内容
量子化学の主要理論となっている密度汎関数法の基礎を量子化学的視点から概観し、密度汎関数法が化学の分野で何を目指しているのかを、量子化学計算を行なう際に密度汎関数法に求められる用件を説明することによって明らかにする。
それによって、量子化学における密度汎関数法の到達点を理解していただくとともに、化学を演算的に説明するためには密度汎関数法にもとづく量子化学的アプローチが極めて有効であることを納得していただくことを期待している。
「まえがき」より
対象
化学系(理論・実験系)の大学院生
解説
同じ著者によるDensity Functional Theory in Quantum Chemistryという本がSpringer社から出版されているが、今回紹介する「密度汎関数法の基礎」は日本語で書かれており、より初学者に向いている。
計算化学の理解が一般に普及しないのは、優れた教科書が無いためだと考えられる。量子力学の教科書は、専門知識が不足している化学者に取っては読みづらく、また「すぐ出来る量子化学計算」などは、読みやすいが理論的背景についての解説がないといった問題点があった。
化学者にも理解しやすく、背景理論の説明もしっかりしているという点において、本書を超えるDFT計算の教科書はない。計算化学を行なうすべての有機化学者に本書をお勧めする。
本書は7つの章から構成されている。1〜3章では量子力学の基礎を4章以降でDFT計算について説明している。
第一章では、量子化学の歴史から始まり、シュレーディンガー方程式、波動関数の解釈、分子の並進運動、振動運動、回転運動の量子化などを最小限の数式を用いて分かりやすく解説している。
第二章は、ハートリー・フォック法についての解説である。計算化学を行なう者であれば知っておきたいスレーター行列式、ローターン方程式などの解説も充実している。
第三章では、ハートリー・フォック法の問題点である電子相関について解説している。ハートリー・フォック法が電子相関について問題があることは良く知られている。しかし、それがなぜ生じるのか、どのようにして解決すれば良いのか、また数式ではどのように表されるのかを解説している化学者向けの本はない。本書では、初学者にも分かるように必要最低限の数式を用いて解説している。
第四章では、コーン・シャム法について解説している。密度汎関数法の基礎となったトーマス・フェルミ理論から始まり、ホーエンベルグ・コーン定理を経て、コーン・シャム方程式の成り立ちから理解の仕方まで、詳しく解説が為されている。
第五章ではDFT計算における様々な汎関数について解説が為されている。計算化学の論文等を読むと様々な汎関数が使用されているが、それらの解説が為されている本は無い。また、汎関数開発についての論文は物理学の知識が必須のため化学者には理解が困難であった。本書では、汎関数の近似方法による分類の仕方、それぞれどのような特徴・問題点があるかについて数式を用いて理論的に解説してある。また、有機化学者に取って非常に有名な汎関数であるB3LYPについても数式を用いて、その成り立ちから詳しく解説してある。
第六章では、汎関数に対する様々な補正について解説してある。
第七章では、軌道エネルギーについての解説が行なわれている。