bergです。ケムステをご覧の皆様の中には、小学生・中学生のお子さんをお持ちの親御さんもいらっしゃることでしょうか?夏休み真っ只中ということで、自由研究の題材に頭を悩ませている方もいらっしゃるかもしれません。そこで今回は、ご家庭でも取り組みやすい化学実験のネタを、独断と偏見に基づいていくつかご紹介したいと思います。
① キャンドルづくり
化学っぽさ:★☆☆☆☆ 材料の入手:★★★★☆ 難易度:★★☆☆☆
ジェルワックスとよばれる無色透明のゲル状のパラフィンをロウ代わりに用いると、装飾も容易で完成品の見栄えが増します。画像は筆者がドライフラワーを入れて作ったものです。通販サイトなどでも専用のキットが安価にありますので、どなたでも簡単に楽しめます。
どちらかと言えば、実験というよりは工作に近いですが、とはいえ、ロウが融けるときに、氷とは異なって体積が膨張すること(器壁付近から凝固するときに、中央がくぼむのがわかりやすいかもしれません)や、火を灯したときに融けたロウが芯へ吸い寄せられる様子など、観察していくといくつもの重要な着眼点があると思います。ファラデー著のろうそくの科学などにつなげてもいいかもしれませんね。お子さんに理科に興味を持ってもらいたい、という方にはかなりおすすめです!
やけどや火事にはくれぐれもお気を付けください……!
② あぶり出し
化学っぽさ:★★★☆☆ 材料の入手:★★★★★ 難易度:★☆☆☆☆
こちらは一応化学要素がありますね!紙に果汁などの酸性の溶液で絵や文字を書いておいて、ホットプレートなどで加熱するとその部分が選択的に焦げるというものです。保存性と入手性を考慮すると、薬局で販売されているミョウバンを飽和水溶液にして使うのがおすすめです。案外くっきりと浮かび上がるので、どなたでも手軽に実施できます。
こちらもやけどや火事にはくれぐれもお気を付けください……!
③ 結晶づくり
化学っぽさ:★★☆☆☆ 材料の入手:★★★★★ 難易度:★★☆☆☆
定番ですね。一般家庭で手に入る材料だと食塩やミョウバンに限定されてしまうのが玉に瑕ですが、こちらも手軽にできるのがメリットです。大きい綺麗な結晶を作るには時間がかかりますから、長い夏休みはうってつけです。一筋縄にいかないもどかしさもあると思いますが、それもまた実験の醍醐味かもしれませんね!
④ 草木染め
化学っぽさ:★★★★☆ 材料の入手:★★★☆☆ 難易度:★★☆☆☆
ようやく化学らしくなってきたでしょうか。タマネギなど一般家庭で入手できる野菜を用いてハンカチなどを染色でき、輪ゴムで絞ったり板締などの技法を凝らしたりすることで高度な幾何学模様をつくることもできます[1]。また、防染糊を生地の上に置いて乾かしてから染めることで、白抜きの絵柄を入れることも可能です[2]。植物色素と金属イオンの錯形成などにも絡む題材ですので、お子さんの化学への好奇心を駆り立てること請け合いですね!
⑤ 石鹸づくり
化学っぽさ:★★★★★ 材料の入手:★☆☆☆☆ 難易度:★★★★☆
こちらも定番でしょうか。水酸化ナトリウムがやや入手しにくいのが難点です。こちらは劇物になりますので、薬局の処方箋受付に身分証と印鑑を持参する必要があります。また、当然眼や皮膚に触れると有害ですので、実験メガネや手袋などの準備も忘れないようにしましょう!製法は調べると様々でてきますので詳細は省きますが、揚げ物後の廃油などを転用することもでき、エコでもあります[3]。なお、こうして作った石鹸は市販品と比べると水道水、特に硬水中での泡立ちに劣ります。これは市販品に塩析を防ぐキレート剤が添加されているためですが、こうした気づきからより奥の深い化学の世界へ誘うこともでき、教育的にたいへん美味しい実験と言えます。
⑥ 葉脈標本づくり
化学っぽさ:★★★★★ 材料の入手:★☆☆☆☆ 難易度:★★★★☆
こちらも水酸化ナトリウムやそれを含む製剤を使用します[4]。使用する葉はなるべく肉厚のもの、枯れていないものが好ましいでしょう。できあがった標本はさらに食用色素できれいに染めることもでき、ラミネートすればしおりに最適です[5]。長くとっておけるものですから、思い出の品になるかもしれませんね……!
⑦ エッチング
化学っぽさ:★★★★★ 材料の入手:★★☆☆☆ 難易度:★★★★★
エッチングが回路基板のパターン形成に利用されていることは過去記事(→化学者のためのエレクトロニクス入門② ~電子回路の製造工程編~)でもご紹介しました。銅版画を作ったり[6]、金属製の切り絵やペンダントを作ったりと、いろいろな応用が利きそうですね!
エッチング液の組成としては塩化第二鉄の水溶液が一般的ですが、クエン酸-過酸化水素水、塩酸-過酸化水素水など、薬局で容易に入手できる組み合わせを用いた変法も広く知られています。
一般家庭で頭を悩ませがちなのが廃液処理ですが、石灰で中和するだけでpH、金属イオン濃度とも排水基準以下にできるという報告[7]もあります。ひとひねり効いた作品を完成させてみたいという方はぜひトライしてみてはいかがでしょうか?
今回ご紹介したのはあくまでほんの一例にすぎませんが、ほかにも工夫次第でお子さんの知的好奇心をくすぐる題材はたくさん見つかると思います。本記事がその一助となれば幸いです。
参考文献
[1] Papper zz 21草木染めの実際と教材化 [2] つぎいろ 布に絵を描く、模様を入れるhttps://tsugiiro.com/drawing_designs_on_fabric/
[3] 富山県 廃油から石鹸をつくろうhttps://www.pref.toyama.jp/documents/14110/94p96fb82b982c182af82f1.pdf
[4] 埼玉県 葉脈標本をつくろうhttps://www.city.saitama.lg.jp/sciencenavi/taiken/002/p048688.html
[5] 北海道大学 葉脈標本を染めて「しおり」をつくろうhttps://cs.kus.hokkyodai.ac.jp/tancyou/vol.53/someru.htm
[6] 武蔵野美術大学 アートとデザインの素材・道具・技法 アクアチントhttps://zokeifile.musabi.ac.jp/%E3%82%A2%E3%82%AF%E3%82%A2%E3%83%81%E3%83%B3%E3%83%88/
[7] 小・中学校における実験廃液の簡易処理法福島大学教育実践講究紀要第19号p.21-29
https://www.lib.fukushima-u.ac.jp/repo/repository/fukuro/R000003687/1-244.pdf