有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2024年6月号がオンライン公開されています。
新年度にも慣れてきたころですね.年度の中では,比較的腰を据えて研究することのできる時期になってきました.
有機合成化学協会誌を読んで,研究に活かしましょう.
キーワードは、「四塩化チタン・選択的フッ素化・環境調和型反応・インデン・インダセン・環状ペプチド」です。
今回も、会員の方ならばそれぞれの画像をクリックすればJ-STAGEを通してすべてを閲覧することが可能です。
巻頭言 ウィリアムソン教授の日本近代化への功績
今回の巻頭言は,東ソー・ファインケム株式会社の江口久雄代表取締役社長による寄稿記事です.
本記事の読者で,ウィリアムソン反応を知らない人はいないと思います.しかし私は,ウィリアムソン教授の功績を,ほとんど知りませんでした.
江口社長の巻頭言で,今後何年も忘れないであろう知識を得ました.ありがとうございます.みなさん必読です!!
本総合論文では、四塩化チタンで促進されるアルドール反応と塩基によるオキシチタン種の脱離反応をワンポットで行う新しいアルドール縮合反応の開発について、その研究に至った経緯から、反応機構の解明、基質適用範囲の拡大、生成物の利用まで述べられている。
アミン触媒による多置換アルデヒド・ケトンの選択的フッ素化反応
本総合論文では、新規なアミン触媒であるβ,β-ジアリールセリン触媒の開発とβ-ジカルボニル化合物の直接的不斉フッ素化反応に関して述べています。さらに、種々のアミン触媒を用いたα,β-不飽和アルデヒドのα位選択的フッ素化反応についても紹介しており、触媒・Brønsted酸・溶媒・水の添加など様々な反応条件を精査することにより、複数の反応選択性を巧みに制御することに成功しています。
二酸化炭素を炭素源とする触媒的な有機合成反応の開発:環境調和型反応を目指して
2022年度有機合成化学協会企業冠賞 東ソー・環境エネルギー賞
*京都大学大学院工学研究科
二酸化炭素は、入手容易で再生可能なC1炭素資源です。しかし、化学的に安定であるため、効率的で実用的な化学変換を実現するには新たな反応開発が必要です。本論文では、著者らがこれまで取り組んできた遷移金属錯体触媒を利用した二酸化炭素を炭素源とする有機合成反応を紹介しています。銅、ニッケル、コバルトなど第一遷移系列金属を利用した触媒と反応試剤をうまく組み合わせて、数々のカルボキシル化反応を達成しており、著者らの独自のアイデアが学べる論文です。
分子内環化によるジブロモインデンおよびテトラブロモインダセンの合成と新規光機能性COPV誘導体の開発
2020年度有機合成化学協会企業冠賞 富士フイルム・機能性材料化学賞
*神奈川大学理学部化学コース
π共役系は平面化することで、有効に共役することが知られています。著者らが開発された「炭素架橋オリゴフェニレンビニレン(COPV)」は、縮環により美しく平面化された構造を有するまさに理想的なπ共役系分子です。本総合論文では、COPV研究の最新の展開として、臭素置換体の効率的合成法の開発とそれを活用する機能物質創製とその特性について述べられています。ぜひご一読ください。
環状ペプチドの構造–膜透過性相関の解明へ向けた受動的膜透過性計測手法の開発とその応用
環状ペプチドの医薬品応用には「受動的細胞膜透過性」が鍵となる。その重要性は解っていても,環状ペプチドはそう簡単に細胞内には入ってくれません。それならば,どのような環状ペプチドが受動的細胞膜透過性が高いのかを測って調べるしかない! 一般的な合成化学とは少し趣が異なる「膜透過性の測定」ですが,様々な研究分野の方々が多くのことを学ぶことができる総合論文です。
Review de Debut
今回のReview de Debutは1件です.オープンアクセスですのでぜひご覧ください.
「イソプロペニル基の除去」を用いた全合成(日本大学文理学部)堤 大洋
感動の瞬間:ニトロソ,ニトロン,オキシム:窒素と酸素の化学に魅せられた日々
今月号の感動の瞬間は,昭和薬科大学 田村 修 名誉教授による寄稿記事です.反応性,魅力的な性質に富んだ興味深い化合物が多々登場します.ぜひご覧ください.
これまでの紹介記事は有機合成化学協会誌 紹介記事シリーズを参照してください。