概要
有機化学,錯体化学,触媒化学,高分子化学を専攻する学部学生から大学院生,研究者まで有用
有機合成に役立つ触媒反応101項目をピックアップ.最近の進歩を取入れて,わが国を代表する有機化学者64名が,各合成反応と実験手法について簡潔に解説.
【本書の特徴】
・各反応は,概要,代表例,用途,参考文献,実施例,その他参考になることを見開き2ページにまとめた.
・具体的な反応例が豊富.(引用:東京化学同人)
対象
大学の教科書で勉強する有機化学反応の発展を取り扱っており、化学を専攻する学部3年生以上の学生、大学院生、研究者が対象の書籍です。
目次
- 酸化(10反応)
- 還元(3反応)
- 付加(31反応)
- カルベン錯体・カルビン錯体の反応(4反応)
- カップリング(18反応)
- C-H官能基化(11反応)
- 縮合(4反応)
- 重合(20反応)
解説
本書は、2004年に出版された「有機合成のための触媒反応103」の新版として新たな有機合成法を実施する際に必要な知識と実験のコツを要領よく体得できる参考書として出版されました。そのため、見開きごとに各反応が解説されており、どの反応でも[概要][代表例][用途][キーワード][実施例][注意点][その他参考になること]の順で解説されています。[概要]では該当する反応の特徴や使用される触媒、産業での応用例が解説されています。[代表例]は代表的な合成反応を参考文献から引用しどのような化合物に対して反応するかを知ることができます。[用途]はその[代表例]を捕捉する形でどのような化合物に適応されるかが簡潔にまとめられています。[実施例]では論文から実験条件を引用しています。試薬、ガラス器具、スケール、反応時間と温度、ワークアップ、カラムの溶媒まで詳しく解説されており、反応によっては試薬会社と製品番号まで記載されており、本書を読むだけでこの反応を実際に挑戦できます。[注意点]では、試薬の毒性、合成の危険性、精製テクニックが補足されており実験者が陥るトラブルの回避策までも提示されています。[その他参考になること]では、追加の内容として触媒の構造式や改良された反応例が提示されています。
感想
自分(Zeolinite)としてはほとんどの反応を知らず、どのような触媒と基質の組み合わせで反応が進行するか、どの反応を見ても勉強になりました。特に不斉合成や重合反応は自分の研究の中で関わりがなかったので、これらの反応に使われる触媒の種類を知ることができました。本書で学んだ反応を使って新しい分子を合成するかだけでなく、反応を発展させて新しい反応を開発することや、反応機構を推定・解明することなども次の展開として考えられ、合成だけでなく様々な有機化学の研究において役に立つ書籍だと思います。
Macyも読ませていただいたので、別の視点から感想をお伝えさせていただきます。2005年に出版された「人名反応に学ぶ有機合成戦略」はすでに絶版となってしまいましたが(Kindle版は引き続き発売しているそうです)、複雑な構造をより簡単に構築するために化学反応は時代と共に成長し続けているので、有機合成のための触媒反応103のリメイク版を出版することは非常に価値の高いことだと思います。
[amazonjs asin=”B086BH3YC7″ locale=”JP” title=”人名反応に学ぶ有機合成戦略”]タイトルは有機合成のための新触媒反応ということですが、sp2カップリング系以外の不斉炭素を生じる反応の多くは不斉反応が紹介されています。一部の不斉化できていない反応はラセミ体生成物で記述されているので、今後の課題として捉えることもできると思いました。また、現在検討している反応(合成方法論)開発が本書に載っていないことにホッとしました(笑)。不斉反応を中心に取り上げているということは裏を返せば、不斉点をすでにもつ多段階合成中盤〜終盤に使うジアステレオ選択的な反応条件についてはほとんど言及がないことになります。本書のようなスタイルで、天然物合成や医薬品合成に利用された代表的な反応例や実施例を取り上げた合成テクニック集などがあるととても便利だなぁと思います。
見開きの右ページには実施例が多く記載されており、日本語で書かれているため、原本と見比べることで実験項を読み慣れていない初学者の勉強に良いです。詳細な反応機構についてはあまり触れていない一方、実践的な反応例が実験項と共に載っているため、反応の辞書的な使い方にも適していて、大いに研究の参考になると思います。また、この本を勉強会の題材に使うのも面白いと思います。なお、後のDAICHANさんのレビューにある通り、反応機構に関しては詳しく書かれていないため、本書だけで反応の勉強をしようと思うと初学者には難しいのかと思います。
DAICHANからは、旧版 「有機合成のための触媒反応103」 との違いについてレビューいたします。
本書は出版社からの解説においても「改訂」とは言われておらず、体裁は同じながら内容を完全に一新した書籍となっています。同じ触媒反応に関しても、17年の時を経て大幅にアップデートされた記事となっており、実用的な話に留まらず、21世紀に入って大いに発展した触媒化学の歴史を紐解くロードムービー感を体験できると思います。そもそも21世紀の有機化学はここまで、触媒とともに発展してきたと言っても過言ではないでしょう。2001年の野依良治先生らの不斉触媒を皮切りに、2005年のGrubbs 先生らのメタセシス反応、2010年の鈴木章・根岸英一・Richard Fred Heck各先生のクロスカップリング反応、そして 2021 年の David McMillan ・ Benjamin List 両先生の有機分子触媒と、ノーベル化学賞の中でもガチガチの有機化学における受賞は触媒化学の独壇場となっています。奇しくも本書のプロジェクトが立ち上がったであろうその後に有機分子触媒がノーベル化学賞を受賞しました。このタイミングで読まない手は無いだろうと、まさに狙ったかのように (笑) 出版された書籍です。ケムステ読者の皆様の必携書として、強力にプッシュいたします!
さて、旧版と新版の具体的な違いですが、旧版でほとんど解説のなかったC–H官能基化の章が追加されていることや、カップリング反応にページを多く割くようになっていることなど、近年の触媒化学の潮流に沿った内容になっているのがまず一つです。それだけでなく、旧版で載っていた反応についてもほぼ全面改訂のような形となっています。例としてニトロアルドール反応を取り上げて説明します。旧版ではニトロアルドール反応実施における注意点を述べたのち、固体触媒として Amberlyst A-21 やアルミナを用いる例が紹介されており、最後に不斉ニトロアルドール反応として La-Li-(R)-BINOL を用いた反応例と TIPS が載っています。一方、新版ではそもそもの項目タイトルが「不斉ニトロアルドール反応」となっており、不斉La触媒、不斉 Cu 触媒、不斉ホスホニウム触媒、不斉二核 Zn 触媒、不斉 Nd/Na 触媒など、バラエティ豊かな不斉金属/有機触媒を用いた例が収録されています。またカルベン錯体に関しても、旧版ではオレフィンメタセシスの基本的事項から解説されていたのに対し、新版ではいきなり立体選択的アルケンメタセシスの解説から始まります。この辺りから感じ取れるように、本新版は初学者向けではなく、旧版を読み込んだ方がさらなるブラッシュアップのために手に取るべき本であるとも思いました。ともかく旧版と新版では内容が全く異なっているため、可能であれば「触媒反応103」「新触媒反応101」両方とも入手して勉強することをオススメします。