bergです。この度は2024年3月9日(土)に東京工業大学 大岡山キャンパスにて開催された石谷教授の最終講義「人工光合成を目指して」を聴講してきました。この記事では会の模様を簡単に振り返ってみたいと思います。
演題と講師の先生方は以下の通りです。
演者: 石谷 治 教授(東京工業大学大学院理工学研究科 化学専攻)
題目: 人工光合成を目指して
場所: 東京工業大学 大岡山キャンパス
日時: 2024年3月9日(水)14:00-16:00
詳細: 石谷 治 先生による最終講義が3月9日(土)に開催されます。
石谷教授といえば遷移金属錯体を用いた二酸化炭素還元反応の開発の第一人者として著名で、近頃ではメタルフリー触媒を用いた反応開発など画期的な研究に取り組まれています。ケムステでも何度も(関連記事:世界の化学者データベース 石谷 治 Osamu Ishitani 、第一回ケムステVプレミアレクチャー「光化学のこれから ~ 未来を照らす光反応・光機能 ~」を開催します!、光エネルギーによって二酸化炭素を変換する光触媒の開発)ご紹介させていただいていますが、本公演ではご自身の研究の足跡を振り返ってご紹介いただきました。
お話のなかでもとりわけ印象深かったのが、学生時代から一貫して人工光合成の夢を追い続け、その実現のために尽力されてきたエピソードでした。石谷先生のお若いころには公害問題や相次ぐ石油危機もあって、世間が化学者に向ける視線は厳しく、就職難でもあったそうですが、あるとき某週刊誌に掲載されていた京都大学の吉田善一教授によるノルボルナジエンの光異性化の記事を目にしたのがきっかけで「悪者にされている化学も人工光合成を通じて社会課題を解決し、ひいては人類を救う」と直感、以来一貫してご研究に取り組まれてきたといいます。周囲の勧めもあって京都大学ではなく大阪大学の大学院へ進学、朴教授の研究室で博士号を取得されたそうですが、そのときのご経験を糧にSETを抑制しヒドリド移動のみを駆動するRu触媒開発を達成、さらにMLCTを利用してRe錯体で多核・環状錯体の合成しCOへの還元を達成、近年では架橋配位子を工夫することで還元剤として水を利用可能としたり低濃度のCO2でも反応に供せられるように改良したりと、そのご業績は枚挙にいとまがありません。確固たるフィロソフィーをもって情熱的に研究に取り組まれ、一歩もぶれずに筋を通されるその姿勢には深く感銘を受けました。
ほかにも、発光材料として名高いTADF系の有機材料が長寿命の励起種を形成することに着目してメタルフリー触媒の開発を達成されるなど、先駆的な興味深いお話を数多く拝聴することができました。民間企業に就職して以来このような最先端の研究に触れる機会がめっきり減ってしまっていたので、今回の講演会は非常に刺激的で新鮮で、あっという間の二時間でした。最後になりましたが、講演をセッティングしてくださった東工大の関係者各位、そしてご講演くださった石谷教授に心よりお礼申し上げます。長年のお勤め、お疲れ様でした。来年度からも広島大学では特任教授としてご活躍されるということで、今後の研究の進展も楽しみにしています。