bergです。この度は2024年5月13日(月)に東京大学 本郷キャンパス(薬学部)にて開催されたWei-Yu Lin教授の招待講演「Selective C–N Bond Cleavage to Unlock Amide Bonds in Batch and Continuous Flow Processes」を聴講してきました。この記事では会の模様を簡単に振り返ってみたいと思います。
演題と概要は以下の通りです。
演者: Prof. Wei-Yu Lin (Kaohsiung Medical University)
題目: Selective C–N Bond Cleavage to Unlock Amide Bonds in Batch and Continuous Flow Processes
場所: 東京大学 本郷キャンパス(薬学部)
日時: 2024年5月13日(月)15:00-16:15
詳細: https://www.f.u-tokyo.ac.jp/event.html?page=0&key=1713852468
Wei Yu Lin先生といえば、アミドのC-N結合の活性化を中心に独創的な研究をなされているので、ご存じの方も多くいらっしゃるかもしれません。アミド、とりわけ1級アミドは多くの医薬品に含まれる重要な骨格であり、低分子創薬における主要なターゲットの一つであるものの、その低調な反応性と合成方法が限局されている点が大きな課題となっています。反応性の低さについては、共役によりC-N結合が40%近くも二重結合性を帯びていることが原因であり、その活性化は挑戦的な課題です。
従来アミドC-N結合の活性化には窒素原子へのかさ高い置換基の導入や電子求引性の置換基の導入、橋頭位アミンの利用などからアプローチした研究がありましたが、これらはいずれも特殊な基質に依存したものであり、一般性を欠くという問題がありました。そこでGargらはNi(0)種へのアミドの酸化的付加、さらに求核種を作用させることでアミドの直截的変換という挑戦的な業績を達成していましたが、取扱いの難しい有機金属触媒を用いる必要がある点が課題として残されていました。
Wei Yu Lin先生はこのような閉塞した状況を打開すべく、フローマイクロリアクターを駆使した反応開発に取り組まれてきました。その業績は塩基としてLiOHを用いたN-アシルグルタミドの加水分解、スルホアミドにアリルブロミドを作用させることによる第1級アミンの合成のほか、安価で容易に取り扱うことのできるCu(I)触媒を用いたラジカル的C-N開裂やチオシアン酸塩を用いた無触媒での官能基変換を成し遂げるなど、そのご業績は極めて多岐にわたります。
果てにはDMFを窒素源・ジメチルアミノ基のシントンとして利用したキナゾリン環の構築など、先駆的な興味深いお話を数多く拝聴することができました。民間企業に就職して以来このような最先端の研究に触れる機会がめっきり減ってしまっていたので、今回の講演会は非常に刺激的で新鮮で、あっという間の90分でした。最後になりましたが、井上将行教授をはじめ、講演をセッティングしてくださった東大薬学部の関係者各位、そして、あいにくの荒天の中、台湾からはるばるお越しくださり、ご講演くださったWei Yu Lin教授に心よりお礼申し上げます。今後の研究の進展も楽しみにしています。