内容
植物がつくり出す化学物質によって,周りの植物の生育を妨げたり,逆に生育を促進したり,害虫を寄せつけないようにしたりする現象「アレロパシー」.たとえば,アカマツの木の下には雑草が生えにくく,マリーゴールドは害虫を寄せつけにくい.また,ナガミヒナゲシのような外来植物には,強いアレロパシーを示すものも多い.本書では,このようなアレロパシー現象の数々とその作用物質や働きを紹介しながら,農業や生態系への応用を見据える.植物の見方が変わること間違いなしの1冊.(化学同人のサイトより)
【目次】
第1章 植物が身につけた化学戦略
第2章 生態系に影響するアレロパシーの発見
第3章 外来植物の静かな戦い
第4章 アレロパシーを農業に応用する
第5章 雑草どうしの静かな戦い
第6章 アレロパシーの強い植物を広範囲に利用する
第7章 未来の有用作物
第8章 植物の静かな戦い研究最前線
終 章 植物の進化とアレロパシー仮説
対象者
高校生以上
解説
植物は動物と違って動くことができないため、生育環境が悪くなっても逃げることができない。生き残るため、植物は動物とは異なる防衛手段を発達させた。それがアレロパシーである。アレロパシーとは、「植物が放出する化学物質がほかの生物に阻害的あるいは促進的な何らかの作用を及ぼす現象」のことを意味する。また、アレロパシーの作用物質は他感物質(アレロケミカル)と呼ばれる。
本書は、アレロパシーについてまとめた良書である。言葉の定義から始まり、どのようにして発見されたのか、どのような実験により証明されたのか、単離されたアレロケミカルの構造、どのように応用されているかなど幅広く紹介されている。例えば、第二章では病害虫の被害を受けにくく雑草に強い木であるグリシジアが段々畑の境界に土止めとして使われている例などが、第四章ではイネの根から発芽促進物質ストリゴールが放出されている例が、第五章ではヒガンバナの鱗茎にリコリンという有毒アルカロイド含まれているため、ネズミやモグラなどに捕食されないという例などが紹介されている。各章の話題は、とても身近に感じることができ、説明も論理的で非常に理解しやすい。
研究室に配属され研究を開始すると、時として非常に視野が狭くなってしまうことがある。例えば、ある天然物化合物の研究を行っていると、学会発表のイントロのスライドで生理活性を列挙することが多いが、生態系の中でその化合物がどのような影響を与えているかについて、ついつい忘れてしまいがちだ!
本書を読むと植物の生産するアレロパシー関連物質が生態系でどのような役割を持っているのか、どのようにして発見されたかのエピソードや、農業などにどのように応用されているのかが分かる。まさに、「化学本来の楽しさを思い出させてくれる」書籍であると感じた。本書を読んだ後で外を歩くと、ついつい植物に目がいってしまうようになる。
本書は、著者の前著「アレロパシー―多感物質の作用と利用 (自然と科学技術シリーズ)」の続きでもあるらしいが、前著を読んでいなくても十分に本書を楽しむことができる。