ノーベル賞も発表されており、イグノーベル賞の紹介は今更かもしれませんが紹介記事を作成しました。
はじめに
今回のイグノーベル賞は9月12日に受賞式が開催されました。コロナ明け初めての会場開催となり、MITの講義室にイグノーベル賞受賞者とプレゼンターであるノーベル賞受賞者が集まりました。過去、年によっては化学賞が無い時もありましたが、2024年では化学賞が発表されましたので、この記事では化学賞を中心に紹介します。化学賞以外の細かい内容は、Lab BRAINSの記事を参照ください。
概要
受賞者:Tess Heeremans, Antoine Deblais, Daniel Bonn, and Sander Woutersen,
受賞タイトル:Using chromatography to separate drunk and sober worms.
リファレンス: “Chromatographic Separation of Active Polymer–Like Worm Mixtures by Contour Length and Activity,” Tess Heeremans, Antoine Deblais, Daniel Bonn, and Sander Woutersen, Science Advances, vol. 8, no. 23, 2022, article eabj7918.
各賞の前にプレゼンターとして参加されるノーベル賞受賞者の紹介がありました。化学賞においては、2023年にノーベル化学賞を受賞したモウンジ・バウェンディ教授が参加されました。
化学賞は1:03:05付近から始まります。まず、マーク・エイブラハムズによる受賞者とタイトルの発表後、2007年にノーベル経済学賞を受賞したエリック・マスキンにより毎度おなじみの記念品授与がありました。その後、受賞者による研究内容の紹介がありましたが、ぬいぐるみを使ってそのようにクロマトグラフィーがなされるかをコミカルに説明されており、会場は大盛り上がりでした。
内容
ここからは受賞論文の内容を見ていきます。
研究の背景として、物質の活性度を評価することの重要性があり、例えば細菌の毒性はその運動性に関連し、精子の運動性は受精率に大きく影響することが分かっています。そのため、自ら動くことができる生物の活性を調べる方法について盛んに研究が進められています。しかしながら、これまでの研究対象は点の粒子であり、長細い”アクティブポリマー”に関する評価は、ほとんど行われてきませんでした。そこで本研究では、鎖状の構造が動きを持つアクティブポリマーを研究対象とし、ミミズをそのモデル物質として評価を行いました。
実験に使用したイトミミズは10-40 mmで、能動的に動くことが分かっています。まず、クロマトグラフィーでは、活性の低いミミズと高いミミズを分けることが目的ですが、その前に活性の低いミミズと高いミミズを意図的に作り、その活性度を数値化する必要がありました。そのため本研究では、イトミミズの動きを追跡し、頭の先からお尻までの直接距離を測ることでその時間変化の値を算出しました。活性度の加減についてはエタノールを使用しました。実際3-5%のエタノール溶液に入れると活性が低下することが確認されています。淡水にイトミミズを戻すと徐々に活性度は戻りますが、このタイムスケールは10分ほどであり、次で紹介するクロマトグラフィーの実験には影響がないと判断しています。
次に、イトミミズをクロマトグラフィーするための実験器具として円柱を無数に立てたピラーアレイを作製しました。下の図の通り、水流がある中にイトミミズを入れて移動距離を調べました。
結果、活性とピラーアレイから溶出されるまでの時間には、相関があることが分かりました。また別の因子としてミミズの輪郭の長さについても相関がみられました。
そもそもイトミミズ自体の長さには違いが無いのに、なぜ活性が低いとなぜピラーアレイでの移動速度が遅くなるのでしょうか。イトミミズの動きをよく見ると、柱を迂回するの際には「丸まる」および「結び目を作る」形態を示していて、活性が低いとその動きをしにくくなること分かっています。
最後にイトミミズの分離を試みました。色素によって色を変えた高活性と低活性ミミズを50%、50%ピラーアレイに入れ動きを観察しました。ここがまさにイグノーベル賞にて受賞者らが演じた部分であり、しらふのイトミミズとお酒を飲んだイトミミズを競争させると、お酒を飲んだ方は動きがゆっくりになってしまいます。結果、二つの集団の平均溶出時間の差は40秒であり効率的な分離が可能ということが分かりました。
結果、本研究によってポリマー状の物質のモデルとしてイトミミズが、活性をコントロールできることとその活性ごと数値化できること、さらにはクロマトグラフィーのように活性ごとに分離できることが示されました。活性と移動度の関連については、イトミミズがとるコンフォメーションの違いに起因することが示唆されていますが、深い理解には更なる検証が必要と論文では主張されています。
イグノーベル化学賞ととしては、実験方法を意訳して、カラムクロマトグラフィーによるしらふと酔っ払いイトミミズの分離というのが受賞タイトルになっています。カラムクロマトグラフィーというところで化学賞となりましたが、原著論文では、上記の通り化学の出番がほとんどなく、論文の分類においてもAPPLIED PHYSICSとなっております。もちろん論文の内容については興味深く、今後の研究が気になるところです。
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