有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2024年2月号がオンライン公開されています。
あっという間に日々が溶けていく2月です。。怒涛の○論関連で曜日感覚もなくなる日々ですが、頑張って乗り越えたいものです。
有機合成化学協会誌は今月号も充実の内容です。
キーワードは、「タンデムボラFriedel-Crafts反応・炭素-フッ素結合活性化・セリウム錯体・コバルト-炭素結合・ホスホロアミダイト法」です。
今回も、会員の方ならばそれぞれの画像をクリックすればJ-STAGEを通してすべてを閲覧することが可能です。
巻頭言:研究者にもっと研究時間を
今月号の巻頭言は、北海道大学大学院先端生命科学研究院の門出健次教授による寄稿記事です。
首肯しすぎて首がモゲるかと思いました。同じ考えの研究者も多いと思います。私もできる限りの仕事効率化を目指し日々トライしています。
祝辞:玉尾皓平先生が令和5年度文化勲章を受章
名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所 山口茂弘教授により、玉尾皓平先生への祝辞を綴った記事が寄稿されています。
私も玉尾先生の文化勲章受賞のニュースを見た時は感激し、ラボメンバーにすぐ共有していました。
玉尾先生はケムステイブニングミキサーにも毎度来てくださり、激励くださる本当に温かい先生です。この度はご受賞おめでとうございます。
タンデムボラFriedel-Crafts反応を鍵とした有機エレクトロニクス材料の開発
2018年度有機合成化学協会 富士フイルム・機能性材料化学賞受賞
*京都大学大学院理学研究科化学専攻
本総合論文では、ホウ素原子を多環式骨格の縮環部に酸素や窒素と共に導入した含ホウ素π共役化合物群の、材料開発について述べられている。これらの材料は,従来の有機合成手法では合成が困難であるが、独自に開発したタンデムボラFriedel-Crafts反応を鍵反応として用いることで、市販品より短工程かつ大量に合成することが可能であることを見出し、得られた化合物の物性評価や、反応機構の解明を行うことで、基質適用範囲の拡大と合成化学的応用について述べられている。
遷移金属によるフッ素脱離過程を利用したアリル位およびビニル位炭素-フッ素結合活性化
2019年度有機合成化学奨励賞受賞
*公益財団法人相模中央化学研究所
炭素-フッ素(C-F)結合は最も結合エネルギーが高い安定な結合として知られており,その選択的な活性化は容易ではありません。これに対して著者は,含フッ素有機金属種の穏和なフッ素脱離を巧みに利用ことで,フッ素化アルケンのC-F結合活性化を伴う多様な分子変換法を開発してきました。素反応の適切な組み合わせによって触媒反応を設計するための考え方を学ぶのにもうってつけの内容です。
セリウム錯体の一電子酸化還元特性を利用する酸素雰囲気下での有機化合物の触媒的な酸化反応
*大阪大学大学院基礎工学研究科
「セリウム錯体触媒反応」
有機合成においてセリウムといえば、CANによる酸化反応やCeCl3の添加効果などがおなじみですが、触媒としての利用は有機合成ではあまり知られていません。今回筆者らは、デザインされたセリウム錯体の一電子酸化還元反応を利用することで、アルコールの酸化反応とカルボン酸の脱炭酸ー酸素化反応がセリウム触媒によって進行することを示しています。
環境負荷物質からの炭素循環システムの創製を目指したコバルト-炭素結合の生成と開裂を鍵とするクリーン物質変換システムの開発
2021年度有機合成化学協会企業冠賞 東ソー・環境エネルギー賞受賞
*九州大学大学院工学研究院応用化学部門
著者らが研究しているビタミンB12酵素が触媒する炭素変換システムがまとめられている。光触媒や電解系とビタミンB12酵素触媒を巧みに組み合わせることで、環境負荷物質であるDDT類縁体の変換反応を実現している。
ホスホロアミダイト法によるリン脂質の発散的合成に基づく生理機能解析
*愛媛大学大学院農学研究科
複合脂質は天然に多様な分子種が存在するが、入手困難なものが多い。著者らはカルジオリピンの収束型合成を皮切りに、あらゆるタイプのリン脂質の合成を達成し、それらを用いて脂質の生理機能解析研究の進展に貢献してきた。本論文では脂質合成の独特のノウハウと脂質機能の奥深さを知ることができる。
Review de Debut
今月号のReview de Debutは1件です。オープンアクセスですのでぜひ。
・Lewis酸触媒として働く有機アンチモン化合物 (東洋大学理工学部応用化学科)坂部将仁
ラウンジ:スペクトル理論計算を用いた構造解析の注意点
今月号はラウンジがあります!北海道大学大学院先端生命科学研究院 谷口 透 准教授による執筆記事です。
スペクトルを使わない研究をしている人はいないはず。誰にとっても勉強になります!ぜひご覧ください。
感動の瞬間:興味に身をまかせ研究には何でも使ってみよう
今月号の感動の瞬間は、京都大学の杉山弘教授による寄稿記事です!
食わず嫌い的精神は本当にもったいない。研究者としての自由性を活かして、なんでも使ってみるべきだと私も思います。
これまでの紹介記事は有機合成化学協会誌 紹介記事シリーズを参照してください。