内容
世界を代表する医薬品のうち109の化合物について,その製法と合成における重要な医薬中間体の合成法を解説.それぞれの医薬品と類似薬の概略も示した.効率性・経済性を極限まで追求した医薬品の実際の合成スキームを探ることで,実学としての有機化学を身につけることができる.創薬化学やプロセス化学に興味をもつ大学生・大学院生,製薬メーカーや中間体製造メーカーの研究者にとって,有機合成のための戦略を練るうえで有用な成書である.(化学同人HPより)
対象
大学院生以上
解説
2015年7月に発売された有機合成化学、特に医薬品の合成に関する書籍である。化学同人と有機合成化学協会の編集委員がタッグを組んで出版する書籍シリーズ。「天然物で活躍した反応」や「演習で学ぶ有機反応機構」など、合成化学を学ぶものにとって、有用な指南書となる書籍を毎回企画している。
[amazonjs asin=”4759814795″ locale=”JP” title=”天然物合成で活躍した反応: 実験のコツとポイント”][amazonjs asin=”4759810455″ locale=”JP” title=”演習で学ぶ有機反応機構―大学院入試から最先端まで”]本書もそのひとつとなる書籍であり、ブロックバスターといわれる1000億円以上の売上を叩きだした医薬品など、世界医薬品売上ランキング上位200位から構造的に興味深い化合物109個をピックアップしその合成法を紹介している(なぜ109という中途半端な数字なのか気になるところであるが)。医薬品に関する同様の書籍としては「トップドラッグから学ぶ創薬化学」があるが、これは医薬品の作用機序と開発経緯に(加えていくつかの化合物の合成方法)フォーカスした書籍であり、今回の書籍とは方向性が異なる。
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さて本書籍の中身をみてみよう(下図)。ほとんどが医薬品1つに見開き2ページとみやすくなっている。医薬品の構造式をはじめに、医薬品の概要(商品名、発売年、効用、作用機序)などが箇条書きに完結に記されている。類似薬の記載もあり、医薬品として効能が類似している薬の構造をみることができる。その後、この書籍のメインの医薬品の製法となるが、簡単な合成法の説明と、反応式が並んでいる。実際、ヘテロ環合成法を除けば、ほとんどの医薬品が、大学レベルでならう有機合成反応でできていることが分かるだろう。そういっても、トンスケールでの医薬品合成に採用されているため、精査を重ねた洗練された合成法であることは間違いない。自身で合成法を考えながら、製法を後にのぞいてみるのも良いと思う。医薬品の合成法はすべて公開されているわけではないので、少し古い方法や、特許に報告されているところから著者らが読み取った合成法もあるが、少なくとも、これらをすべて調べる手間を省ける。最後に元文献も紹介されているので、元文献を引用する際にも利用できる。医薬品の構造は新しい合成法の対象となることが多いので、ここに掲載されている医薬品の名前から最新の文献で新しい合成法を調べてみるのもよいだろう。
何れにしても、同書籍のような医薬品の合成法を集めた書籍はこれまでにほとんどないため、最低限研究室に1冊、個人的に所有していても全く損はないと思われる。一点、合成化学者に向けての書籍ならば、薬の名前からの目次に加えて、構造式を羅列した目次があればあるとよいと感じた。以上、院試に望む大学生から大学院生、さらに合成化学までにおすすめの一冊である。