50歳前後は、会社員にとってキャリアの大きな節目となります。定年までの道筋を見据えて、現職に留まるべきか、それともこれまでのキャリアを活かして新たな活躍の場を求めるべきか悩む方も多いことでしょう。特に専門性の高い分野で長年経験を積んできた方ほど、こうした選択に迷いが生じる傾向があります。
このような重要な決断を下す際、どちらが本当に最適な選択かを一人で判断するのは難しい場合もあります。今回は、外資系医薬品メーカーで長年マーケティング業務を担当してきた方が、LHH転職エージェントのコンサルタントと共に最適な転職先を見つけるまでの過程と、その成功のポイントを、担当のLife Science & Medical紹介部の山谷千明さんに伺いました。
この記事のポイント
1.シニア層の転職における課題の整理
2.キャリアだけでなく、人柄を深く読み取る面談
3.ビジョンマッチングによる求人企業の選出
4.自己を適切に表現するための緻密な面接対策
5.転職活動における家族への配慮
6.人材価値を高めるコンサルティングで現職同等の年収を獲得
キャリア豊富な50代が直面する求人年収の壁
LHH転職エージェント(以下、LHH)のLife Science & Medical紹介部は、ライフサイエンス、メディカル、ヘルスケア関連の転職支援を行っています。同部でマネージャーを務める山谷さんは、主に海外展開を進める日系製薬会社や、外資系製薬会社、CDMO(医薬品開発製造受託機関)など多様な企業を担当しています。
これまでに約150件の転職を成功に導いてきた山谷さんは、「50歳前後の転職には、さまざまな課題がつきまとう」と話します。
「求職者が実現したい仕事や将来像を軸とした“ビジョンマッチング”が、当社のコンサルティングの特徴です。30代や40代であれば、求職者のキャリアビジョンやライフビジョンを丁寧に聞き取り、それに見合う求人を見つければ、比較的スムーズに転職が進むケースが多いです。しかし、50代になると状況は一変します。」
50代の転職では、豊富なキャリアがあっても転職活動が難航することが少なくありません。特に大きな課題となるのは「年収」です。
専門性の高い業務で長いキャリアを持つ方は、現職で高い年収を得ていることが多いですが、転職先の年収条件が現職より低い場合も多々あり、ご本人やご家族が納得できないケースも少なくありません。
「一方で、求職者の情報が正確に伝わり、求人企業がそのキャリアや熱意に魅力を感じた場合、求人条件を上回る年収が提示されることもあります。今回の事例のKさんは、まさにそのケースです」と山谷さん。
LHHのコンサルタントは、求職者と求人企業を結びつけるだけでなく、条件面の調整も重要な役割として担っています。
「もっとキャリアを活かしたい」という希望を受けて
Kさんは外資系の製薬会社に勤務する50代の男性です。「長年医薬品のマーケティング部門に在籍し、特に市場調査に基づく製品戦略の立案やプロダクトマネージャーとしても活躍され、非常に豊富な経験を積んでこられました」と山谷さんはふり返ります。
Kさんの転職理由は、会社の方針変更に伴い、長年取り組んできた業務内容が変わってきたことにありました。しかし、Kさんは現職の会社や業務に強い不満があったわけではなく、新たな業務も「得るものがあり、良い経験になっている」と前向きに捉えていました。
それでも、「定年までの年限で、本当に自分がやりたい仕事をするには、現職に留まっていていいのか」という疑問があり、それが転職活動を始めるきっかけになったのです。
「当初は、自分が携わりたい分野に近しい業務の社内公募も検討されていて、転職と社内公募の両方で考えられていました。」
長年勤めた会社を離れる決断には誰しも躊躇があるでしょう。
「それだけに、転職活動に踏み切るのは、相当に思い切った決断だったと思います」
Kさんのキャリア、医療分野での熱意、そして面談を通じて山谷さんが感じたKさんの強みは、その人柄でした。「話し方がとても丁寧で論理的な方で、最初から好印象を受けました。英語も堪能で、いい意味で自己主張が強すぎず、視野が広く常に周りに目を配るタイプの方で、謙虚さも併せ持っておられます」
外資系と日系の企業文化には違いがあり、外資系から日系への転職では企業風土に馴染めず苦労する方もいます。しかし、山谷さんはKさんの謙虚で柔軟な人柄であれば、日系企業にも十分に馴染めると判断しました。
そこで、山谷さんは同じ部署の萩原優季さんが担当している大手製薬会社を転職先候補として紹介しました。また、萩原さんを通して企業側にもKさんの求職情報を提供しました。
通常、LHHでは1人のコンサルタントが求職者と求人企業をつなぐ「360度のコンサルティング」を行い、それが特徴となっていますが、ケースによってはこのように、求職者側と求人企業側の担当者が連携して転職支援を行う場合もあります。山谷さんが候補とした企業は、グローバルな視点で医療ビジネスを推進する人材を求めており、この分野の経験が豊富で英語も堪能なKさんに対し、企業側も前向きな姿勢を示しました。
求職者の「やりたいこと」が給与条件を上回った瞬間
1次面接の準備段階で、Kさんは社内公募への応募も検討しつつ、転職活動に対して前向きな姿勢を示していました。
まず、Kさんが現職でどのような業務をしてきたか、職務経歴をきちんと整理することが最重要でしたが、山谷さんが特にアドバイスしたのは、転職を希望する理由の伝え方でした。
「Kさんに限りませんが、1社で長く勤務し、50歳前後で転職を希望する場合、企業側としては『なぜこのタイミングでの転職なのか』という点が気になります」
年齢が高くなるほど、企業が求職者を見る目はより厳しくなります。即戦力としての適応性、事業の将来像への見解、またその事業にどのように貢献できるかなど、年収も高水準になるため、企業側も慎重にならざるを得ません。Kさんは、山谷さんと頻繁にメールで連絡を取り合い、入念に準備を整えました。
その成果もあってか、Kさんは1次面接で非常に高い評価を得ました。
「1次面接後、ご本人が『とても貴重な話が聞けた』とおっしゃったことが強く印象に残っています。それをきっかけにKさんの転職意欲が急速に高まりました」
業務内容の話以上に、同社の医療事業の現状と将来ビジョンにKさんは強く惹かれ、自身でもさまざまな質問を行ったことで、「ここで働くイメージがわいた」と話していたそうです。
「弊社では、あまり表に出ない求人企業の社風や最新の社内事情について、コンサルタント間で情報を共有する体制があります。今回の事例でも、萩原さんと情報共有やすり合わせを行い、企業のバリュー、価値観、2030年に向けての中長期計画を丁寧にご本人にお伝えしていたことも面接における好印象につながったと思います。ただし、このマッチングには一つ懸念がありました。それは、求人条件として提示された年収額が現職の支給額をかなり下回っていた点です。通常、外資系製薬メーカーの給与水準は、日系製薬メーカーの給与水準を上回ることが多く、加えて、Kさんの給与は業界水準の中でも高く、同じ外資系製薬メーカーへの転職だったとしても年収ダウンの可能性は高かったです。それを理解していた、Kさんは「たとえ給与が低くても、この会社で貢献したい」と言い切っていたと山谷さんは振り返ります。Kさんは、自身の思いにかなう転職先を見出したのです。
転職を決意したときに大切なのは家族との話し合い
Kさんは2次面接を経て、内定を受けて入社を決意しました。Kさんの転職が成功したポイントは、ひとつにはKさん自身の価値が認められたことですが、山谷さんや萩原さんの支援による綿密な面接対策も大きな要因となっています。
「求職者と求人企業の間で、単に条件だけを調整するだけならAIでも可能です。しかし、私たちが大切にしているのは、求職者が転職を通じて何を実現したいのかを理解したうえで、最適な企業を見つけ、両者をつなぐことです。これは、両者の思いをすり合わせる作業で、機械的にはできない部分です。そこに私たちコンサルタントの介在価値があると思っています」
もう一つ、山谷さんがポイントとして挙げたのは「自分がどうしたいかの軸を持つこと、それを日頃から家族などの身近な人に話しておくこと」の重要性です。
例えば、家族への相談なしに転職活動を始めたり、内定が出てから転職の報告をすることで、せっかく希望に叶う職場を見つけても後から家族の反対にあうケースが多いそうです。
これは、自身のキャリアにおいて叶えたいビジョンについて普段からご家族に話していない場合に起こりやすいです。自分は何をしたいのか、どうしたいのかをしっかり持ちそれらを身近な人に日頃から話しておくことがとても重要です。安心して転職活動をするためにも、家族にやりたいことを応援してもらい、それを実現するための後押しをしてもらう体制を整えるのが大切です。
Kさんは「1次面接を終えた段階でご家族に自分が描く将来について話し、2次面接後には『最終的に提示された年収が現職より低くても自分は絶対に行くから』」と伝えていました。ご家族もKさんの転職に理解を示し、転職を応援してくれました。
懸念されていた給与についても、Kさんのキャリアと人柄が高く評価された結果、最終的には現職に近い年収額が提示されました。それは、日系製薬メーカーの同ポジションで提示される相場を超える金額でした。入社後にLHHが行ったアンケートの回答には、「感謝してもしきれない」という山谷さんへのメッセージとともに、「持てる力を発揮し、熱意のあるメンバーと頑張ってやっていきたい」という強い決意が添えられていました。
自己実現への道を共に探るコンサルティング
50歳前後で将来を考える際、現職にとどまるべきか、それとも転職を選ぶべきかという決断は、人生をかけた大きな選択といえます。しかし、こうした決断を1人で下すことは容易ではありません。今回のKさんも「やりたいこと」が明確でありながら、1次面接の段階までは迷いが残っていたといいます。
山谷さんは「私たちLHHコンサルタントの役割は、求職者の自己実現をサポートすることです。場合によっては、転職せず現職で活躍する道を提案することもあります」と言います。
求職者のキャリアがどのように社会的な価値を持つのか、そして他社でどの程度通用するのかを見極め、求職者と共にその将来像を具体化していくのが、ビジョンマッチングに基づくコンサルティングです。人生の節目において自分自身と向き合うとき、それは有力な相談相手と出会う貴重な機会となるでしょう。
山谷 千明
北里大学理学部化学科を卒業後、大手内資系製薬企業でMRとしての経験を積む。その後、理科教職を経て、2018年にLHH転職エージェント(アデコ株式会社)へ。現在は製薬業界や再生医療分野を中心に、ライフサイエンス領域の転職サポートを担当している。理系の知識を活かした深い理解力が強みであり、専門性の高い職種の採用支援においても豊富な実績を有している。
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LHH転職エージェントについて
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