対象者
大学院生以上、かつ計算化学の経験がある人。
内容
量子化学の参考書。量子化学の基礎となる理論を、数式展開を交えつつ丁寧に解説しています。基礎的な内容ですが、簡単ではなく初学者向けではありません。本書を読むにあたり、計算化学に関する基礎知識は必須です。基底関数、HF法、Møller-Plesset method 法など量子化学計算で使用される用語・概念を事前に勉強しておく必要があります。
上巻の第一章では、量子化学を学ぶ上で必要となる数学の知識について解説しています。また、計算化学をきちんと学びたい方は、Fortranなどでの行列式のコーディングについても学ばれることをお勧めします。また、変分原理についても解説してあります。
上巻の第二章では、量子化学の基礎について詳しく解説しています。Born-Oppenheimer近似、Pauliの排他原理、Slater行列式など。特に、Slater行列式について詳しく解説している参考書はありません。実験化学講座などでは、Slater行列式は何の断りもないまま突然使用されています。Pauliの排他原理についても、どのような概念化を有機化学の授業で学ぶとは思いますが、数式でどのように表すかを知らない人は多いと思います。
上巻の第三章では、Hartree-Fock 法について解説しています。Hartree-Fock 法は、全ての量子化学計算、DFT計算において基礎となりますので、本書上巻は計算化学を使われる方は、全員読むべきだと思います。
お勧めの使用法
お勧めの使用法としては、「密度汎関数法の基礎」と「実験化学講座 第12巻」で量子化学計算の基礎について勉強しつつ、Gaussianなどを用いて実際に自分で計算化学を行ない、その後、本書を読むのが良いと思います。他の参考書で解説が無く使用されている専門用語も本書では丁寧に解説してあります。
上巻は大変お勧めしますが、下巻は難しい内容となっています。有機合成化学者などは、高次の摂動、多参照法を扱う量子化学計算は利用せず、DFT計算を用いられると思いますので、下巻を読む必要は無いと思われます。DFT計算を行なう方は、本書上巻を読み終えたら、ヤングとパールの「原子・分子の密度汎関数法」を読まれると良いかと思われます。