有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2024年3月号がオンライン公開されています。
もうすぐ日本化学会年会ですね!!薬学会に行かれる方も多いでしょうか。とても楽しみにしている筆者です。
有機合成化学協会誌は今月号も充実の内容です。
キーワードは、「遠隔位電子チューニング・含窒素芳香族化合物・ジベンゾクリセン・ロタキサン・近赤外光材料」です。
今回も、会員の方ならばそれぞれの画像をクリックすればJ-STAGEを通してすべてを閲覧することが可能です。
巻頭言:意 想 外
今月号の巻頭言は、大阪大学大学院工学研究科の南方 聖司教授による寄稿記事です!
考えて考えて考え抜くことと、意想外なことを見出せる余裕のある状況、両者をいかに突き詰めるかが大事だと深く感じました。必読です。
遠隔位電子チューニングによるN-複素環式カルベン触媒の高性能化
*徳島大学大学院医歯薬学研究部(薬学域)
本論文では、独自の触媒修飾法によるN-複素環式カルベン触媒の高性能化について、最新の成果を交えて紹介されている。
含窒素芳香族化合物の光化学的特性を活用する高立体選択的多環系骨格構築手法の開発
*北海道大学大学院工学研究院応用化学部門
インドールとアレンとの分子内光[2+2]環状付加反応が作り出すユニークで多彩な分子フレームワーク。光[2+2]環状の魅力を存分に味わえます。効率的な分子変換も紹介されており、含窒素多環性有機化合物の世界が広がります。
ジベンゾクリセンの高生産性合成を礎とした八環性C60断片の合成
*龍谷大学先端理工学部応用化学課程
C60のフラグメント化合物としてはコランニュレンやスマネンがよく知られていますが,本論文はそのファミリーの新メンバーとして構造的・機能的に興味深いジインデノクリセンとジヒドロジインデノクリセンの合成について述べたものです。フルオレノンの二量化という古典的反応の再発掘と注意深い再検討から始まり,目的分子のグラムスケール合成法へと至るストーリーに引き込まれます。
*富山大学学術研究部薬学・和漢系
本論文は、富山大学の大石先生、井上先生が推進している「ロタキサン型色素」の合成と発光特性について、[3]ロタキサン型、[4]ロタキサン型、および[5]ロタキサン型に分類して記載しています。各ロタキサン分子のコンポーネントは空間的に結びついて1分子として振る舞う点が特徴で、ユニークな合成法、興味深い化学構造、優れた機能について、魅力いっぱいに書かれています。[5]ロタキサンの合成時に使用している協調的補足戦略は、新しい反応や新触媒の開発のためのヒントになるように思われ、ロタキサン化学者ではない方にとっても必読の一稿です。
骨格炭素のアザ置換による狭エネルギーギャップ化を基盤とした近赤外光学材料開発
*京都大学大学院工学研究科高分子化学専攻
骨格炭素のアザ置換による挟エネルギーギャップ化を基盤とした近赤外光学材料の開発に関する田中一生先生らの継続的かつ充実した研究内容が、この総合論文にギュッと濃縮され紹介されています。特に「孤立FMO」に着眼したロジカルな分子設計は極めて鮮やかで、読者を楽しませてくれます。近赤外光学材料の化学の魅力や可能性が伝わる内容となっていますので、ぜひご一読ください。
Review de Debut
今月号のReview de Debutは1件です。オープンアクセスですのでぜひ。
・アザアダマンタン骨格を有するDaphniphyllumアルカロイドの全合成 (名古屋大学大学院創薬科学研究科)楳窪成祥
ラウンジ
今月号のはラウンジがあります。筆者もJASON気になってました!同じような人は多いのではないでしょうか?必読です。
・NMRメーカーによるNMRユーザーのためのNMRデータ処理ソフトウェア「JASON」 (日本電子株式会社)朝倉克夫
感動の瞬間:スズメ百まで踊り忘れず
今月号の感動の瞬間は、京都大学名誉教授・理事・副学長の時任宣博先生による寄稿記事です。
時任先生の研究を知らない人は読者の中にはなかなかいないと思いますが、物語として読める貴重な記事かと思います。ぜひお読みください。
これまでの紹介記事は有機合成化学協会誌 紹介記事シリーズを参照してください。