自身の専門性や仕事のやりがいを理解していても、企業規模やネームバリューに惹かれ転職を決断してしまうと、転職後に自身の能力を発揮できないリスクが高まります。
今回ご紹介するのは、そのような経緯で転職が思うように進まなかった30代女性研究者の再転職をサポートした事例です。「もう一度、研究職に戻りたい」と焦るあまり、彼女は自分を見失いかけていました。
LHH転職エージェントLife Science紹介部Pharmaceutical課の萩原優季さんは、そんな彼女に寄り添い、再転職を成功させました。そのプロセスを紹介します。
この記事のポイント
1.丁寧な面談によるキャリアビジョンの明確化
2.転職のミスマッチがないビジョンマッチング
3.詳細な求人企業情報の提供と面接対策
4.不測の事態へのコンサルタント対応力
5.求職者に深く寄り添う姿勢と共感力
明瞭なビジョンを持ちながら転職に失敗したその理由
萩原さんは医薬品業界への転職支援を専門とするPharmaceutical課に所属し、研究職の転職案件を多く扱ってきました。その経験から「専門的な知識・経験はあっても、キャリアの軸を持っていない方が意外に多い」と言います。
キャリアの軸とは、自分が何をやりたいのか、何を成し遂げたいのか、何に貢献したいのか、それを達成するためにどんなキャリアを積むのか、を指します。つまりキャリアビジョンです。
LHH転職エージェントの転職支援では、このキャリアビジョンを最も重視します。なぜなら、これをおざなりにすると、往々にして転職に失敗することがあるからです。以前担当したFさんの転職歴がその典型的な例でした。
求職者のFさんとの最初の面談で、萩原さんは一抹の不安を覚えました。
その方はすごく早口で『とにかく研究職に戻りたい』と訴えるのです。強い焦りと不安を感じました。これ以上、現職の業務を続けるのは耐えられないという感触もありました。
その勢いに少々戸惑った萩原さんですが、Fさんの今の気持ちに寄り添いたいと、遮ることなく話を聞きました。そして、合間を見てこう問いかけました。
「どうしてそれほど研究職に戻りたいのですか?」
その質問がFさんの「キャリアの軸」を引き出すきっかけとなりました。
Fさんは30代の女性研究者で、今回が2度目の転職でした。1度目は医薬品や診断薬の研究開発と製造販売を行う大手の研究部門に勤務していましたが、ジョブローテーションで研究を行わない部署に配置されたことから転職に踏み切りました。
問題だったのは、転職の際に会社のネームバリューと給与額などの待遇で転職を決断してしまった事です。
入社してみると、配属先は希望した研究所でしたが、任されたのは受託分析の業務でした。面接では研究もできると聞いていたのに実際はそうではありませんでした。さらに、現場の設備が古く、Fさんが期待したような業務環境ではなかったとのことでした。
Fさんは「ブランクができてしまうと研究職に戻れなくなる」と、転職して数カ月で再度の転職を決めました。焦りと不安はそこからくるものだったようです。そして、前回の転職については、大手企業に対する安心感から「現場を見ずに転職してしまったのが失敗だった」とふり返っていました。
しかし、Fさんにキャリアビジョンがなかったわけではありません。
「なぜ研究職に戻りたいのか」「どのような研究をしたいのか」という萩原さんの質問への回答は明瞭でした。それは「前職の経験をもとに基礎研究の研究員として医薬品の創薬に貢献したい」というものです。
もしFさんがそのビジョンを基軸にして転職に臨んでいたら、企業のネームバリューや待遇だけで転職を決めなかっただろうと思います。私たちLHH転職エージェントのコンサルタントがビジョンを最も大切にするのは、そうしたミスマッチを引き起こさないためです。
万全を期すも生じた求職者と求人企業の評価のずれ
Fさんの意向を詳しく聞いた後、萩原さんは同部署で研究領域に関する企業情報に精通する古森一穂さんに相談しました。そして、いくつかの候補企業をFさんに紹介しました。そのなかでFさんが関心を示したのが、がん免疫治療薬の開発に取り組むバイオベンチャーでした。
ただ、大手2社で勤務してきたFさんは当初、バイオベンチャーにあまり乗り気でないようでした。しかし、ベンチャーとはいえ、その会社は20年来の社歴があり、実績も積んできている会社です。一歩を踏み出してみないと何も始まらないので「ひとまず受けてみましょうよ」と勧めました。
ベンチャーは企業規模が小さく不安定だからと、大手企業からの転職では避けられがちです。しかし、良いところもたくさんあると萩原さんは言います。
「大手企業では会社から命じられた仕事で、個人で裁量できる範囲が狭い場合が多いのですが、ベンチャーでは自分の裁量でできる業務領域が増えます。また、委託先やメーカーと協働したり、交渉したりするなど対外対応の機会もありますから、研究を続けながらも幅広い業務経験を積むことができます。キャリアの幅を広げる意味で、そこに魅力があると私は思います」と萩原さんは言います。
素直な性格で研究への思いが強いFさんは、熱意ある人材が集まるベンチャーのほうが向いていると萩原さんは考えていました。
また、転職先の候補選びに協力した古森さんは、ベンチャー系の企業情報を豊富に持っています。萩原さんは、ベンチャー企業で働く魅力を伝え、あまり表立っては知られていないものも含めた詳細な企業情報をFさんに提供しました。
Fさんはベンチャー企業の求人に応募することを決め、Fさんの人材情報を受けた企業側も好感触を示しました。ただ、企業は、研究者の自立性を重視しているので、面接で研究歴についてプレゼンテーションすることを求職者に求めていました。
博士号を持つ研究者は、転職の場でプレゼンテーションを行うことが多いですが、Fさんのように修士の方はあまり機会がありません。そのため、Fさんがプレゼンテーションで自身をアピールしきれるのか不安に思われるのではないかと考えました。
そこで、プレゼンで求職者に何を求めているのかを企業にヒアリングし、Fさんには自身のキャリアをどうプレゼンで表現するかをアドバイスし、プレゼン資料の添削も行いました。
ところが、一次面接後にまた問題が起きました。
Fさんに面接の成果を尋ねると「うまくいかなかった」と言うのです。
一方、求人企業に尋ねると、Fさんは高く評価されていました。このずれをそのままにしておいては、またミスマッチを招きかねません。それだけは絶対に避けなければならないと萩原さんは思いました。
企業側との交渉でミスマッチのおそれを回避
一次面接後の面談を通して、Fさんが「うまくいかなかった」と感じた理由が明らかになりました。
プレゼンの準備は入念にしたのですが、オンラインでの面接だったので自分の思いが相手に十分に伝わっていないと感じたようです。
対面の面接では相手の表情の変化や場の空気を直に感じ取れますが、オンラインではそれが難しい面もあります。また、面接担当者も人間なので、当然オンライン面接の得手不得手もあると萩原さんは言います。
企業側の面接評価が良かったことを伝えるとFさんは喜び、気持ちが前向きになりました。
そこで萩原さんは新たなアプローチを考えました。
二次面接を対面で行うことをFさんに提案し、求人企業にもそれをお願いしたのです。
「Fさんは研究への思い入れが非常に強い方なので、その気持ちは対面のほうがより伝わると考えました。前回の転職で、現場を見なかったことがミスマッチの原因だとFさんが考えていることも企業に伝えました」と萩原さんは言います。
二次面接において、当初は本社での面接だけが予定されていましたが、Fさんが勤務することになる研究所の責任者との面談と研究現場の見学も加えてくれました。
それは求職者と求人企業の意向をすり合わせ、必要ならば企業との交渉も行うコンサルタントの存在があってこそ可能になったことです。
こうしてFさんに内定が出ました。その後、企業側を担当する古森さんが給与額などについての交渉を行い、内定承諾にいたりました。
今回の転職を成功に導いたポイントを尋ねると萩原さんは、二次面接を対面にできたこととしながらも、もうひとつ「医療に貢献したい」というFさんの気持ちに深く共感したことを挙げました。それは「私自身のビジョンの軸でもあります」と言います。
萩原さんは医療機器の営業職から転職エージェントのコンサルタントに転じました。
「私自身は専門的な知識も技術も持ち合わせていませんが、前職で医療の世界に触れ、自分もその分野に何がしかの貢献をしたいと現職に就きました。ですから、Fさんの気持ちがよくわかりましたし、Fさんのように熱意のある方が活躍してくれることが、私の医療への貢献にもなると思っています」
そして、自分が働く場としてLHH転職エージェントを選んだのは、ビジョンマッチングという支援手法に魅力を感じたからだと言います。
求職者の思いに深く共感し、転職の成功へ向けて伴走する姿勢。それはLHH転職エージェントのコンサルタントに共通する特質と言えます。
まとめ
自身のキャリアビジョンを明らかにし、入念な面接準備を行うことは、大切だと理解していてもなかなか1人でやり通せるものではありません。また、求人企業との交渉も、求職者の立場では難しいところがあります。
その手の届きにくいところをしっかりとサポートするのがコンサルタントの役割です。
また、萩原さんは「今、転職する意志がなくても、キャリアビジョンを明らかにすることで、今後の仕事の仕方や自身の成長にとって大きなプラスになる」と言います。
転職エージェントを利用すると、転職しなければならなくなると考える方もいるようですが、そんなことはありません。相談は受けたけれど、話していくうちに現職でも自分を伸ばせると判断し、転職にいたらなかった方もいるそうです。
日々の仕事に追われていると、案外、深く自分と向き合う機会がありません。転職エージェントのコンサルタントへの相談は「自分の今」を見つめ直す良い機会なのです。
■コンサルタント:萩原 優季
大学卒業後、医療機器商社に入社。医療機関(主に総合病院)に対する営業を経て、LHH転職エージェントへ。ライフサイエンス領域を専門に転職支援を行う。主に製薬業界、職種は研究、臨床開発、QA、QCなどを得意とし、年齢層も若手から管理職クラスまで転職支援の実績を持つ。
求職者の方のキャリアだけではなく、ライフビジョン(生き方)も大切にしたヒアリングを大切にし、ライフビジョンを実現するために転職が必要な際は、誠心誠意でサポートすることを心がけている。
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