こんにちは!熊葛です.天然物は複雑な構造と有用な活性を有することから多くの化学者を魅了し,創薬に貢献してきました.そんな天然物を植物や微生物から探索してくる,いわゆる”ものとり“研究は古くから行われてきました.現在でも,特に多剤耐性菌などの出現から新たな作用機序を持つ有用活性天然物が求められています.今回は新たな抗真菌活性を有するマクロライド天然物”mandimycin”の発見がNature誌に報告されたので,この論文を題材として有用活性天然物の探索について書いていきたいと思います.
Deng, Q.; Li, Y.; He, W.; Chen, T.; Liu, N.; Ma, L.; Qiu, Z.; Shang, Z.; Wang, Z. A Polyene Macrolide Targeting Phospholipids in the Fungal Cell Membrane. Nature 2025, 1–9. https://doi.org/10.1038/s41586-025-08678-9.
有用活性天然物の探索
古くから行われてきた天然物探索ですが,現在求められているのは有用な活性のある新規天然物になります.一番メジャーな方法としては①微生物などを大量培養する②カラムで代謝物を複数のフラクションに分ける③それぞれのフラクションに対して活性試験などアッセイを行う④活性のあるフラクションから目的物を取ってくる,の流れになります (図1).有名なものだと,streptomycinやavermectinになります.1, 2 最近でもこのような手法により,リボソームに結合することで幅広い抗菌スペクトルを示すペプチド化合物の発見がNature本誌にて報告されました.3

図1 : 天然物探索の概要
一方で,このような天然物の探索においては
・既知化合物の再発見
・作用機序が既知
といったケースがあります.このような方法を解決するために,例えばカラム精製の段階で既知化合物との比較をLC-MS/MSにより行うなどの技術の発展があります.この手法であれば既知化合物とは異なる構造を有する天然物を獲得することが可能です.
生合成遺伝子に着目した天然物探索
ゲノム解析が進むと,天然物を作るために必要な酵素を作る遺伝子,すなわち生合成遺伝子というものが存在することが段々と明らかになりました.特に微生物では,ある天然物を作る生合成遺伝子がカセットのようにまとまっていることが分かってきました.これを生合成遺伝子クラスター (BGC) と言います (図2).

図2:生合成遺伝子と天然物 (penicillinを代表例として)
BGCを利用した天然物探索は大きく分けて2つあり,
①休眠遺伝子の活性化
②有用活性に必要な構造を作ることが期待されるBGCの探索
が行われています.
微生物では多くのBGCの遺伝子発現がオフになっており,培養液への化合物の添加,別の微生物との共培養,異種発現などにより無理やり発現させることで様々な天然物の獲得が可能となりました.
また,BGCを見ればどのような天然物が獲得できるかを予測することが可能です.例えば糖転移酵素があれば糖のついた化合物の獲得が期待できます.また,自己耐性遺伝子などに着目した天然物探索も行われており,BGC内に一次代謝に関わる酵素をコードする遺伝子が存在すると,その酵素を阻害する天然物のBGCであることが期待されます.
さて,今回発見されたmandimycinは,構造も活性の作用機序も新規のマクロライド天然物でした.ではどのようにして発見されたのでしょうか.
まず背景として,今回活性の対象としたのは多剤耐性真菌病原体であるCandida aurisです.最悪の場合,この菌では主要な抗真菌薬であるポリエン系/アゾール系/エキノキャンディ系/5-フルシトシンなどに耐性を持ってしまっています.そこで,筆者らは新たな抗真菌天然物を探索することとしました.
Mandimycinの発見
著者らは新たなポリエン系マクロライドファミリーを開拓することとしました.ポリエン系マクロライドファミリーは多様な構造,強力で幅広い抗真菌活性などが特徴です.さらに,このファミリーの代表化合物であるアムホテリシンBでは,活性に必要なアミノデオキシ糖であるmycosamineを有しております (図3).4 そこで著者らは,ゲノム上からマクロライド骨格にmycosamineを転移する酵素とマクロライド骨格を作る酵素の両方を有するBGCの探索を行いました.

図3:ポリエン系マクロライドファミリーの例(赤い部分がmycosamine)
著者らははじめに,約30万の細菌のゲノムと150のStreptmyces属のゲノムからantiSMASHというツールを用いてBGCのアノテーションを行いました.得られた178万個のBGCから,マクロライド骨格へmycosamineを転移する糖転移酵素を有するBGCへ絞ると280個になりました.このBGCの糖転移酵素を系統樹解析したところ,図4に示すオレンジの部分の糖転移酵素では,既知のマクロライド系ファミリーとは異なるクレードに属していたため,新規天然物の獲得が期待できました.

図4:糖転移酵素の系統樹解析
このなかから著者らは図5aに示すBGC (mand BGC) に着目しました.このmand BGCには,マクロライド骨格を作るのに必要なポリケタイド合成酵素,さらにデオキシ糖を転移する2つの糖転移酵素も含まれていました (図5a).このBGCを有するStreptmyces netropsis DSM 40259株を培養し,代謝物をHPLCで分析すると,ポリエン系マクロライドに特徴的なUV吸収を有するピークが得られました.さらにmand BGCの発現をノックアウトするとピークが消え,またさらに抗真菌活性も消失したことから,このmand BGCが抗真菌性ポリエン二次代謝物を生合成していることが示唆されました (図5b).構造解析の結果,この化合物は38員環のマクロライドであり,またmycosamineや天然では珍しいatratcynose Aを含む合計3つの糖を有している,新規天然物であることがわかりました (図5c).

図5:mandimycinのBGC,抗真菌活性,化学構造
Mandimycinの抗真菌活性
はじめに抗真菌活性を調査したところ,WHOのリストアップしている18の耐性真菌に対してすべて活性を示しました.さらにAspergillus fumigatusをはじめとした他の真菌に対しても発育阻害を示し,幅広い抗真菌スペクトルを有していることがわかりました.
さらに活性の作用機序を調べると,Candida albicansに対して用量依存的にカリウムイオンの流出を引き起こすことが分かり (図6b),電子顕微鏡からもその様子が確認できたことから (図6c),mandimycinは細胞膜を破壊することが示唆されました.

図6:細胞膜の破壊
続いて作用機序を詳細に調べました.一般的にポリエン系マクロライドファミリーは細胞膜中のエルゴステロールを標的とすることが知られています.しかし,これらエルゴステロールを標的とするマクロライド系抗生物質の耐性真菌に対してもmandimycinは活性を示し,さらに細胞膜に存在するエルゴステロールの量も変化がありませんでした.また,mandimycinとエルゴステロールとの結合アッセイを実施しても結合シグナルを示さなかったことから,mandimycinの標的はエルゴステロールではないことが示されました.
そこで標的分子を探索したところ,リン脂質と相互作用していることが分かり,既知の抗真菌薬の作用機序とは異なることが分かりました.さらにmandimycinに特徴的なatratcynose Aを持たないmandimycin Bではリン脂質に結合せず,既知のマクロライド系抗生物質と同様にエルゴステロールに結合することから,atratcynose A部分がリン脂質への結合に必要であることが示唆されました.

図7:抗真菌薬の作用標的 (PharmWikiより引用)
Mandimycinの推定の作用機序についてですが,エルゴステロールを標的とする抗真菌薬では膜外に凝集体として存在することでエルゴステロールを取り出すスポンジモデルが提唱されています (図8).5, 6 今回のmandimycinによってカリウムイオンの流出は見られましたが,これが同様にスポンジモデルによるものか,イオンチャネルの形成なのかについて今後の研究の進展が気になります.また,このmandimycinはリン脂質を外膜に持つ細菌を阻害しないことが分かりました.このような標的生物の違いについても気になるところです.

図8:スポンジモデル (参考文献6より引用)
既知のマクロライド系抗生物質との比較
今回得られたmandimycinは,in vivo試験において耐性株のCandida aurisに対してマウスの真菌減少を引き起こしたこと,アムホテリシンBの9700倍の水溶性を持つこと,耐性化を引き起こさないこと,一般的な副作用として知られる腎毒性が弱いこと,薬物動態試験も良好であったことが分かりました.以上のことから,今回の手法により新規天然物かつ新規作用機序の抗生物質の獲得に成功しました.
まとめ
有用天然物の探索は様々なアプローチから行われていますが,天然物を作る酵素をコードする遺伝子の系統学的解析は非常に有効な手段であることが分かると思います.今回はこのポリエン系マクロライド天然物に焦点を当てましたが,まだまだ天然物を作る遺伝子は宝箱のように存在します.今後も新たな天然物が発見され,それが臨床の現場で使われていくことが期待されます.
参考文献
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Corrresponding author
Zongqiang Wang:中国薬科大学教授
研究分野:ポリケタイドおよびペプチド天然物の生合成および化学合成
URL : https://en.cpu.edu.cn/wzq_en/main.htm
関連リンク
- 日本語版解説記事:創薬: 新しい抗真菌薬が多剤耐性の真菌を撃退