概要
本書は科学ジャーナリスト、ウィリアム・ブロード、ニコラス・ウェイド両氏原著、’Betrayers of the Truth: Fraud and Deceit in the Halls of Science’ の牧野賢治氏による翻訳本である。科学者の欺瞞について事例を基に明快に論説した1988年化学同人から出発された名著「背信の科学者たち」を復刊し、最近の事例や解説を加えることで、あらためて科学者に科学とは何なのかを問う必読書である。
対象
化学系に限らず、大学生、大学院生、研究者、そして一般
解説
筆者はこの本を読むのは三度目である。最初は学生時代に講義のレポート作成のために化学同人版を斜め読みしてレポートにまとめた。その際はまさか自分が科学者の端くれになるとは思ってもいなかったので、科学者ってのはインチキもするんだなあという感想しか持たなかった。次に読んだのは講談社のブルーバックス版で、研究者を本格的に志した頃だった。その際は第一線で活躍する科学者の倫理感について衝撃を持って読んだ記憶がある。
皮肉にも昨今のSTAP細胞問題は一般市民の科学に対する興味を沸き立たせ、絶版となっていた本書が復刊することになった。本書は元々1987年に発刊されたものであるが、今読んで見ても何ら科学と倫理の問題は変わっておらず、全くと言っていいほど進歩していないこに気づかされる。
本書では成果、論文至上主義や、権威、名声のために、また研究費獲得への圧力のために科学者の範疇に含まれる人々がいかにしてミスコンダクトに手を染めたのかが特に米国を舞台にした事例を中心に語られている。我が国でも一部の研究者に重点的に研究費が割り当てられる傾斜配分が導入されてきており、これはミスコンダクトが起きやすい土壌を作るものであると牧野氏は警告している。
巻末に年表などもあり、主なミスコンダクトの事例を知ることもできる。いずれの世代、立場の読者であっても何か心に響くものがあるであろう本書は、ぜひ本棚に入れておき、何かの機会に読み直すことであらためて研究者としての心構えを整えることができるバイブルである。