bergです。この度は2024年5月13日(月)に東京大学 本郷キャンパス(薬学部)にて開催された「Catalytic Transfer Reactions of Non-stabilized Carbenes」を聴講してきました。この記事では会の模様を簡単に振り返ってみたいと思います。
演題と概要は以下の通りです。
演者: Prof. Christoper Uyeda (Department of Chemistry, Purdue University)
題目: Catalytic Transfer Reactions of Non-stabilized Carbenes
場所: 東京大学 本郷キャンパス(薬学部)
日時: 2024年5月13日(月)16:30-17:45
詳細: https://www.f.u-tokyo.ac.jp/event.html?page=0&key=1714115338
Christoper Uyeda教授はかつてケムステでも取り上げたことがあり、ご存じの方も多いかと思います。カルベン・カルベノイド中間体の関与する反応としては、ジヨードメタンと有機亜鉛試薬から調製したカルベノイドのオレフィンへの付加により3員環を形成するSimmons-Smith反応や、クロロホルムと強塩基から発生させたジクロロカルベンをフェノールへ付加させてホルミル化するReimer-Tiemann反応などは学部生向けの教科書でもおなじみでしょう。
Uyeda教授はReimer-Tiemann反応でジクロロメタンがカルベンの合成等価体であることに着目し、gem-ジクロロアルカンから独自に設計された低原子価二核Ni錯体やCo触媒を用いて調製した非安定化カルベンを利用した様々な反応を開発されてきました。近年では[2+1]環化付加によるシクロプロパン環合成にとどまらず、[2+1+1+1]型の反応様式による5員環の形成、メチレン挿入による環拡大、二重結合の回転阻害によってキラリティーを有する環化付加生成物を形成するビニリデン中間体の立体選択的付加、さらには、1,4-非共役ジエンの合成への活用など、数々の先駆的な研究を精力的になさっています。
また、新型コロナウイルス感染症の治療薬としてファイザー社から上市されたPaxlovidのシクロプロパン環骨格の構築にも応用されたエピソードなど、産業界にもかかわる興味深いお話を数多く拝聴することができました。
民間企業に就職して以来このような最先端の研究に触れる機会がめっきり減ってしまっていたので、今回の講演会は非常に刺激的で新鮮で、あっという間の90分でした。最後になりましたが、金井求教授をはじめ、講演をセッティングしてくださった東大薬学部の関係者各位、そして、当日は足元の悪いの中アメリカからはるばるお越しくださり、ご講演くださったUyeda教授に心よりお礼申し上げます。今後の研究の進展も楽しみにしています。