内容
The first and ultimate guide for anyone working in transition organometallic chemistry and related fields, providing the background and practical guidance on how to efficiently work with routine research problems in NMR. The book adopts a problem–solving approach with many examples taken from recent literature to show readers how to interpret the data. Perfect for PhD students, postdocs and other newcomers in organometallic and inorganic chemistry, as well as for organic chemists involved in transition metal catalysis. (内容紹介文より)
対象
有機金属錯体・有機金属触媒・無機錯体の研究に取り組み始めて間もない大学院生、博士研究員、専門研究者
解説
有機金属錯体に触れたことのある方は、ケムステ読者の中には意外に多いかもしれない。だがその精緻なNMR解析にまで手を出した経験を持つ方は、どれほどいらっしゃるだろうか。 金属錯体のNMRは、多様な元素を含む事情から多核解析となることが多く、配座異性の多様さも手伝って複雑な挙動を示す。1H・13C・31Pなどの汎用核種であっても、通常の有機化合物とは異なる化学シフト値を示すケースもある。このようなことは、NMRの基本教科書を当たることで一応の理解は得られるものの、金属錯体に特化した内容を探るには効率が良くない面もある。 この際のガイドとして有用な書籍が、今回取りあげる「NMR in Organometallic Chemistry」である。金属錯体のNMRに特化した内容の書籍だが、あくまで金属錯体の入門研究者向けに執筆されている。たとえば1章分をまるまる割いて、有機金属化学の基本事項がまとめられていることからも、その姿勢が読み取れる。 極めて特殊な測定法を網羅的に取りあげている構成でもない。研究現場でルーチンとして使われる基本測定法について、むしろ重点的に解説していることは有難い。 具体的には3~5章がCOSY、HMQC/HMBC、NOESY/HOESY、DOSYなどの2次元測定、6,7章が化学シフト値・カップリング定数、8章が錯体の動的挙動を見積もる測定法を扱う章立てとなっている。 NMRの読み方自体は有機化合物と同じであるが、多核測定・配座異性体が絡む宿命ゆえの複雑な例も少なくない。そのようなチャートの例が多数示されており、NMR解析のケーススタディ集としても役に立つだろう。本書で取りあげられている例をいくつか抜粋してみよう。このような「金属錯体ならでは」が本書には盛りだくさんである。 11章では金属錯体NMRについての演習問題が掲載されている(主には1H・13C・31P)。これもなかなか他の書籍には見られないコンテンツである。本書のサンプル問題を以下に一つ抜粋してみた。読者の皆さんは解くことができるだろうか? 2012年刊行と言うことで、参考文献が新しいのも良い点である。有機金属化学に入門したばかりの研究者にお勧めしたい1冊である。