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化学者のつぶやき

理研の研究者が考える“実験ロボット”の未来とは?

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bergです。昨今、人工知能(AI)が社会を賑わせており、関連のトピックスを耳にしない日はないといっても過言でないほどになりました。化学の分野でも実験の自動化や結果の解析・予測に一役買っており、ケムステでも過去にたびたび紹介しています。

 

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第64回「実際の化学実験現場で役に立つAIを目指して」―小島諒介 講師

 

さて、この度は2023年8月24日(土)に日本科学未来館(東京都江東区)にて開催された「理化学研究所 科学講演会2024」に参加してきました。理研は、一般の方々に研究活動を紹介する場として1978年から毎年「科学講演会」を開いており、今回のご講演もそのような趣旨で開催されたものです。

 

今年のテーマは「~研究者の“わくわく”が未来を紡ぐ~ 「AIでひらく未来への扉」」ということで、AIを駆使した理研の研究の最前線についてうかがうことができました。

 

この記事では会の模様を簡単に振り返ってみたいと思います。

演題と講師の先生は以下の通りです。

 

開催日 2024年8月24日(土)

時間 13:00-16:20(12:30開場)

13:00-13:05

開会のあいさつ

理事長 五神 真(ごのかみ・まこと)

13:10-13:50

講演1「スマートグラスによる人間拡張」(吉井 和佳チームリーダー)

(講演25分、質疑応答15分)

13:50-14:00 休憩

14:00-14:40

講演2「AI・ロボットによる科学の自動化と次世代化」(神田 元紀 上級研究員)

(講演25分、質疑応答15分)

14:40-14:50 休憩

14:50-15:30

講演3「AIと子供の脳発達~可能性と課題~」(下郡 智美 副センター長)

(講演:25分/質疑応答:15分)

15:30-15:40 休憩

15:40-16:20

全体ディスカッションおよび質問セッション

16:20 閉会

対象 中学生 / 高校生 / 大学生/ 一般

会場 日本科学未来館 7階 未来館ホール

アーカイブ配信→https://www.youtube.com/live/_CZhMBuCfrE

 

最初のご講演「スマートグラスによる人間拡張」では、スマートグラスのようなウェアラブル型端末を用いて人間のハンディキャップを支える技術についてうかがうことができたほか、人工知能の発展や問題点について、基礎からご説明いただきました。人工知能の開発はアイザック・アシモフの提唱した「ロボット三原則」にはじまり、これまでに三度のブームと氷河期を繰り返して現在に至ります。最初のブームは1960年代に到来し、学習によって推論・探索を行わせることを主眼とした開発が進められました。その成果としてチェスの対決や数学の証明などで威力を発揮するようになったものの、現実の複雑な問題には無力であったため、研究は一度下火となってしまいます。

第2次ブームは1980年代に到来し、知識・判断を手動で実装することでこれらの解決が図られました。しかしながら、ルールベースの限界のためにこちらも潰えます。

そして現在進行中の第3次ブームでは、知識・判断の自動取得(機械学習)をベースに課題解決を図る技術に大きな進展があり、翻訳など様々な分野で製品化が進んでいます。

いずれにおいても、機械学習の最大の技術的難関とも言えるのが過学習の問題で、いわゆるカーブフィッティングになぞらえてご説明いただきました。学習に使えるデータは限られており、回帰する次数を増やせば誤差は減るものの、実際に予測すべき点での確度は低下してしまうおそれがあります。吉井先生はこうした過学習の問題を回避する仕組みを研究するとともに、音声のクリアランスや字幕生成などに資する技術の開発を進められているとのことで、たいへん夢のあるお話でした。

また、AIの抱える影の面として、違法ではないものの他人のデータにフリーライドした場合には倫理的に問題となることなど、社会問題となっている点についてもご説明をいただきました。

 

続く「AI・ロボットによる科学の自動化と次世代化」のご講演では、ロボットを使った実験の自動化・ロボットとAIを使った科学の自動化をテーマにお話いただきました。まず、実験が料理に似ているという「あるある話」に始まり、試行数が多かったり短時間での操作が必要だったりと、人間が行うのが難しい実験における自動化の有用性についてご説明いただきました。その上で、産総研と産業用ロボット大手の安川電機が共同で開発した、汎用人型ロボット「まほろ」をご紹介いただきました。これは、ピペットなど人間が使う道具をそのまま扱うことができるのが特徴で、道具を入れ替えると様々な実験ができることが最大の強みです。神田先生のチームはこれを再生医療分野の研究に利用できないかと考え、暗黙知が多く「匠の技」とされる細胞培養において、自律的に試行錯誤を行わせることで再現性を確保することに成功しました。

 

有機化学でも手技の巧拙で実験結果に差が出るケースは枚挙に暇がありません。こうした技術が再現性の担保につながるかもしれませんね。

 

このほか、下郡先生の「AIと子供の脳発達~可能性と課題~」では、教育におけるAIの活用についてのご講演もうかがうことができました。

適切な規制のもと、身近な暮らしから研究の最前線までを便利にしてくれる時代が来るといいですね。

 

夏休み期間ということもあり、親子連れの方や学生さんをはじめ多くの方々で盛況でした。一般向けということもあり非常に敷居は低くなっておりますので、みなさんもご興味があればぜひご参加されてみてはいかがでしょうか?

最後となりましたが、ご講演くださった先生方、講演会をセッティングしてくださったすべての方々に心よりお礼申し上げます。

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berg

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化学メーカー勤務。学生時代は有機をかじってました⌬
電気化学、表面処理、エレクトロニクスなど、勉強しながら執筆していく予定です

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