アルケンの位置選択的なアリール–アルキル化反応が報告された。ラジカルソーティングを用いた三種類のラジカルの反応性の制御が鍵である。
アルケンの二官能基化反応
アルケンがもつ2つの反応点を同時に官能基化する二官能基化反応は近年精力的に研究されている[1]。しかし、適用できる基質は配向基や電子的な偏りをもつアルケンに限られていた。Nevadoらは2019年、ニッケル触媒を用いて不活性アルケンの初の還元的アリール–アルキル化反応を報告した(図1A)。本反応では、アルケンへの三級ラジカルの付加に続くニッケル触媒を用いたアリール化により、級数の大きい炭素側にアリール基が付加する位置選択的アリール–アルキル化反応化を達成した[2]。しかし、逆の位置選択性を示すアルケンのアリール-アルキル化反応は未だ報告されていない。
一方、著者らは以前、“ラジカルソーティング”を用いたアルケンのジアルキル化反応を開発した(図1B)[3]。ラジカルソーティングは、ニッケル触媒とラジカルの結合形成前後のエネルギー差を利用して、より低級のラジカルを選別する手法である。ラジカルソーティングで生成したニッケル-アルキル錯体は、その後ホモリティック置換(SH2)反応により、クロスカップリング体を与える。
今回、著者らはラジカルソーティングを用いることで、級数の小さい炭素にアリール基が導入される、従来とは逆の位置選択性を示すアルケンのアリール–アルキル化反応を達成できると考えた。すなわち、系中で生じる一級アルキルラジカルがニッケル触媒と反応したのち、アリールラジカルとアルケンから生成した三級ラジカルとのSH2反応により所望のアリール–アルキル化体が生成すると考えた。
“Triple Radical Sorting: Aryl–Alkylation of Alkenes”
Wang, J. Z.; Mao, E.; Nguyen, J. A.; Lyon, W. L.; MacMillan, D. W. C. J. Am. Chem. Soc. 2024, 146, 15693–15700. DOI: 10.1021/jacs.4c05744
論文著者の紹介
研究者の経歴
1991 B.S., University of Glasgow, UK
1996 Ph.D., University of California, Irvine, USA (Prof. Larry E. Overman)
1996–1998 Postdoc, Harvard University, USA (Prof. David A. Evans)
1998–2000 Assistant Professor, University of California, Berkeley, USA
2000–2004 Associate Professor, California Institute of Technology, USA
2004–2006 Earle C. Anthony Professor of Chemistry, California Institute of Technology, USA
2006–2011 A. Barton Hepburn Professor of Chemistry, Princeton University, USA
2006– Director of the Merck Center for Catalysis, Princeton University, USA
2011 James S. McDonnell Distinguished University Professor of Chemistry, Princeton University, USA
研究内容:有機触媒を用いた不斉反応の開発、可視光レドックス触媒を利用した反応開発
論文の概要
アセトニトリル中、イリジウム触媒およびニッケル触媒存在下、AdmnSilaneを添加し、可視光を照射することでアルケン1のアリール–アルキル化が進行した(図2A)。本反応は末端アルケン1aから良好な収率で4aを与えるほか、ピリミジン(4b)など種々のアリールブロミドを用いた場合についてもアリール–アルキル化反応は進行した。また、アルキル基にはCD3基(4c)、エチル基(4d)、メトキシメチル(MOM)基(4e)などの導入にも成功した。
著者らの想定反応機構は以下の通りである(図2B)。まず可視光照射により励起された可視光励起触媒(*IrIII)がシランを還元しシリルラジカルが生じる。次にシリルラジカルによるアリールブロミド2のXATによりアリールラジカル5が生成し、アルケン1との反応によりアルキルラジカル中間体6を与える。一方、IrIIによる還元によって、N-ヒドロキシフタルイミドエステル3から一級ラジカル7が生成する。その後ニッケル触媒8に付加し、ニッケルアルキル錯体9が形成される。最後に6と9のSH2反応によって所望のアリール–アルキル化体4が得られる。
以上、三種類のラジカルを巧みに制御したアルケンのアリール–アルキル化反応が報告された。”ラジカルソーティング”を用いた多成分反応のさらなる発展に期待である。
参考文献
- (a) Derosa, J.; Apolinar, O.; Kang, T.; Tran, V. T.; Engle, K. M. Recent Developments in Nickel-Catalyzed Intermolecular Dicarbofunctionalization of Alkenes. Chem. Sci. 2020, 11, 4287–4296. DOI: 10.1039/C9SC06006E (b) Fumagalli, G.; Boyd, S.; Greaney, M. F. Oxyarylation and Aminoarylation of Styrenes Using Photoredox Catalysis. Org. Lett. 2013, 15, 4398–4401. DOI: 10.1021/ol401940c (c) Hari, D. P.; Hering, T.; Konig, B. The Photoredox-Catalyzed Meerwein Addition Reaction: Intermolecular Amino-Arylation of Alkenes. Angew. Chem., Int. Ed. 2014, 53, 725–728. DOI: 10.1002/anie.201307051 (d) Bunescu, A.; Abdelhamid, Y.; Gaunt, M. J. Multicomponent alkene azidoarylation by anion-mediated dual catalysis. Nature 2021, 598, 597–60. DOI: 10.1038/s41586-021-03980-8 (e) Cai, Y.; Chatterjee, S.; Ritter, T. Photoinduced Copper- Catalyzed Late-Stage Azidoarylation of Alkenes via Arylthianthrenium Salts. J. Am. Chem. Soc. 2023, 145, 13542–13548. DOI: 10.1021/jacs.3c04016 (f) Zhang, W.; Liu, T.; Ang, H. T.; Luo, P.; Lei, Z.; Luo, X.; Koh, M. J.; Wu, J. Modular and Practical 1,2-Aryl(Alkenyl) Heteroatom Functionalization of Alkenes through Iron/Photoredox Dual Catalysis. Angew. Chem., Int. Ed. 2023, 62, No. e202310978. DOI: 10.1002/anie.202310978
- Shu, W.; García-Domínguez, A.; Quirós, M. T.; Mondal, R.; Cárdenas, D. J.; Nevado, C. Ni-Catalyzed Reductive Dicarbofunctionalization of Nonactivated Alkenes: Scope and Mechanistic Insights. J. Am. Chem. Soc. 2019, 141, 13812–13821. DOI: 10.1021/jacs.9b02973
- Wang, J. Z.; Lyon, W. L.; MacMillan, D. W. C. Alkene Dialkylation by Triple Radical Sorting. Nature 2024, 628, 104–109. DOI: 10.1038/s41586-024-07165-x