有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2024年9月号がオンライン公開されています。
学会シーズンです!いろんな研究者の方々とdiscussionできることを楽しみにしている筆者です。
今月号のキーワードは、「ホウ素媒介アグリコン転移反応・有機電解合成・ヘキサヒドロインダン骨格・MHAT/RPC機構・CDC反応」です。
今回も、会員の方ならばそれぞれの画像をクリックすればJ-STAGEを通してすべてを閲覧することが可能です。
巻頭言:ハッとしてグー:有機合成の魅力
今月号の巻頭言は、岡山大学学術研究院環境生命自然科学学域の依馬 正 教授による寄稿記事です。
なんと激励される文章なんでしょうか…深く感動し、デスクトップに貼り付けました。みなさん絶対読んでください。絶対です。
ホウ素媒介アグリコン転移反応の新展開:反応開発,有用糖質合成,およびケミカルバイオロジーへの応用
本論文は、慶応義塾大学の高橋先生、戸嶋先生が推進している1,2-O–cisグリコシド結合形成に有用なホウ素媒介アグリコン転移反応(BMAD反応)について記載しています。BMAD反応は1,2-アンヒドロ糖をグリコシルドナー、ジオール型のグリコシルアクセプター、ボロン酸を触媒として用いた反応で、1,2-cisグリコシド結合が立体特異的に形成する点と、グリコシルドナーの片方のアルコールが位置選択的に反応する点が特徴です。BMAD反応による糖鎖の伸長は、まるで酵素の穏和で選択的な反応を見ているようで、アノマー位の強烈な活性化による従来のグリコシル反応とは対照的な反応です。必読です。
臭化物イオンや電子を触媒として利用した有機電解合成反応
本総合論文では、有機電解合成を長年に渡って牽引されている著者らのグループによる新展開として、触媒量の臭化物イオンや電子そのものを活用した反応開発について書かれています。また、本研究の紹介を通じて、有機電解合成におけるフロー合成手法や機械学習の効果的な利用法が示されています。
ヘキサヒドロインダン骨格をprivileged structureとする酸化型テルペノイドの合成
本論文では、独自の手法で合成した光学活性3環性ラクトン対する位置および立体選択的Mizoroki-Heck反応を基盤とした酸化型テルペノイドの合成研究について述べられています。一つの中間体に含まれる官能基を、骨格構築や酸化による水酸基の導入に巧みに利用することで、ステロイドやピクロトキサン型セスキテルペノイドを合成しているところが本研究の見どころです。
MHAT/RPC機構による環化反応
近年、コバルト触媒を用いたアルケンの付加反応が大きな注目を集めています。本総合論文には、コバルトヒドリドのMarkovnikov型付加を軸に、中間体の酸化を介した新しいコバルト触媒反応の成果がまとめられています。アルケンの分子変換で困っている方、コバルト触媒を学びたい方に、一読をオススメします。
C-H結合の直接官能基化を利用した共役分子材料の合成
本総合論文では、フルオロベンゼン類縁体と芳香族化合物とのCDC (Cross dehydrogenative coupling) 反応を用いた共役分子材料の合成法について述べられております。詳細な反応機構についても議論されており、芳香環上のカップリング位置選択性に関しては、実験と計算化学の両面から解析されております。従来とは異なる方法論による共役分子材料の合成法に関する本論文をぜひご一読ください。
Review de Debut
今月号のReview de Debutは1件です。オープンアクセスですのでぜひ!
・三硫黄ラジカルアニオンS3•−を利用したチオフェン縮環反応の進展 (広島大学大学院先進理工系科)三木江 翼
ラウンジ:デジタル有機合成はAI有機合成へ進化できるか?
1*京都大学桂京都大学大学院工学研究科、2*京都大学桂三井化学-京大デジタルケミカルラボ、3*京都大学国際高等教育院)
今月号はラウンジがあります!みなさん興味のある話題ではないでしょうか。ぜひご覧ください!
感動の瞬間:天然物の不思議な構造に魅せられて
今月号の感動の瞬間は、弘前大学農学生命科学部 橋本 勝 教授による寄稿記事です。予想できないからこそ感動という言葉に、心底共感します。みなさんぜひご覧ください。
これまでの紹介記事は有機合成化学協会誌 紹介記事シリーズを参照してください。