[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

一致団結ケトンでアレン合成!1,3-エンインのヒドロアルキル化

[スポンサーリンク]

ケトンと1,3-エンインのヒドロアルキル化反応が開発された。独自の配位子とパラジウム/ホウ素/アミン協働触媒系を用いることで、室温で多様なアレンが合成可能である。

1,3-エンインとケトンとのヒドロアルキル化反応によるアレンの合成

アレンは、多くの天然物や生物活性物質に含まれるだけでなく合成中間体としても有用なため、効率的な合成法が模索されている[1]。パラジウム触媒による炭素求核剤と1,3-エンインとのヒドロアルキル化は、原子効率に優れるアレン合成法として知られる(図1A)[2]。しかし、求核剤がマロン酸エステル類など複数の電子求引基をもつ活性メチレンに限られる点が課題である。このような求核剤の制限はアレン合成法に限ったものではなく、アルケンやジエンなどに対するヒドロアルキル化でも合成上有用なモノケトンを求核剤とする反応は少数である(図1B)[3]。これまでにロジウムやニッケル、パラジウム触媒を用いる手法が知られるが、反応性に乏しいケトンを求核剤とするため、ヒドロアルキル化反応には高温条件を要する。

論文著者であるLiu教授らは以前、独自のリン配位子(Senphos)を開発し、Pd–Senphos触媒が1,3-エンインを温和な条件でヒドロ官能基化できることを見いだした[4]。本触媒は1,3-エンインと求電子剤の外圏的な酸化的付加を促進するユニークな触媒である[4b]。最近ではパラジウム–Senphos/銅/ボラン/アミン協働触媒系による、アルキンと1,3-エンインのヒドロアルキニル化を報告した(図1C)[5]。今回著者らは、Pd–Senphos触媒に、ボラン/アミン触媒を協働させることでケトンを活性化できれば、穏和な条件でケトンと1,3-エンインのヒドロアルキル化が進行すると考えた。実際、協働触媒系を用いることで反応が室温で進行し、幅広い基質に適用可能なアレン合成法を確立した(図1D)。

図1. (A) 1,3-エンインのヒドロアルキル化によるアレンの合成 (B) ケトンによるアルケンのヒドロアルキル化 (C) 協働触媒系を用いた1,3-エンインのヒドロアルキニル化 (D) 今回の反応

 

“Synthesis of Allenes by Hydroalkylation of 1,3-Enynes with Ketones Enabled by Cooperative Catalysis”
Eaton, M.; Dai, Y.; Wang, Z.; Li, B.; Lamine, W.; Miqueu, K.; Liu, S.-Y. J. Am. Chem. Soc.2023, 145, 21638–21645. DOI: 10.1021/jacs.3c08151

論文著者の紹介

研究者:Shih-Yuan Liu (研究室HP, ケムステ)

研究者の経歴:–1997                            B.S., Vienna University of Technology, Austria
1998–2003                  Ph.D., Massachusetts Institute of Technology, USA (Prof. Gregory C. Fu)
2003–2006                  Postdoc, Massachusetts Institute of Technology, USA (Prof. Daniel G. Nocera)
2006–2012                  Assistant Professor, University of Oregon, USA
2012–2013                  Associate Professor, University of Oregon, USA
2013–                             Full Professor, Boston College, USA

研究内容:含ホウ素窒素ヘテロ環の合成およびそれらを用いた反応開発

研究者:Karinne Miqueu

研究者の経歴:
1996                               M.S., University of Pau and the Adour Region, France
1999–2000                  A.T.E.R., University of Pau and the Adour Region, France
2000                               Ph.D., University of Pau and the Adour Region, France
2000–2001                  Postdoc., University of Southampton, UK (Prof. John M. Dyke)
2001–2002                  Postdoc., Paul Sabatier University of Toulouse, France (Prof. Guy Bertrand)
2002–2014                  CNRS Assistant Researcher at IPREM, University of Pau and the Adour Region, France
2014–                             Director of Research at CNRS, University of Pau and the Adour Region, France

研究内容:典型元素や遷移金属触媒を用いる反応の機構解明研究

論文の概要

検討の結果、著者らはトルエン中(COD)Pd(CH2TMS)2とSenphos、B(C6F5)3、1,2,2,6,6-ペンタメチルピペリジン(PMP)触媒存在下、ケトン1と1,3-エンイン2を室温で反応させると良好な収率でアレン3が得られることを見いだした(図2A)。本反応では、アリール、アルキルケトンのいずれも適用でき、対応するアレン(3a3c)が得られる。さらに、C4位にアリール基を有する1,3-エンインに加え、C2, 4位にアルキル基をもつ1,3-エンインを用いても、高収率で対応するアレン(3d3f)を与える。

推定反応機構を示す(図2B)。まず、系中で生じた0価のパラジウム錯体Iに1,3-エンイン2が配位し、錯体IIが生じる。一方、B(C6F5)3の配位によって活性化されたケトンは、PMPによって脱プロトン化されホウ素エノラートとなる。この際生じたアンモニウムH–PMP+が錯体IIと反応し(外圏的プロトン化)、錯体IIIを与える。最後に、ホウ素エノラートがIIIに求核置換することで、アレン3aが得られる。この触媒サイクルは、速度論的同位体効果や、速度論、NMR観測などの機構解明実験とDFT計算によって支持されている。錯体IIはB(C6F5)3とも外圏的な酸化的付加をして、静止状態の錯体RSを生じる。RSは錯体IIとの平衡状態にあり、IIが活性種であると述べられている。また、本反応の律速段階は錯体IIの外圏的プロトン化であることも確認された (詳細は論文参照)。

図2. (A) 最適条件と基質適用範囲 (B) 推定反応機構

以上、Senphosおよびパラジウム/ホウ素/アミン協働触媒系を用い、ケトンを求核剤とする1,3-エンインの分子間ヒドロアルキル化反応が開発された。得られたアレンは有用な合成中間体として、数々の合成に応用されるだろう。

参考文献

  1. (a) Ma, S. Some Typical Advances in the Synthetic Applications of Allenes. Chem. Rev. 2005, 105, 2829–2872. DOI: 10.1021/cr020024j (b) Allen, A. D.; Tidwell, T. T. Ketenes and Other Cumulenes as Reactive Intermediates. Chem. Rev. 2013, 113, 7287–7342. DOI: 10.1021/cr3005263 (C) Yu, S.; Ma, S. Allenes in Catalytic Asymmetric Synthesis and Natural Product Syntheses. Angew. Chem., Int. Ed. 2012, 51, 3074–3112. DOI: 10.1002/anie.201101460
  2. Tsukamoto, H.; Konno, T.; Ito, K.; Doi, T. Palladium(0)–Lithium Iodide Cocatalyzed Asymmetric Hydroalkylation of Conjugated Enynes with Pronucleophiles Leading to 1,3-Disubstituted Allenes. Lett. 2019, 21, 6811–6814. DOI: 10.1021/acs.orglett.9b02439
  3. (a) Mo, F.; Dong, G. Regioselective Ketone α-Alkylation with Simple Olefins via Dual Activation. Science 2014, 345, 68–72. DOI: 1126/science.1254465 (b) Cheng, L.; Li, M.-M.; Xiao, L.-J.; Xie, J.-H.; Zhou, Q.-L. Nickel(0)-Catalyzed Hydroalkylation of 1,3-Dienes with Simple Ketones. J. Am. Chem. Soc. 2018, 140, 11627–11630. DOI: 10.1021/jacs.8b09346 (c) Yang, C.; Zhang, K.; Wu, Z.; Yao, H.; Lin, A. Cooperative Palladium/Proline-Catalyzed Direct a-Allylic Alkylation of Ketones with Alkynes. Org. Lett. 2016, 18, 5332–5335. DOI: 10.1021/acs.orglett.6b02649
  4. (a) Xu, S.; Zhang, Y.; Li, B.; Liu, S.-Y. Site-Selective and Stereoselective Trans-Hydroboration of 1,3-Enynes Catalyzed by 1,4-Azaborine-Based Phosphine–Pd Complex. J. Am. Chem. Soc. 2016, 138, 14566–14569. DOI: 10.1021/jacs.6b09759 (b) Yang, Y.; Jiang, J.; Yu, H.; Shi, J. Mechanism and Origin of the Stereoselectivity in the Palladium-Catalyzed trans Hydroboration of Internal 1,3-Enynes with an Azaborine-Based Phosphine Ligand. Chem. Eur. J. 2018, 24, 178. DOI: 10.1002/chem.201704035
  5. Wang, Z.; Zhang, C.; Wu, J.; Li, B.; Chrostowska, A.; Karamanis, P.; Liu, S.-Y. Trans-Hydroalkynylation of Internal 1,3-Enynes Enabled by Cooperative Catalysis. J. Am. Chem. Soc. 2023, 145, 5624–5630. DOI: 10.1021/jacs.3c00514
Avatar photo

山口 研究室

投稿者の記事一覧

早稲田大学山口研究室の抄録会からピックアップした研究紹介記事。

関連記事

  1. 研究室クラウド設立のススメ(導入編)
  2. 光触媒の力で多置換トリフルオロメチルアルケンを合成
  3. 材料開発の未来を語る、マテリアルズ・インフォマティクスに特化した…
  4. 文具に凝るといふことを化学者もしてみむとてするなり⑫:「コクヨの…
  5. 今年は共有結合100周年ールイスの構造式の物語
  6. ポンコツ博士の海外奮闘録⑦〜博士,鍵反応を仕込む〜
  7. 海外機関に訪問し、英語講演にチャレンジ!~① 基本を学ぼう ~
  8. タミフルの新規合成法・その3

注目情報

ピックアップ記事

  1. 求電子的フッ素化剤 Electrophilic Fluorination Reagent
  2. 「ペプチドリーム」東証マザーズ上場
  3. 電流励起による“選択的”三重項励起状態の生成!
  4. 水素製造に太陽光エネルギーを活用 -エタノールから水素を獲得し水素ガスを発生する有機化合物を開発-
  5. 化学物質の環境リスクを学べる「かんたん化学物質ガイド」開設
  6. 食品衛生関係 ーChemical Times特集より
  7. 地域の光る化学企業たち-2
  8. その電子、私が引き受けよう
  9. アンデルセン キラルスルホキシド合成 Andersen Chiral Sulfoxide Synthesis
  10. スナップ試薬 SnAP Reagent

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2024年4月
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
2930  

注目情報

最新記事

植物由来アルカロイドライブラリーから新たな不斉有機触媒の発見

第632回のスポットライトリサーチは、千葉大学大学院医学薬学府(中分子化学研究室)博士課程後期3年の…

MEDCHEM NEWS 33-4 号「創薬人育成事業の活動報告」

日本薬学会 医薬化学部会の部会誌 MEDCHEM NEWS より、新たにオープン…

第49回ケムステVシンポ「触媒との掛け算で拡張・多様化する化学」を開催します!

第49回ケムステVシンポの会告を致します。2年前(32回)・昨年(41回)に引き続き、今年も…

【日産化学】新卒採用情報(2026卒)

―研究で未来を創る。こんな世界にしたいと理想の姿を描き、実現のために必要なものをうみだす。…

硫黄と別れてもリンカーが束縛する!曲がったπ共役分子の構築

紫外光による脱硫反応を利用することで、本来は平面であるはずのペリレンビスイミド骨格を歪ませることに成…

有機合成化学協会誌2024年11月号:英文特集号

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2024年11月号がオンライン公開されています。…

小型でも妥協なし!幅広い化合物をサチレーションフリーのELSDで検出

UV吸収のない化合物を精製する際、一定量でフラクションをすべて収集し、TLCで呈色試…

第48回ケムステVシンポ「ペプチド創薬のフロントランナーズ」を開催します!

いよいよ本年もあと僅かとなって参りましたが、皆様いかがお過ごしでしょうか。冬…

3つのラジカルを自由自在!アルケンのアリール–アルキル化反応

アルケンの位置選択的なアリール–アルキル化反応が報告された。ラジカルソーティングを用いた三種類のラジ…

【日産化学 26卒/Zoomウェビナー配信!】START your ChemiSTORY あなたの化学をさがす 研究職限定 キャリアマッチングLIVE

3日間で10領域の研究職社員がプレゼンテーション!日産化学の全研究領域を公開する、研…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP