概要
化学の道を志す架空の学部生アンジェラへの手紙、という体で、化学の各分野から現役の教授陣17人が執筆しているオムニバス形式の一冊。各教授が化学を選んだ理由、現在のポジションを得るまでの経緯、己の研究プロジェクトの概要とその意義、そして当面の解かれるべき問題などを熱く!かつ平易な普段着の英語で語りかけます。
対象
ハイレベル理系高校生?他分野の化学を俯瞰的に知りたい研究者。
解説
実験が忙しくて他分野のことまで勉強している余裕がない、大学に入学し化学科へ進もうと思うがいまいち希望の研究室(≒分野)を絞り込めない、という人に特にオススメの一冊。化学にまつわる気軽な読み物を楽しみながら、知識=好奇心の土台を広げる助けにもなる良書だと思います。
日本ではあまりメジャーではありませんが、北米や欧州では、意欲的な学部生が夏休みに企業または大学の研究室でインターンをして経験を積むことは珍しくありません(当然お給料も貰えます。インターンが必須の学校もあります。)。その為、大学の教授ともなると授業以外でも学部生(学外を含む)から接触を受けることはよくあることです。インターンのための推薦状依頼然り、インターン自体の受け入れ依頼然り。
この本に登場する手紙は、そんなやる気溢れる学部生アンジェラに向けて、一部は彼女が研究室に滞在していた(という設定の)頃を振り返りながら、彼女を自分の分野へ口説き落とすべくして書かれた(?)全17通です。いわゆるオープンキャンパスなどでの研究紹介とは違い、教授陣の現在に至るまでのプライベートを含む背景、アンジェラが仮にその分野を選択しなかったとしてもどういうことを学部生に知っておいて欲しいか、あるいは将来その分野を選択するのであればどういう教材で自習できるかなど、ざっとではあるものの、各手紙の終わりの参考文献まで含めて網羅的にまとめられています。
おおまかに
Part 1. From Fundamentals to Applications (5通)
Part 2. Chemistry and the Life Sciences (6通)
Part 3. Functional Materials (3通)
Part 4. Chemistry and Energy (3通)
の全四章に分かれています。
感想ですが、面白かったです。買って当たりだと思いました。そして世の中には、化学という括りの中だけでもまたこんなに知らない事があるんだなと改めて認識させてくれる一冊でした。(例えば麻酔の効き目はその化合物のオリーブオイルへの溶解度と相関がある、なんて全く知りませんでした。表面的な理屈は単純ですが、隣の常識はウチの非常識。)
巻頭言でLippard教授(MIT)が言う“synthesis is the heart of chemistry”は確かにそうかもしれませんが、一方Arms and legs, Eyes and earsとなるApplied ChemistryやAnalytical Chemistryの実際を垣間見られるような書籍やウェブサイトはまだまだ乏しいと思いますし、何よりこれだけの人数の教授が一度に易しく語ってくれることなど滅多にありません。時間のある学部生は自ら教授を尋ねて話を聞くのもアリですが(ちゃんと事前連絡をしましょう)、この一冊を読んでからだと先生方のお話もよりスムーズに頭に入ってくることでしょう。
将来、日本語翻訳版の発売もあるかもしれませんが、英語が苦手な方でもKindle版を購入してパソコンやスマートフォン、タブレットPCなどでシンクロし、隙間の時間に手元の端末で読まれてはいかがでしょうか。
より大雑把に、かつ日本語でざっと他分野を眺めたい方には↓の「感動する化学」も良い本です。学位論文のイントロで何か大きいことを言う際のネタ本にも役立ちます。関連書籍の二冊目は、科学全般の話題が平易に書かれた英語の読み物として良い本です。一般向け。