概要
原著は、Nicholas J. Turro, V. Ramamurthy, J. C. Scaianoらによる ”Principles of Molecular Photochemistry”(2008)。有機化学に限らず化学および科学一般を学ぶ読者に取って分かりやすい原理を組み合わせた光化学を紹介している。(本書序文より)
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大学院生以上
内容
本書は全七章より構成される。
第一章 有機化合物の分子光化学:概要
最新有機光化学の概観を紹介している。
第二章 電子励起状態における電子状態、振動状態、スピン配置
電子励起状態での、電子、振動、電子スピン構造をゼロ近似した場合、電子や電子スピンは安定核配置に対応したエネルギーを持つ。これをどのように図解化して理解するかを説明している。
第三章 状態間の遷移:光物理過程
有機光化学で出会う”構造”を推定し、始状態から終状態への分子の構造変化、遷移過程、変換過程について説明している。また、これらの状態間遷移とポテンシャルエネルギー曲面により分子の状態が相互変換する過程を効果的且つ具体的に図式化して、分子構造学、動力学、エネルギー学の概念を相互に関連づけて説明している。
第四章 電子状態間の光吸収遷移と発光遷移
電子状態間の光吸収遷移と発光遷移がどのように理解され、分子電子状態や電磁場の構造とどのように定性的・定量的に関連しているかについて説明している。
第五章 発光をともなわない光物理化学過程
“光物理”と呼ばれる励起状態間の遷移と励起状態と基底状態間の遷移について説明している。
第六章 有機光化学の分子理論
光子の吸収により電子励起状態が生じた後に、どのように光化学反応が起こるかの理論的特徴を説明している。光化学初期過程を軌道相関図、軌道状態間の相関図を用いて説明している。
第七章 エネルギー移動と電子移動
電子エネルギー移動と電子移動との軌道相互作用の関係を議論し、各過程に対するいくつかの例を挙げている。
解説
有機化合物と光の相互作用によってもたらされる分子構造や動的過程に関する分子レベルの科学、分子光有機化学を本書では扱っている。分子光有機化学は、光と有機分子の相互作用によって引き起こされる光物理過程、その後の化学変化をもたらす光化学過程からなる。
本書は光化学関連の参考書の中では、最も内容が充実している。式の導出、スピン状態、分子軌道、分子の構造変化など細かく解説してあるが、やや難易度が高い。本書を読む前に簡単な光化学の本を一冊読み終わっておく必要がある。自分が学んで来た光化学がいかに簡略化された内容であったかを本書を読むと気づかされる。学部での分析化学の延長として光化学を学んで来た者に取っては、まさに目から鱗の内容だと思われる。