておくべき内容が散見された。以下本書より抜粋してみたい。
Q26「感謝しているか?」
研究ができる人は、世の中一般から見るとかなり恵まれています。大学院生であれば、家族からの理解が無ければ難しいでしょう。(中略)人は目の前のことで頭がいっぱいになると、つい周りが見えなくなり、周囲への態度も刺々しいものになりがちです。すると周りからの援助も得られにくくなり、人間関係も孤立して生きがちです。(中略)困難に直面しているときこそ一歩引いてみて、周りへの感謝の気持ちを持つ。単なる精神論に思えるかも知れませんが、笑顔を増やして運を引き込むというのは、さまざまな分野でトップを走る多くの人たちに共通したメンタルの持っていき方のようです。
与えられることが多く、それが普通と考えがちな学生身分では、なかなかこの辺りを実感できない人も多いのかもしれないと感じる一方、指導的立場となった今、彼らとどう接し、どうガイドして、どう伸ばしていくべきか――その辺りを改めて考えさせられる根源的な話に思う。結局は人と人との繋がりと、お互いに対する敬意の念でなり立っている側面は、どんな世界でも多分にあると言うことだ。「研究さえできればそれでいい」では無い、ということをどれだけ伝えられるか?
Q37 「夢・目標を共有できる「仲間」として後進を引き受けられるか?」
研究で指導的立場になったといっても、指導される側の人間、つまりついて来てくれる人がいなければ、文字通りの独り相撲です。(中略)指導者自身は「サーバント」としての役割に徹することが大事ではないかと思っています(サーバント(支援型)・リーダーシップ)。つまり、指導者であるあなたが描く研究のbig pictureを共有する仲間として後進を受け入れ、お互いに助け合っている、という雰囲気を作っていきます。(中略)指導者としての真価は、自分の業績をどこまで伸ばせるかではなく、ついてきてくれる人たちに自分がどれだけの支援をし、彼ら彼女らがどこまで伸びていけるか、で問われているのでは無いでしょうか。
これと明確に対比されているのが「管理型リーダーシップ」、つまり「あれをしろ、これをしろ、俺の言ったことだけやればいいんだ、余計なことを考えるな」とのマネジメント姿勢である。プレッシャーばかりで学生が萎縮してしまい、意外な報告を隠してしまったり殻に閉じこもってしまうがゆえに、結果的に大発見の芽を摘んでしまう・・・などなどの弊害があることもよく知られた話である。教育的配慮が求められる大学界でも、余裕のない指導姿勢を強要する指導者が少なくない現実は、残念ながら方々で耳にする。もって他山の石としたい。
Q40 「人一倍勉強しているか?」
あなたがリーダーとして、まだ見ぬ新大陸が海の向こうに必ずあるのだと周りに信じさせて前進するためには、単なるほら吹きでは無く、そう思わせるだけの裏付けが必要です。たしかに人格や実績は大切ですが、実績は過去のものでもあり、これから未来に向かう本当の駆動力にはなりません。研究の本質を考えれば、やはり「勉強」が不可欠です。(中略)私たちは研究者として指導的立場に立ったからこそ、金の卵を産むガチョウに、もっといい餌をを与え、ガチョウを長く元気な状態にしておかねば成りません。それがついてきてくれる人たちに対して果たすべき義務である。
最後の締めクエスチョンとしてこれが据えられている辺り、なかなかに小憎い構成であり、また耳が痛い話である。しかしこの項目については全面的に同意する。専門分野以外にも勉強すべきことがらは無数にあるのだが、その基盤構築をおろそかにすると人間的な成長はどこかで止まってしまうし、謙虚さも失われて「お山の大将」に堕してしまう。どのライフステージでも使える時間は有限なので、「忙しくて勉強している暇が無い」はタイムマネジメント・優先順位づけの不得手を臆面も無く露呈しているだけの”軽い”発言なのではないか?と思わされる。人生一生勉強である。
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