持続可能な社会の実現に向けて、太陽電池は太陽光発電における中心的な要素として注目されてきました。その中でもペロブスカイト太陽電池は次世代の太陽電池として非常に注目されており、研究開発が盛んに行われています。ペロブスカイト太陽電池の開発はここ数年で目覚ましい進捗を遂げているものの、実用化にはまだまだ課題が残っているというのが現状です。本稿では、ペロブスカイト太陽電池の実用化に向けた支援をするべく、ペロブスカイト太陽電池の開発における課題、それに対するマテリアルズ・インフォマティクス (MI) の活用方法やその利点について説明します。
目次
1. ペロブスカイト太陽電池開発の概要と現状
a. ペロブスカイト太陽電池とは
2. マテリアルズ・インフォマティクスとは
3. マテリアルズ・インフォマティクスを活用したペロブスカイト太陽電池開発
a. ペロブスカイト組成の探索
b. ペロブスカイト組成の比率最適化
c. 界面パッシベーション材の探索
d. 有機ホール輸送材の探索
e. 製造プロセスの最適化
4. まとめ
ペロブスカイト太陽電池開発の概要と現状
ペロブスカイト太陽電池とは、ペロブスカイト構造を持つ化合物を光吸収層 (このような光吸収層をペロブスカイト層と呼びます) として用いている太陽電池です。ペロブスカイト構造とは、図1に示すような結晶構造を指し、その組成は一般式ABX3で表されます。ここで、Aにはメチルアンモニウムなどの有機陽イオン、Bには鉛やスズなどの金属陽イオン、そしてXにはハロゲンイオンが位置する組成が太陽電池の光吸収層として典型的です。特に、ヨウ化鉛メチルアンモニウム(CH₃NH₃PbI₃)は代表的な材料として活発に研究されています。
図2にペロブスカイト太陽電池のセル構成の例を示します。図に示す通りペロブスカイト結晶からなる層 (ペロブスカイト層) を電子輸送層とホール輸送層で挟み込む形で構成されます。ペロブスカイト層に太陽光が当たることで電子が励起し、価電子帯から伝導帯へ移動します。その際、価電子帯にはホール (正孔) が生じます。励起した電子とホールの一部は再結合して消滅しますが、一部は再結合せず、それぞれ電子輸送層、ホール輸送層へと移動します。そして、それらがペロブスカイト層へ戻ることなく外部回路を経由して再結合することにより電力が生じます。
マテリアルズ・インフォマティクスを活用したペロブスカイト太陽電池開発
本稿の主題であるペロブスカイト太陽電池にはペロブスカイト層の組成をはじめ、電荷 (電子またはホール) 輸送層の材料や添加剤、製造プロセスパラメータなど最適化すべき項目が多数存在します。下記3つのアプローチすべてがペロブスカイト太陽電池の開発への活用の余地があります。以降ではペロブスカイト太陽電池の各要素について上記のMIアプローチを用いてどのように問題を解くことができるか具体的に解説していきます。
1. 仮想スクリーニング
2. 新規材料探索
3. 実験条件最適化
ペロブスカイト太陽電池は多数の要素によって構成され、それぞれに改善の余地が存在します。これらの構成要素のうち、以下の開発テーマをピックアップし、MIを活用するイメージを提供します。
● ペロブスカイト組成の探索
● ペロブスカイト組成の比率最適化
● 界面パッシベーション剤の探索
● ホール輸送材のための有機半導体探索
● 製造プロセスの最適化