[スポンサーリンク]

仕事術

できる研究者の論文生産術―どうすれば『たくさん』書けるのか

[スポンサーリンク]

[amazonjs asin=”4061531530″ locale=”JP” title=”できる研究者の論文生産術 どうすれば「たくさん」書けるのか (KS科学一般書)”]

 

内容

論文の書き方に関する指南書はこれまでも数多く出版されているが、本書が画期的なのは、いかにして論文執筆のモチベーションを上げ、精神的負担を軽くして論文執筆に取り組めるようにするかについて、メンタルな面を含めて冷静に分析し、その解決策を誰にでもわかるように明瞭に提示している点だろう。(本書あとがきより)


対象

論文執筆を生業とする研究者およびその卵
研究に携わらずとも、文章執筆がなかなか進められない人

感想・評価

本書は論文執筆をテーマとする自己啓発書“How to Write a Lot: A Practical Guide to Productive Academic Writing”の邦訳版である。あえて自己啓発書とカテゴライズさせて頂いたのは、実用書と銘打ちながらも、論文の文面作成に絡むテクニックを主題としていないがゆえである。

本書が他の論文指南書と一線を画している点は、「時間に追われる現代の研究者が、いかにして良質な執筆を継続的に進めていくか」に重きを置いて記述している点であろう。原題をして多作奨励の主題とも見えるが、必ずしも多作を促す内容ではない。

この実現を目指す本書のメッセージはきわめて明確である。すなわち

【執筆時間を予めスケジューリングして、規則的に書く】
【執筆目標を明確にし、優先順位を付け、執筆状況をモニタリングする】

ということに尽きている。これと対立する【まとまった空き時間を確保して一気に書き上げてしまう「一気書き(binge writing)スタイル」】は明確に否定されている。
この見解には私自身、100%同意できる。

たとえば10日に分けて1/10ずつ毎日書くのと、10日ごとに1日使って一気に書くのとどっちが良いか?ということを考えて見たい。

私自身は、前者が圧倒的に上手く機能するという実感を持っている。もちろん進むスピードは同じなのだが、後者のやり方はリスク管理という観点で褒められたやり方では無い。というのも、執筆を予定していた1日が不測の事態で潰れるだけで、いとも簡単に〆切を落としてしまえるからである。その結果として依頼者たる他人へ負担を押しつけることになってしまい、信用毀損につながってしまう危ういやり方といえる。

このメッセージを浸透させるべく、著者はまず真っ先に『論文執筆を妨げる典型的な言い訳』―たとえば「書く時間が取れない」「もう少し論文を読まないと」「気分が乗るのを待っている」など―に心理学者の立場から反論を加えている。

こういった内容に加えて、英文を簡潔に書き換えるコツ、論文投稿プロセスとその対策などの実践的な内容も一通り述べられている。論文作業に実感を持ちにくい人たちが基本事項を押さえるという観点でも、良いガイドとなるだろう。

著者の専門が社会心理学であるためその文脈背景から記述されているが、原則論は自然科学はもちろん、文章書きを必要とする限りどんな仕事にも通じるだろう。

翻訳もこなれており読みやすい本なので、時間に追われ余裕に欠けがちになっている、経験の浅い研究者にこそ一読を勧めたい。

 

関連書籍

[amazonjs asin=”B001Y35G60″ locale=”JP” title=”How to Write a Lot: A Practical Guide to Productive Academic Writing”]

 

関連リンク

Avatar photo

cosine

投稿者の記事一覧

博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

関連記事

  1. 【書籍】機器分析ハンドブック2 高分子・分離分析編
  2. 改正 研究開発力強化法
  3. 【書評】続続 実験を安全に行うために –失敗事例集–
  4. ステファン・カスケル Stefan Kaskel
  5. カリカリベーコンはどうして美味しいにおいなの?
  6. 実践・化学英語リスニング(3)生化学編: 世界トップの化学者と競…
  7. 特許やぶりの女王 弁理士・大鳳未来
  8. Hazardous Laboratory Chemicals D…

注目情報

ピックアップ記事

  1. 日本の化学産業を支える静岡県
  2. ノルゾアンタミンの全合成
  3. 被ばく少ない造影剤開発 PETがん診断に応用へ
  4. メチルトリメトキシシラン (methyltrimethoxysilane)
  5. Macユーザに朗報?ChemDrawバージョンアップ
  6. 【書籍】化学系学生にわかりやすい 平衡論・速度論
  7. ベックマン開裂 Beckmann Fragmentation
  8. 杏林製薬 耳鳴り治療薬「ネラメキサン」の開発継続
  9. 光電流の原子分解能計測に世界で初めて成功!
  10. 第四回 期待したいものを創りだすー村橋哲郎教授

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2015年7月
 12345
6789101112
13141516171819
20212223242526
2728293031  

注目情報

最新記事

有機合成化学協会誌2024年12月号:パラジウム-ヒドロキシ基含有ホスフィン触媒・元素多様化・縮環型天然物・求電子的シアノ化・オリゴペプチド合成

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2024年12月号がオンライン公開されています。…

「MI×データ科学」コース ~データ科学・AI・量子技術を利用した材料研究の新潮流~

 開講期間 2025年1月8日(水)、9日(木)、15日(水)、16日(木) 計4日間申込みはこ…

余裕でドラフトに収まるビュッヒ史上最小 ロータリーエバポレーターR-80シリーズ

高性能のロータリーエバポレーターで、効率良く研究を進めたい。けれど設置スペースに限りがあり購入を諦め…

有機ホウ素化合物の「安定性」と「反応性」を両立した新しい鈴木–宮浦クロスカップリング反応の開発

第 635 回のスポットライトリサーチは、広島大学大学院・先進理工系科学研究科 博士…

植物繊維を叩いてアンモニアをつくろう ~メカノケミカル窒素固定新合成法~

Tshozoです。今回また興味深い、農業や資源問題の解決の突破口になり得る窒素固定方法がNatu…

自己実現を模索した50代のキャリア選択。「やりたいこと」が年収を上回った瞬間

50歳前後は、会社員にとってキャリアの大きな節目となります。定年までの道筋を見据えて、現職に留まるべ…

イグノーベル賞2024振り返り

ノーベル賞も発表されており、イグノーベル賞の紹介は今更かもしれませんが紹介記事を作成しました。 …

亜鉛–ヒドリド種を持つ金属–有機構造体による高温での二酸化炭素回収

亜鉛–ヒドリド部位を持つ金属–有機構造体 (metal–organic frameworks; MO…

求人は増えているのになぜ?「転職先が決まらない人」に共通する行動パターンとは?

転職市場が活発に動いている中でも、なかなか転職先が決まらない人がいるのはなぜでしょう…

三脚型トリプチセン超分子足場を用いて一重項分裂を促進する配置へとペンタセンクロモフォアを集合化させることに成功

第634回のスポットライトリサーチは、 東京科学大学 物質理工学院(福島研究室)博士課程後期3年の福…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP