有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2024年8月号がオンライン公開されています。
世の中はお盆に入りますね。筆者は国際学会参加のため今週末より2週間北米で、お盆ってなんだったっけ状態です。
今月号のキーワードは、「連続フロー合成・AI創薬・環状有機ケイ素化合物・カルボン酸α位修飾・触媒的還元的アミノ化」です。
今回も、会員の方ならばそれぞれの画像をクリックすればJ-STAGEを通してすべてを閲覧することが可能です。
巻頭言:産学連携研究の喜び
今月号の巻頭言は、2023年度有機合成化学協会関西支部副支部長の北山 健司 博士による寄稿記事です。北山博士のご講演は何度も拝聴したことがありますが、その臨場感を感じられる記事です。現場が目に浮かぶような記事になっておりますので、ぜひみなさまご覧ください。
医薬品原薬製造を志向した多様な反応性状に対応する連続フロー合成技術の開発
細谷昌弘*
本総合論文では、医薬品原薬の製造に適した、多様な反応性状に対応可能な連続フロー合成技術の開発について紹介しています。従来の均一溶液系反応に加え、液-液二相系反応や気-液二相系反応、固-液二相系反応への適用、さらには将来を見据えた連続システムの構築(反応から精製まで)についても述べられており、プロセス化学者にとって必見の内容となっています。
創薬および有機合成化学におけるAI研究の進歩と課題
本総合論文は、前半部分では低分子創薬のための分子設計AIおよび活性予測AIに関する研究事例に関して、著者らのこれまでの研究成果を中心に紹介しています。さらに後半では、AIを活用した新規な化学反応の発見や合成収率の予測について、他機関で実施された近年の研究事例を紹介しており、創薬研究者・合成化学者が今後どのようにAI技術と向き合うべきかに対して大きな指針を与える内容となっています。
2-シリルアリールトリフラートを用いたパラジウム触媒反応による環状有機ケイ素化合物の合成
2022年度有機合成化学協会企業冠賞 日産化学・有機合成新反応/手法賞受賞
*大阪大学大学院基礎工学研究科
本論文は、ベンザイン前駆体として多用される2-シリルアリールトリフラート類をベンザイン前駆体としては用いず、ケイ素源として活用し、Pd触媒による多彩な合成反応を紹介している。基質の構造の僅かな違いにより、反応経路が異なり、種々の含ケイ素環状化合物の効率合成を達成している。そのうちのいくつかはエナンチオ的不斉合成へ展開している。
ホウ素化合物によるカルボン酸α位修飾反応の開発
*清水洋平
カルボン酸は、酸性プロトンを持つため、合成における「厄介者」というイメージがあるかもしれません。しかし、その反応性をうまく利用すると、選択的官能基化を可能にする魅力的なビルディングブロックになります。本総説では、清水洋平先生(北大院理)が開発されたホウ素触媒を利用したカルボン酸α位でのC-C, C-N結合形成反応がまとめられています。ぜひご一読を。
触媒的還元的アミノ化反応によるアミン化合物の効率的合成
内海典之、片山武昭*
アミン化合物は幅広く利用されている重要な化合物であり、様々な合成法が開発されています。特にカルボニル化合物とアミン化合物から合成する還元的アミノ化反応は汎用性が高く、簡便な方法として広く用いられているものの、反応制御が困難です。本総合論文では、還元的アミノ化を促進する触媒開発、各種アミンの選択的合成、不斉合成への展開を紹介しています。アミン合成に新たな指針を与える論文です。
Review de Debut
今月号のReview de Debutは1件です!オープンアクセスですのでぜひ。
・超塩基性カルボアニオンの触媒的発生法 (東北大学大学院薬学研究科/医薬品開発研究センター)笹本大空
ラウンジ
今月号は、ラウンジもあります!会員の方はリンクよりご覧ください。
・フタル酸ジクロリド:製造法とその利用および関連試薬 (イハラニッケイ化学工業株式会社)木村芳一
感動の瞬間:超分子化学から超分子ポリマー材料へ
今月号の感動の瞬間は、広島大学大学院先進理工系科学研究科、持続可能性に寄与するキラルノット超物質拠点(WPI-SKCM2)の灰野 岳晴 教授による寄稿記事です!
灰野先生は現在ホスト-ゲスト・超分子研究会の会長もされています。どういった経歴で研究してこられたのか、詳しく書かれていますのでぜひご覧ください!
これまでの紹介記事は有機合成化学協会誌 紹介記事シリーズを参照してください。