内容
This is a practical guidebook about cyclopropanes that thoroughly surveys derivatives and transformations, synthetic methods, and experimental efficiency as a gateway for further research and development in the field.
• Provides comprehensive lists and synthetically-oriented synopses of cyclopropane chemistry review references along with publication data on applications in the syntheses of natural and related biologically active compounds
• Acts as a resource to help readers better understand cyclopropane applications for the efficient realization of synthetically important organic transformations and popular experimental procedures
• Includes new developments and up-to-date information that will lead to original methodologies for complex organic synthesis
• Stresses universality, flexibility, and experimental efficiency of a strategy based on preparing cyclopropane derivatives and performing ring cleavage reactions with inexpensive reagents
• Focuses on the synthetic potential of cyclopropane applications, for example the synthesis of natural compounds and other target-oriented syntheses via cyclopropane intermediaries, as well on their planning by retrosynthetic analysis(ワイリーHPより)
対象
大学院生以上、有機化学者
解説
タイトル通り炭素三員環であるシクロプロパン及びそれをつくる有機合成に関する書籍である。こういう”マニアックな”書籍を作ることができるのが、読者の多い英語書籍の強み。以前、同じ三員環のなかでもヘテロ環、つまりアジリジンやエポキシドの合成に関する書籍が同様にワイリーから発売されており、おいおいなんじゃこりゃあと思った記憶があるが、言ってしまえばその「炭素」バージョン。
[amazonjs asin=”3527312137″ locale=”JP” title=”Aziridines and Epoxides in Organic Synthesis”]さて、個人的には三員環が大好きで、学生の時につくっていた化合物は全部エポキシドが入っていた。それから少し三員環からは遠ざかっていたが、最近、中間体としてアジリジンを経由しうる反応や、シクロプロパンを官能基化する反応に携わった(DOI: 10.1002/anie.201409186)ことからもう一度三員環を勉強してみようと思ったのが本書籍を購入した経緯である。
シクロプロパン(シクロプロピル基)はオレフィンやイソプロピル基の代替として医薬品にもたくさんみられるだけでなく(図1)、その構造由来の面白い反応性を示すことから有機合成ではかなりメジャーな構造単位である。
本書は、全418ページの比較的分厚い本であり、Part I(反応性および有用性)、Part II(合成的応用)に分かれており、両者のなかに11の章立てがされている。1章では15ページほどでシクロプロパンの構造的な性質や反応性を述べ、2章ではシクロプロパンの開裂反応について述べている。有名なのは活性シクロプロパンである、アルキリデンシクロプロパン、(ジ)ビニルシクロプロパン、ドナー・アクセプター型シクロプロパンなどがある。
3章では、シクロプロパンの合成法を述べている。一般的な、Simmons-Smith反応、金属カルベノイドを用いるシクロプロパン化から意外と知られていない合成法まで。ここまでで引用文献を含めて90ページ。
4章からは、Part IIに含まれ、シクロプロパンを原料として使った合成的な応用について記載されている。一般的なシクロプロパンから他の有機化合物への逆合成解析(4章)から、鎖状の化合物(5章)、4員環(6章)、5員環(7章)… 8員環(10章)、そしてヘテロ環(11章)とかなりボリュームがある。まさに本書はシクロプロパンを極めるための書籍であるといえよう。目的通りの本で、個人的には大満足である。ぜひ、三員環の世界にどっぷりと浸かってみてはいかがでしょうか。
最後に、著者のOleg G. Kulinkovich教授はBelarusian State University(ベラルーシ共和国)の化学者で、触媒量のTi(OiPr)4および二等量のGrignard試薬を用いてエステルをシクロプロパノールへと変換する反応である、Kulinkovich反応の開発者でもあることからシクロプロパン合成研究の第一人者である。