有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2024年10月号がオンライン公開されています。
楽しかった学会シーズンも終わり、申請書シーズンですね… しんどいですが頑張りましょう。有機合成化学協会誌で勉強し、ビビッとくるネタを仕入れましょう。
今月号のキーワードは、「炭素–水素結合変換反応・脱芳香族的官能基化・ピクロトキサン型セスキテルペン・近赤外光反応制御・Benzimidazoline」です。
今回も、会員の方ならばそれぞれの画像をクリックすればJ-STAGEを通してすべてを閲覧することが可能です。
巻頭言:有機合成化学協会誌と私
今月号の巻頭言は、九州大学大学院理学研究院 大石 徹 教授による寄稿記事です。最後の2文に心から感銘を受けました。必読です。
非共有結合性相互作用を活用する位置選択的な炭素–水素結合変換反応の開発
2023年度有機合成化学協会企業冠賞 日産化学・有機合成新反応/手法賞
九州大学先導物質化学研究所
本総合論文では、非結合性相互作用を用いたC-H結合変換反応における新たな位置選択性制御法について述べており、特に、触媒と基質間に働く非共有結合性相互作用を利用する手法は、C-H結合変換の化学に大きな影響を与えた成果であります。コラムには、分子模型の活用に関する著者らのこだわりについても紹介されております。是非ご一読ください。
パラジウム触媒によるベンジルおよびアリール求電子剤の脱芳香族的官能基化の開発
*1早稲田大学理工学術院先進理工学研究科応用化学専攻
*2早稲田大学高等研究所
「ベンゼン環から三次元構造を構築する」
次世代の医農薬開発において、三次元性の高いケミカルスペースの拡充が求められています。そのような状況から、現代有機合成では多様かつ容易に合成可能となった多置換ベンゼンなどの平面性分子を三次元性骨格へと一挙に変換できれば、極めて有用です。そのアプローチとして筆者らは、Pd触媒による芳香環の脱芳香族化反応を達成しました。πベンジルパラジウム中間体を生じる反応を巧みにデザインすることによって、複雑天然物の全合成にも応用可能な極めて有用な反応を多数開発しました。
ピクロトキサン型セスキテルペンの合成研究 -研究発案からコリアミルチンの全合成に至るまでの経緯-
本論文は,ピクロトキサン型セスキテルペン類を網羅的に合成する手法の開発について述べられています。ピクロトキサン型セスキテルペンのような複雑な骨格を,プロリン誘導体を用いた分子内アルドール反応を鍵反応として用いている点が大変興味深い。また論文随所に著者のこだわりが書かれており,大変読み応えのある総合論文です。
近赤外光反応制御を目指した有機色素の合成化学
*金沢大学ナノマテリアル研究所
様々な分野で近赤外光の有用性をよく耳にするものの、実際に色素開発に着手するには敷居が高いのではないでしょうか。本論文では、近赤外色素の分子設計や利用について、国内外の動向を含めて分かりやすくまとめられています。著者らは「フタロシアニン」骨格を巧みに利用して、高効率な近赤外吸収を達成し、さらに近赤外光触媒として利用しています。「ボール型ルテニウム錯体」は構造的にも新しく、必見です。
Benzimidazoline (BIH)とBenzimidazolium (BI+) のレドックス化学 〜はじまり,開拓と広がり〜
*1新潟大学名誉教授
2東京大学大学院総合文化研究科
電子源・水素源・プロトン源として機能するベンズイミダゾリン(BIH)のエッセンスがまとめられています!BIH の合成(開拓)、物性(酸化還元などの反応性)から現在の研究の広がりまでが本総説をよめばわかります。18 ページにおよぶ大作です。
Review de Debut
今月号のReview de Debutは1件です。注目の研究を若手研究者による総説でお届けします。オープンアクセスですのでぜひ!
・微小液滴中での有機合成 (慶應義塾大学理工学部化学科)藤江 峻也
Message from Young Principal Researcher (MyPR):ありのままの自分で新しい扉を
今月号はMyPRがあります!北海道大学大学院理学研究院 永木愛一郎 教授による寄稿記事です。
永木先生の迷い、決断、そして150%の力に大いに共感し、感動しました。みなさん必読です。筆者もソッコーでラボに共有しました。
感動の瞬間:熱い水の中では炭素上の水素原子が水の水素原子と交換している
今月号の感動の瞬間は、京都大学国際高等研究院の松原誠二郎教授による寄稿記事です。
タイトルからもう内容が気になってしまいますよね。オープンアクセスですのでぜひご覧ください!
これまでの紹介記事は有機合成化学協会誌 紹介記事シリーズを参照してください。