2014年もあと2日で終わりを告げます。今年も様々な出来事がありました。10大ニュースを覗いてみると、日本国内においては消費税8%が開始、世界文化遺産に「富岡製糸場」が登録、全米テニスで錦織圭が準優勝、御嶽山噴火で死者57人、行方不明者6人などが目につきます海外では、韓国の朴槿恵大統領が演説で日本に慰安婦問題の解決迫る、ウクライナでマレーシア航空機が撃墜され298人死亡、ノーベル平和賞にパキスタンのマララさんらが気になるところでしょうか(何れも科学的な出来事を除く)
これまで2007年より毎年化学10大ニュースを行ってきたと思っていたのですが、実は去年はやってなかったんですね(過去記事はこちら2012年、2011年前編、2011年後編、2010年Part1、2010年Part2、2009年Part1, 2009年Part 2、2008年, 2008年2, 2007年)。今年はしっかりと振り返りたいと思います。
では今年の化学10大ニュースを振り返りながら良いお年をお迎えください。
嘘か真かー科学倫理を再考しよう
ノーベル賞も当然と言われたSTAP細胞の発見が2014年はじめに報告され、明るい話題となるはずでしたが、結局は論文却下・多数の捏造問題などと科学者倫理を再び問われるのみの結果となりました。驚愕の不正論文も登場しました。化学においてもテキサス大教授の論文捏造問題があった2014年。科学に正しく向き合う姿勢を何度となく訴えられたような1年でした。
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世の中を照らす技術でノーベル物理学賞
日本人(元日本人も含む)が受賞したノーベル物理学賞。ケムステでの予想は化学賞でしたが大変喜ばしいことでした。日本人が受賞した時の報道は凄まじく、どう関係があるんだろ?ってところまで報道されます。内容はともかく一般に科学が知られるようになるのはよいことですが、折角注目されているのだからこの機会にもう一歩踏み込む科学特集があっても良い気がします。興味をもったときの理解度は通常では計り知れないものですから。
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小さな生きた世界を覗くノーベル化学賞
物理学賞とは一転して化学賞は他の予想サイトでも挙げられていない最新技術に与えられました。ケムステの投票企画でも1人しか予想できませんでした。光学の力で不可能を可能にし、生命解明研究を加速させた研究。近年興隆しているバイオイメージングを支える「超解像顕微鏡の開発」。明らかに今後実用的なツールとしてさらに発展を遂げる素晴らしい技術だと思います。
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脅威の難病と特効薬
2014年人類はウィルスの脅威に見舞われました。致死率が非常に高いエボラウィルス、日本では対岸の火事のように扱われていますが、大変深刻なものでした。救世主となる可能性があるのが富士フイルム(富山化学)から発売されているファビラピル。抗インフルエンザ薬として承認されている薬でした。今後の進展に期待したいところです。
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人工DNAを複製可能な生物ができた
下記で別途2014年の世界の化学について述べますが研究研究分野で最も注目を集めた(個人的見解)のが人工DNAを複製可能な大腸菌の創成に成功したこと。スクリプス研究所のRomesberg率いる研究チームによる結果です。数々のノウハウに基づく緻密な設計はもちろん、あらゆる観点からのデータ積み増し・問題解決が図られています。他の研究室があっさり真似できる仕事ではおよそなく、長年にわたる地道な蓄積あっての成果であることは間違いありません。
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脱法ドラッグから危険ドラッグに
7月に名称が代わった、、法律によって一部の薬物が規制されていることから、法律による規制がないであろう代替の薬物を表すために用いられている用語です。一見ポジティブにみえる名前から紆余曲折を得て今回の名前に変更されました。2000年前半は「合法ドラッグ」、2005年から「脱法ドラッグ」、そして「危険ドラッグ」になりました。ケムステでも、なぜ次々新しい化合物が登場し取り締まる側と製造・販売側の「いたちごっこ」になっているのかについて創薬化学の立場から考えてみました。
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世界を驚かせた最新化学研究
今年も様々な化学の驚くべき研究が発表されました。上述の人工DNAを復姓する生物の創成もその1つです。[1]毎年その年の化学の最新研究をとりあげるChemistry WorldのCutting edge chemistry 2014から今年の注目すべき化学研究をいくつか示します。 詳細はそれぞれの原著論文を呼んでいただければと思います。
- 原子番号98カリホルニウム化合物の結合状態を解明[2]
- AFMを使って化合物間の水素結合を「視る」ことができた[3]
- りん化合物でグラフェン上のシートを合成「Phosphorene 」[4]
- 2次元ポリマー結晶の合成と同定に成功[5]
- 伸びる?リチウムイオン電池の開発[6]
- ホウ素のフラーレンB40の合成[7]
関連文献
- Romesberg, F. E. et al. Nature 2014, 509, 385. doi:10.1038/nature13314
- Polinski, M. J. et al, Nat. Chem., 2014, DOI: 10.1038/nchem.1896
- (a) Zhang, J. et al, Science, 2013. DOI: 10.1126/science.1242603 (b) Hämäläinen, S et al, Phys. Rev. Lett., 2014, DOI: 10.1103/PhysRevLett.113.186102 (c) Hapala, P et al, Phys. Rev. B,. 2014, DOI: 10.1103/PhysRevB.90.085421
- (a) Liu, H. et al, arXiv:1401.4133 (b) Li, L et al, arXiv:1401.4117
- (a) Kory M. J. et al, Nat. Chem., 2014, DOI: 10.1038/nchem.2007 (b) Kissel, P et al, Nat. Chem., 2014, 6, 779 DOI: 10.1038/nchem.2008
- Zhang, Y. et al, J. Mater. Chem. A, 2014, 2, 11054 DOI: 10.1039/c4ta01878h
- Zhai, H-J. et al, Nat. Chem., 2014, 6, 727 (DOI: 10.1038/nchem.1999
ガソリン価額低下とシェールガス革命
今年始まった原油価格の大幅な下落。かつては70%誇っていた石油のエネルギー依存度が40%前後に落ち込んでいるのも原因とされていますが、シェールガス掘削ブームで米国の石油生産量が急増しているという側面もあります。とはいえど、シェールガス自体も原油価格の高騰に端を発してブームが来ているのでどうなるかはわかりません。シェールガス革命はエネルギー事情を一変するか。これからだと思います。
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企業合併・統合2014ー化学
今年もいくつか大きな企業の合併や買収がありました。研究者レベルで最もびっくりした買収はメルクのシグマアルドリッチの買収。アルドリッチおじさんがいなくなるのかと心配しましたが、特に変化はなさそうです。その他にも日本化学大手の動きとしては、
- 三菱化学:大陽日酸買収
- クラレ:米デュポンの樹脂事業買収
- 三井化学:ポリウレタン事業を韓国の化学中堅SKCと統合
- 東レ:米ゾルテック社を買収
- 住友化学:米国総合化学大手のデュポンの農業用殺虫剤「アサナ」事業を買収
などが起こりました。さらに年末。出光興産が昭和シェル石油を買収する交渉に入ったという報道がされました。買収が実現すれば売上高は8兆円を突破し、国内で首位のJXホールディングスに次ぐ規模になり、石油業界の2大会社体制となります。早ければ2015年春にも実現されるとのことです。
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訃報2014ー化学
今年も様々な著名な化学者たちがこの世を去りました。個人的には有機半導体研究の井口洋夫、ノーベル化学賞受賞者の鈴木章名誉教授(北大)の師である松本毅、不斉酸化研究で著名な香月 勗、そして、有機触媒やケミカルバイオロジー研究で著名なスクリプス研究所のBarbasの逝去が衝撃的でした。お悔やみ申しあげます。
2014年逝去した化学者(順不同)
Dennis Lindle (ネバダ大)、Joseph Lagowski (テキサス大オースティン校)、John S. Waugh(MIT)、Howard Brenner (MIT)、Robert E. Connick (UCバークレー)、Gregory L. Hillhouse(シカゴ大)、Paul Schleyer(プリンストン大)、Carlos Barbas(スクリプス研究所)、Gary Maciel(コロラド州立大)、Michael F. Lappert (サセックス大)、伊藤英治(北大)、井口洋夫 (東京大)、 宇田尚(東北大)、 飯島俊郎(東工大)、 斉藤喜彦(東大)、加藤俊二(阪大)、 松本毅(北海道大)、藤永太一郎(京都大)、 Stephanie Kwolek(デュポン)、阿河利男(阪大)青野茂行(金沢大)、 竹中亨(京大)、北澤宏一(東京都市大)、 本村欣士(九州大)、香月 勗(九大)、清水功雄(早大)
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2015年はどんな年に?
化学で振り返った2014年。それぞれ個人差が有ると思いますが、読者の2014年の化学10大ニュースはなんでしたか?ケムステ記事ランキングも見ながら振り返ってみることをオススメします。それでは良いお年を!