「化学工学って社会に出てから使えますかね?」
という言葉を、何かの拍子にとある学生から言われたことがあります。
結論から言うと
「めっちゃ必要で大事!」
と筆者は思います。
ちなみに筆者は農芸化学出身で、就職するまで「化学工学?何それおいしいの??」レベルで全く触れたことがない分野でした。
筆者は化学メーカーに就職し、スケールアップやコストダウンのために反応の条件検討をしているのですが、そこで初めて化学工学に出会いました。化学工学は”反応について相手に説明し、納得してもらうツール”として非常に強力な効果を発揮しています。本当に安全な反応なの?どのくらい発熱するの?どのくらい冷却すればいいの?どれぐらい時間がかかるの?・・・などなど、モノ作りの現場では次々と質問が降ってきます。安全で確実なモノ作りのため、研究員は最も反応を熟知している者として、そういった質問にしっかりと答えて上司や現場の作業員の方々に納得してもらわなければいけません。
さて、前置きが長くなりました。そんな化学工学の中でも、研究員にとって最も身近で、身に着けなければいけない学問が反応工学であると筆者は考えています。学生時代にほとんど触れたことがない領域だけに、現在進行形でせっせと勉強しています。
そんな勉強で使った書籍の一つ、「ベーシック反応工学」をご紹介したいと思います。
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内容説明
大学2年生以上を対象としたテキスト.分子と分子,分子と組織の反応工学について,主に“濃度”,“分圧”および“反応速度”に注目,動的過程を数式モデ ルで記述し,因果性を追求できるよう配慮した.例題・章末問題と解答が充実し,専門力が醸成できるよう工夫がなされている.(化学同人HPより)
全体の印象
学部の2年生以上を対象にしているということで、比較的軽めの内容なのかな?と思っていたのですが、図や数式をふんだんに使い、かなり細かいところまで説明されていると感じました。ちなみに筆者は若干数式アレルギーの気もあるので(←おい)所々つっかかりましたが、読みやすくする気遣いや、知識を体系的に身に着けてほしいという工夫を随所に感じられたため、全体を通して楽しく読むことができました。
まず、本の両サイドの空白に、要所要所で「ONE POINT」という補足やミニコラムがあり、ふと浮かんだ疑問の多くはそこでさらっと解決してくれます。化学同人さんのHPで本書の内容をちょこっとだけ見ることができますが、そこで雰囲気をつかめると思います。
その他、HPでは見ることができませんが、各章の最後には「学習のキーワード」として、重要な専門用語がまとめられています。章を読み終わった後で、それぞれのキーワードの意味をちゃんと説明できるか?と一つ一つチェックしていくことで、現時点での自分の理解がどの程度なのかを把握することができます。そこで理解し切れていないならばその部分を読み返し、結果として漏れのない知識を得られる素晴らしい工夫だと思います。
詳しい内容
1章 単一の反応について(反応速度、反応次数)
2章 複数の反応を取り扱おう(並行反応,逐次反応,逐次並行反応)
3章 反応器の成分操作とは(回分反応器,押出し流れ反応器,二段式反応器)
4章 反応器の温度操作とは(等温反応器,断熱反応器,開放系反応器)
5章 滞留時間分布操作とは(滞留時間分布、槽列モデル、混合拡散モデル)
6章 気液接触反応を取り扱おう(反応吸収,反応係数)
7章 固体原料反応の取扱い(未反応核モデル)
8章 固体触媒反応を取り扱おう(チーレ数)
9章 生物細胞反応の取扱い(モノーの式)(化学同人HPより)
全9章で構成されています。1章~8章はよくある内容のように思いますが、
本書は,反応工学に関わる他の書籍と比べ,反応率(転化率)という専門用語の出現頻度が低く,濃度の出現頻度が高い.これは,反応率は因果性の観点からすると結果であり,反応を進めている駆動力となる変数は濃度,分圧であるためである.(本書「はじめに」より抜粋)
とあるように、他の書籍とは少し違った表現で説明されている部分もあり、こういうことだったのかと理解が深まる箇所がいくつもありました。
さらに9章の内容は、こういった基礎的な反応工学の本では他にない(少なくとも筆者が知っている中では)、生物細胞反応についてまとめています。正直に言いますとまだ完全には理解しきれていないのですが、最近話題となったSpiber株式会社ように、微生物を使った物質生産などが盛んに研究されている昨今、細胞の培養にはこういった知識が活かされているのかと目を通すだけでも価値があるように思います。