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概要
化学の裏に流れている美しい原理を平易に説明する書
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対象
化学を敬遠しがちな一般読者
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解説
サイエンス・パレットシリーズの新刊。一般的に化学のイメージは残念ながら悪い。臭い、危険、意味不明な元素記号、構造式の羅列、実物が無く生活に密着していることが感じられない、などなど酷い扱いである。学校の化学が嫌いになると大人になってさらに化学が嫌いになるようである。ニュースを見れば毒物混入、残留農薬、薬害、化学兵器と負の側面ばかりが取りざたされる。しかし、もう既に社会生活に化学が介在しない物は無いのである。高校の化学でつまずくとそこから化学アレルギーが始まるのであろうが、本書は化学の基礎的な原理や、その原理に必要な物理的な事項を始め、どこでどんな風に化学が役立っているのかなどを平易な言葉で簡潔に説明し、アレルギー症状を発症しないように工夫されている。
各トピックスについてキーワードとともに解説していくので、通して読んでも、気になるトピックスを都度読んでもよい。キーワードは太字になっていて目に付くし、巻末には索引もあるので簡易的な化学辞書としても役立つだろう。
極めつけはなんと巻末の周期表を除いて図表、構造式が一つも無いというシンプルさである。化学を説明するのに構造式や図ではなく、言葉で適切に伝えるのは困難な仕事であったと思われる。しかし特に違和感なく読めてしまうところは著者のストーリーテリングが優れているこのとの証左であろう。
一方で訳者が不足していると思ったところは訳注がついている。この訳注は読者層を考えればむしろ不要ではなかったか。筆者のような化学の専門家でもそうかとうなずくような内容が盛り込まれており、一般読者には少し専門的すぎるように感じた。これによって化学に馴染みの深い読者でも納得の一冊になっているとも言えるのだが・・・
化学の全てが網羅されているとは言えないが、これだけの事項が理解できれば基本は押さえることができるので、化学リテラシーを身に付けるには最適の書の一つである。
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