農芸化学という学問分野はご存知でしょうか?
農業と化学は分かるけど、芸って何だよって一瞬思いますよね。当然芸人ではなさそうですが、芸術もちょっと違う気がします。その生い立ちは話せば長くなるのですが、ドイツ語のAgrikulturchemie、英語のAgricultural Chemistryの翻訳語として作られた言葉です。農業化学でいい気もしますが、農芸化学では生命、食糧、環境の3つのキーワードに代表される、「化学と生物」に関連する分野を基礎から応用まではば広く研究することを主としており、必ずしも農業に限定されるわけではありません。
農芸化学の創始者と言っても過言ではないのが、あの冷却管で一般には馴染み深いリービッヒ(Justus Freiherr von Liebig)です。リービッヒは、「リービッヒの最小律」として知られる、植物栄養に関する無機栄養説を確立し、無機肥料を用いた農業生産の発展に多大な貢献をしました。
化学の懐の深さがここでも感じられますが、あらゆる所に物資の科学があり、その中でも特に生命に密接に関わる化学が農芸化学の真髄と言えましょう。現代では生命機能を解明するためには、遺伝子、タンパク質を始め、さらに小さな分子を理解する必要があることは当たり前ですが、そのような考え方は農芸化学から始まったと言っても過言ではありません。
特に我が国では欧米にはない視点で行われた独自の研究が発展しており、発酵による物質生産(例えばアミノ酸やアクリルアミドなど)や、抗生物質など医農薬の発見と実用化など現代では無くてはならないものも数多くあります。
我が国における農芸化学の歴史は1870年代まで遡り、海外の学者を招聘して当時の学校教育が始まったことによります。その後分析化学的な研究を始め様々な研究が展開され、我が国独自の発展を遂げます。当時を代表する研究として必ず取り上げられるのは1911年の鈴木梅太郎によるオリザニン、すなわちビタミンB1の発見です。
そして機は熟し、鈴木梅太郎を初代会長として、1924年に日本農芸化学会が設立され、一万人の会員数を擁するに至りました。今年は日本農芸化学会創立100周年という事で、記念大会など様々な催しが行われています。その中で、会員でない方も気軽に訪れることができる、「特別展 日本農芸化学会創立100周年記念展」が東京大学駒場キャンパスにある駒場博物館にて開催されています。
会期 2024年3月20日(水・祝)~9月8日(日)
入場料 無料
主催 公益社団法人 日本農芸化学会
協力 東大駒場友の会
大変貴重な資料も展示されておりますので、是非お気軽に足をお運びください。