bergです。この度は2024年7月24日(水)に早稲田大学 西早稲田キャンパスにて開催された「Insights into the Microenvironment of Catalysis: Water Oxidation and Selective C–H bond Functionalization」を聴講してきました。この記事では会の模様を簡単に振り返ってみたいと思います。
演題と概要は以下の通りです。
演者: Djamaladdin G.Musaev(Emory University Director of the Emerson Center, Adjunct Prof. of Chemistry)
題目: Insights into the Microenvironment of Catalysis: Water Oxidation and Selective C–H bond Functionalization
場所: 早稲田大学 西早稲田キャンパス
日時: 2024年7月24日(水)16:00-17:30
詳細:https://www.waseda.jp/fsci/news/2024/05/16/30508/
G. Musaev先生は旧ソビエト連邦ご出身の計算科学の研究者で、太陽光を用いた水の化学的分解(光触媒)やC-H活性化反応などの多彩な課題に対して、理論的な側面から先駆的なご研究を精力的に取り組んでこられました。この日はご講演のためにアメリカはアトランタから日本へお越しくださりました。
さて、D. G. Musaev教授が最初にご説明されたのが、水の光分解触媒(Water Oxidation Catalyst)です。現在人類のエネルギー消費量は14TWとされていますが、今後さらに増大し、2050年には2倍超の30TWに到達するとされています。このすべてを化石燃料の利用のみで賄うことができるかについては疑念がありますが、一方で、地球に降り注ぐ太陽光は1.2×105TWにも達し、このうち現実的に利用可能な部分だけでも80TWにのぼります。
このような現状を打開するため、太陽光によって駆動する様々な触媒系が脚光を浴びていることは、読者の皆さんもご存じのことと思います。その中でもD. G. Musaev先生が注力されてきたのが、遷移金属錯体触媒を用いた系についての理論計算です。これらの研究自体は長い歴史があり初の報告例は1980年代に遡りますが、当初はbpyなどの有機配位子を有するRuの二核架橋錯体が用いられていましたが、これらは水を酸化できると同時に自らの配位子を参加してしまうためTONが低いという問題がありました。近年ではこれらの問題点を解決するために無機系の配位子を用い、Ruより安価なCoとNiの四核錯体を用いることで極めて高効率な触媒系が達成されていますが、その設計にもD. G. Musaev先生の理論研究が重要な役割を果たしているということでした。
また、選択的C-H結合活性化は直截的な分子変換を可能とする、いわば夢の技術として盛んに研究されていますが、その反応機構の解明にもD. G. Musaev先生は数々の業績を残されています。Rhカルベン錯体のアルカンC(sp3)-H結合への挿入反応における選択性や、Pd触媒下でのカルボン酸の自己ラクトン化におけるTBHPの役割の解明など、興味深いお話を数多く聞くことができ、研究室時代の抄録会が思い出されて懐かしい気分に浸ることができました。
民間企業に就職して以来このような最先端の研究に触れる機会がめっきり減ってしまっていたので、今回の講演会は非常に刺激的で新鮮で、あっという間の90分でした。最後になりましたが、中井 浩巳教授をはじめ、講演をセッティングしてくださった早稲田大学先進理工学部・先進理工学研究科の関係者各位、そして、当日は折からのゲリラ豪雨のなかアメリカからはるばるお越しくださり、ご講演くださったD. G. Musaev先生に心よりお礼申し上げます。今後の研究の進展も楽しみにしています。