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化学者のつぶやき

ぱたぱた組み替わるブルバレン誘導体を高度に置換する

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容易に合成可能なビシクロ[3.2.2]ノナン骨格を利用した、簡潔でエナンチオ選択的に多様な官能基をもつバルバラロンを合成することに成功した。また、他のブルバレン誘導体の合成も達成した。

ブルバレン誘導体の合成法開発

ブルバレン(1)は1963年DoeringとRothによって提唱された、シクロプロパンと3つのシクロヘプタジエンを含む対称性分子である(図1A)[1,2]Cope転位により全てのC–C結合が組み変わるため、分子を構成する全ての炭素と水素が等価という特異な性質をもつ。

ブルバレンやバルバラロン(2)、ブルバロン(3)などの変形性分子は、その興味深い物性だけでなく、生物活性分子や新奇触媒としても注目され、その合成は古くから試みられてきた[3]。しかし、1と比較して、23の合成報告はきわめて少ない。例えば、2の合成はカルベンを利用したシクロヘプタトリエンとの環化[4]やビシクロ[4.2.1]オクタトリエノン中間体[5]の異性化に限られる(図1B)。3に関しては、2の増炭反応による合成例のみである[4,5]。これらの変形性分子の迅速かつエナンチオ選択的な合成法は、変形性分子の有用性を大きく向上させると期待される。

Maimoneらは以前、ビシクロ[3.3.1]ノナン骨格を含む天然物ocellatusone Cの迅速合成を達成した(図1C)[6]。ビシクロ[3.2.2]ノナン骨格とバルバラロンの平衡を利用した、合成終盤における側鎖の導入が合成の要であった[7]。今回著者らは、光学活性なビシクロ[3.2.2]ノナン骨格を(光異性化後に)トリフラート化したのち、カップリング反応に付すことで、多様な置換基をもつバルバラロン誘導体を合成した(図1D)[8]。さらに、バルバラロン誘導体からバルバロンやブルバレンへの変換も達成した。

図1. (A) ブルバレン (B)バルバラロンの合成 (C) 先行研究 (D) 本研究

 

“Modular, Enantioselective Entry into Polysubstituted Shapeshifting Molecules”

Sanchez, A.; Gonzalez, V. M.; Sakamoto, J.; Gurajapu, A.; Maimone, T. J. J. Am. Chem. Soc. 2024, 146, 17573–17579. DOI: 10.1021/jacs.4c03323 

論文著者の紹介

研究者:Thomas J. Maimone

研究者の経歴:
2004                                          B.Sc., University of California, Berkeley, USA (Prof. Dirk Trauner)
2009                                          Ph.D., The Scripps Research Institute, USA (Prof. Phil S. Baran)
2009–2012         Postdoc, Massachusetts Institute of Technology, USA (Prof. Stephen L. Buchwald)
2012–2018         Assistant Professor, University of California, Berkeley, USA 
2018–2022         Associate Professor, University of California, Berkeley, USA
2022–                                       Professor, University of California, Berkeley, USA

研究内容:天然物合成、反応開発

 

論文の概要

著者らはまず、不斉アルミニウム触媒によるケテンジエチルアセタール4とトロポン5とのDiels–Alder反応により、高収率かつ高いエナンチオ選択性で6を得た(図2A)[9]6に種々のクロスカップリング反応を適用し、様々な置換基をもつビシクロ[3.2.2]ノナンジオン7を合成した。次に、ビシクロ骨格からバルバラロンへの変換を試みた。7にKHMDSを作用させた後、コミンズ試薬を添加することで、トリフラート8aが得られた(path a, 図2A)。また、7に紫色光を照射して光異性化させた後、LiHMDSを用いてpath a同様にトリフラート化することで、8aとは置換基の位置が異なる8bが単一のエナンチオマーとして得られた(path b, 図2A)。その後、トリフラート8a8bを再びカップリング反応させることで、複数種類の置換基をもつ2置換バルバラロン9の合成を達成した。

続いて、変形性分子を含む不斉配位子の合成を目指し、9へのホスフィン置換基の導入を試みた。ビシクロ骨格7aをトリフラート化し、続く鈴木・宮浦カップリングにより9aaを得た。その後、Pd(OAc)2触媒存在下、9aaにジシクロヘキシルホスフィンを導入し、10の合成に成功した(図2B)。さらに、二置換バルバラロン9ab9bbをTMSジアゾメタンによって増炭し、二置換ブルバロン11a11bに導いた。これらは、トリフラート化と続くPd触媒によるカップリング反応により、二置換または三置換ブルバレン12へと変換することができた(図2C)。

図2. (A) バルバラロン誘導体合成 (B) ホスフィン置換 (C) 多置換ブルバラン合成

 

以上、ビシクロ[3.2.2]ノナン骨格の反応性を利用することで、置換バルバラロンや置換ブルバロンなどの広範な変形性分子を、迅速かつエナンチオ選択的に合成することに成功した。本手法により、変形性分子に関する研究の発展が期待される。

参考文献

  1. von E. Doering, W.; Roth, W. R. A Rapidly Reversible Degenerate Cope Rearrangement. Tetrahedron 1963, 19, 715–737. DOI: 1016/s0040-4020(01)99207-5
  2. Ault, A. The Bullvalene Story. The Conception of Bullvalene, a Molecule That Has No Permanent Structure. Chem. Educ. 2001, 78, 924. DOI: 10.1021/ed078p924
  3. Bismillah, A. N.; Chapin, B. M.; Hussein, B. A.; McGonigal, P. R. Shapeshifting Molecules: The Story so Far and the Shape of Things to Come. Chem. Sci. 2020, 11, 324–332. DOI: 10.1039/c9sc05482k
  4. (a) von E. Doering, W.; Ferrier, B. M.; Fossel, E. T.; Hartenstein, J. H.; Jones, M., Jr.; Klumpp, G.; Rubin, R. M.; Saunders, M. A Rational Synthesis of Bullvalene Barbaralone and Derivatives; Bullvalone. Tetrahedron 1967, 23, 3943–3963. DOI: 1016/s0040-4020(01)97904-9 (b) Ferrer, S.; Echavarren, A. M. Synthesis of Barbaralones and Bullvalenes Made Easy by Gold Catalysis. Angew. Chem., Int. Ed. 2016, 55, 11178–11182. DOI: 10.1002/anie.201606101
  5. (a) Paquette, L. A.; Meisinger, R. H.; Wingard, R. E., Jr. Bishomoconjugative .Alpha.-Halo Ketone Rearrangement as a Route to Bicyclo[4.2.1]Nona-2,4,7-Trien-9-One and Barbaralone Derivatives. Am. Chem. Soc. 1972, 94, 2155–2157. DOI: 10.1021/ja00761a084 (b) Feldman, K. S.; Come, J. H.; Fegley, G. J.; Smith, B. D.; Parvez, M. Synthesis of the Barbaralone Nucleus via Photocyclization of an Alkynyl Tropone. Tetrahedron Lett. 1987, 28, 607–610. DOI: 10.1016/s0040-4039(00)95792-7
  6. (a)Sanchez, A.; Maimone, T. J. Taming Shapeshifting Anions: Total Synthesis of Ocellatusone C. J. Am. Chem. Soc. 2022, 144, 7594–7599. DOI: 10.1021/jacs.2c02627 (b) Sanchez, A.; Gurajapu, A.; Guo, W.; Kong, W.-Y.; Laconsay, C. J.; Settineri, N. S.; Tantillo, D. J.; Maimone, T. J. A Shapeshifting Roadmap for Polycyclic Skeletal Evolution. J. Am. Chem. Soc. 2023, 145, 13452–13461. DOI: 10.1021/jacs.3c03960
  7. Grutzner, J. B.; Winstein, S. Bicycloaromaticity. Stability and Rearrangements of the Bicyclo[3.2.2]Nonatrienyl Anion Cation. J. Am. Chem. Soc. 1972, 94, 2200–2208. DOI: 10.1021/ja00762a008
  8. (a) Houk, K. N. The Photochemistry and Spectroscopy of b, g-Unsaturated Carbonyl Compounds. Chem. Rev. 1976, 76, 1–74. DOI: 10.1021/cr60299a001(b) Zimmerman, H. E.; Armesto, D. Synthetic Aspects of the Di-p-Methane Rearrangement. Chem. Rev. 1996, 96, 3065–3112. DOI: 10.1021/cr910109c
  9. Li, P.; Yamamoto, H. Lewis Acid Catalyzed Inverse-Electron-Demand Diels−Alder Reaction of Tropones. J. Am. Chem. Soc. 2009, 131, 16628–16629. DOI: 10.1021/ja908127f

 

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