これは理系の夫視点で書いた、私たち夫婦の不妊治療の体験談です。ケムステ読者で不妊に悩まれている方の参考になればと思い、記事を作成してみました。
この記事は2024年2月時点に執筆した記事です。保険適用などのルールについては変更されている可能性があり、最新の情報を確認ください。また記事の内容は筆者が聞いた内容や主観に基づいておりますので、治療に関する判断は医師の指示に従うことをお勧めします。
はじめに
化学者と言える身分かは分かりませんが、冒頭の通りこの記事は私たち夫婦の不妊治療の始まりから終了(妊娠)までを記したものです。体験談はブログや動画などでたくさん見かけますが、この記事では、理系の視点で治療やその結果についてどう思ったのかを織り交ぜながら治療の経過、妊娠までの過程を紹介していきます。所々に治療の内容が出てきますが、詳しい解説は不妊治療クリニックのサイトを参照ください。
目次
- はじめての不妊治療クリニック訪問
- 人工授精
- 体外受精(最初の採卵から移植まで)
- 体外受精(検査・治療そしてコロナ突入)
- 体外受精(移植再開と転院)
- 体外受精(検査の続きと男性側の診察そして2回の採卵)
- 体外受精(移植と妊娠確認)
- 理系の考え方で思う不妊治療の難しさ
- 率直な気持ち
- かかった費用
- 保険適用になった不妊治療
- 良いクリニック選び・治療方針
はじめての不妊治療クリニック訪問
新婚生活も一息し、二人の生活が2年ほど経過しても妊娠せず、さてどうしたもんだと思っていたころに妻から不妊治療クリニックに行くことを提案されました。その頃は二人ともまだ20代で、クリニックのお世話になるのはもう少し先でも良いかと思っていましたが妻に強く勧められて行ってみることにしました。不妊治療クリニックの多くは完全予約制で、突然行っても診てもらえないことがほとんどです。加えて現在では多くの人が不妊で悩んでいるようで、多くのクリニックにおいて直近の予約は埋まっていることが多いです。
私たちが最初に訪れたクリニック(以後、クリニックAとします)では受付を済ませると問診票に記入を求められ、結婚したかや妊娠・出産の有無、夫婦生活の頻度、生理の状況などを書くことになります。その後、医師との面談となります。最初の面談で医師から説明があったことで覚えているのは、
- 夫婦生活が2年以上続いて妊娠しないのなら、それは不妊であるということになる。
- 不妊になるのは、目が悪くなるようなことであり、自然に起こる現象である。(最近ではスマホやタブレットといった明らかに目に悪影響を与える因子があるので医師の例えは適切ではないかもしれません。)
ということでした。その時には、行うかもしれない治療については深く考えず、とりあえずクリニックに通ってみるかと思いました。初回は、話だけで終わり次回、状況確認のための検査を行うことになりました。
通院2回目で検査となり、クリニックAではヒューナーテスト、経腟超音波検査、感染症、がん検査を行いました。ヒューナーテストは前日に夫婦生活をしておき、子宮の入り口の粘液を採取して、頸管粘液中に精子がどのくらい元気に動いているか確かめます。行われた検査は、腟内に超音波プローブや器具を入れて、画像を確認したりサンプルを採取して調べるものです。感染症やがん検診などはどのクリニックでも行うと思いますが、ヒューナーテストではなく精子の動きや量を検査する場合も多いかと思います。この場合、精液を持参、あるいはその場で射精して精液に含まれる精子の濃度や運動量を定量的に計測します。ヒューナーテストや精液検査で精子が少なかったり運動量の低い場合には、自然妊娠する確率が低いことは明らかであり、妊娠するためには体外受精が必要になります。
これらの検査では異常は見つからず、医師の勧めもありファーストステップとして人工授精を行うことにしました。
人工授精
人工授精は採取した精液を精製して、子宮内に注入する方法です。クリニックAでは最適なタイミングを図るため、生理周期をもとに大体の日にちを決めてその前に一回以上、事前に子宮内の状態を調べてから実施する日時を確定します。実施後は、妊娠したかを確認するために、後日クリニックを訪れて尿によって妊娠したかを判定します。
後述する体外受精に比べて安価(自分の場合で、1回数万円)ですが、上記の検査で問題ない場合には、人工授精で妊娠するケースは体外受精と比べて少ないと見ています。私たちの場合は3回行いましたが、妊娠には至りませんでした。医師からは成功しなかった理由は特に言われませんでしたが、ヒューナーテストで子宮内に精子が確認されているならば、体外受精でも性交でも状況は同じであり、不妊の原因は別にあるためうまくいかなかったと自分では考察しています。クリニックも過去の患者の状況を知っているからか3回以上の人工授精は勧められず、体外受精を行うことになりました。
全く上手くいかず、さすがに気持ちが沈みましたが、前述の通りあまり人工授精にはあまり期待していなかったのでやはり体外受精に進むことになるかと思いました。
体外受精(最初の採卵から移植まで)
ここまで文章だとサクサクと進んでいるように思えますが、実際のところ、はじめてのクリニック通院から人工授精の終了まで約6か月かかっています。これは女性の生理周期に基づいて治療が進むためであり、多くの治療や検査は、生理周期に一回しか行うことができません。そのため、検査に1か月人工授精3回に3か月に加えて、治療を始めるか夫婦で悩んだりしたため6か月かかりました。
本題に戻りますが、体外受精では、卵子を取り出す採卵と胚や胚盤胞を子宮に戻す移植の2ステップあり、まず採卵を行い卵子を回収し、精子を使って受精させます。自然には生理周期に一つのみ卵子が成長するため、薬を使って卵巣を刺激し一度にいくつかの卵子を回収できるようにします。薬の種類や頻度によって刺激する強度は変わり、強いほど多くの卵子を回収できますが、体への負担が大きくなってしまいます。
クリニックAの場合、体外受精の前に血液検査を行いホルモンなどを調べました。特にアンチミューラー管ホルモン(AMH)が採卵においては重要で、卵巣の中に卵子がどれくらい残っているかを定量的に調べることができます。そのためこのAMHの値によって、医師は薬の種類や投与する頻度を変えているようです。採卵においても、生理周期から採卵の日までに数回、クリニックを訪れて卵子の状態を確認し採卵の日を確定します。
採卵の日には採取した卵子に受精させるために、精液を持参、あるいはその場で射精します。受精方法もいくつか方法がありますが、大きく分けてコンベンショナルと顕微授精(ICSI)の2つがあり、コンベンショナルでは卵子に単に精子を振りかける方法で、顕微授精では顕微鏡を使ってマイクロキャピラリーで一つの精子を卵子の細胞の中に入れます。一般的に精子の量や濃度が低かったり運動量が少ない場合には、顕微授精を優先する場合が多いようです。
さらに凍結までの培養にも選択の余地があり、初期胚で凍結するか胚盤胞まで培養させてから凍結させるか選ぶ必要があります。胚盤胞を移植したほうが妊娠する確率は高いですが、受精卵が胚盤胞まで培養で育つ確率は30~50%であるため、移植できる機会を残すために初期胚を凍結することもあります。つまり移植機会を減らして妊娠する確率を上げるか、移植機会を増やすが妊娠する確率を犠牲にするかという選択となります。ただし現在は保険適用のルール(後述)もあり、胚盤胞まで培養させてから凍結するのが主流と見ています。
私たちの最初の採卵では6個の卵子を回収することができ、半分ずつをコンベンショナルと顕微授精に使用しました。結果、4個の受精卵が得られ、最終的には3個の胚盤胞と1個の初期胚を得ることができました。まあまあの結果かなと思っていましたが、待合室で他の人の結果が見え、たくさんの胚盤胞を凍結している人もいて年齢の割には少ない気がして心配になりました。とは言っても一個が着床して妊娠すれば良いわけではあり、説明書類には一回の移植平均で30%くらいで妊娠するということなので得られた4つをすべて移植するうちには妊娠するかなとこの時は楽観視していました。
次に得られた胚盤胞と初期胚を子宮内に戻して移植となるわけですが、移植にも自然周期とホルモン周期の2種類があります。自然周期では、自然の生理周期に合わせて移植日を選ぶ方法で、ホルモン周期はホルモンを補充して移植日を調整する方法です。どちらの方法でも採卵同様に移植までに数回、クリニックを訪れて子宮内の状態を確認し移植の日を確定します。移植後は妊娠判定日まで薬を使用し、判定日にはクリニックで血液検査を受けて妊娠したか調べます
クリニックAでは、自然周期がスタンダードのようで自然周期を行いました。周期ごとに私たちの結果をまとめると、
- 血液検査の値(ホルモン)が悪く移植中止
- 胚盤胞1個目は解凍したものの生存せず、2個目の胚盤胞を移植したが妊娠せず
- 初期胚を移植したが妊娠せず
となり、残る胚盤胞は1個となりました。治療開始から1年が経過しておりさすがに心配になってきます。クリニックAの医師からは、妊娠しなかった理由について移植胚の遺伝子が原因だと一言で片づけて次の移植を促されました。これは、受精卵(胚)の染色体異常、特にその中でも染色体の数の異常であるため着床・妊娠まで至らなかったことを意味しています。もちろん、体の中を見ることはできないのでどうして妊娠に至らなかったのは分かりません。そのため一般的な原因を示したと言えます。
前述の通り、体外受精では治療方法は多彩であり選択の余地がいろいろあります。しかしながらここまでは、クリニックのお勧め通り動いてきましたが、さすがに2回移植しても妊娠しないと何か不妊の原因が他にあるのではないかと思い一端、移植を止めて検査を行うことにしました。
体外受精(検査・治療そしてコロナ突入)
行った検査は子宮鏡検査であり、専用内視鏡を子宮に入れて内部を確認し、不妊の原因となっている異常が無いか確認するものです。クリニックAでは積極的にこの検査を紹介はしていないものの依頼があれば行うようでした。結果、極めて小さなポリープが見つかりました。この結果について医師は治療の必要性を明確にせず、治療しても良いという返答をしたことを覚えています。おそらく、大きさを見てクリティカルではないが、不妊の原因であることを否定できないためそのような答えをしたのだと思っています。
通常、不妊治療のクリニックでは内視鏡で調べることはできても治療することはできないため、紹介状を書いてもらって婦人科のある病院に行くことになりました。この頃になると妻は、いろいろな情報をインターネットで調べるようになり、最初に言った婦人科では希望の治療方法(内視鏡によるポリープ切除)ができず、別の病院に行くことになりました。結果、すぐにポリープを切除することは難しく3か月生理を止めて、ポリープを切除できる状況にしてから切除しました。
私としては、クリニックAの微妙な答えもあり、そして自分たちも年をとっていくため焦りを感じ、最後の移植を早く行いたいと思いこの頃は歯がゆい思いをしていました。一方でこの治療には大きな痛みがあり、男性には何もできない無力感も味わっていました。
無事にポリープを切除し最後の移植を行おうと思っていた矢先、新型コロナが始まりました。ここまででクリニック通院開始から約1.5年経過しており夫婦ともに30代に突入しました。
体外受精(移植再開と転院)
コロナ中は、不妊治療を行いませんでした。いろいろな不安要素があり特にクリニックAは、待合室が狭く感染リスクが高いと感じたからです。通常、胚盤胞の保管期限は一年であり、保管を延長する場合には延長料金を支払う必要があります。結局2年間延長し最後の移植に挑みました。この頃になるとクリニックAは、多くの患者さんが来るようになり、院長だけでなく他の医師も診察・治療するようになりました。院長は研究者っぽい感じで妻には不評でしたが、女性の先生は話を聞いてくれる方で感じは良かったと思います。しかしながら最後の胚盤胞をしても妊娠には至りませんでした。
いろいろやって妊娠できないとさすがに落ち込みました。この頃になるとSNSで繋がっている同級生が続々と出産報告をするようになり、SNSを見ることを避けるようになりました。また芸能人の妊娠に関するニュースも見るのもつらくなり、いろいろな子供に関することを避けるようになりました。
そんな中、私たちはお世話になるクリニックを変えることにしました。理由はいろいろありますが、他のクリニックをインターネットで調べるとクリニックAはやり方が合わないと感じたからです。例えば、他のクリニックでは胚盤胞の見た目でグレードを付け、着床しやすさの指標にしていますが、クリニックAではそのようなことはしていなかったので、不信感を感じてしまいました。
いくつかの不妊治療クリニックの説明会を聞いたり、初診に行ってみてクリニックBにお世話になることになりました。すでに多くの情報がある状態でそれなりの希望する治療する方針があるため、それを受け入れてくれそうなクリニックを探しました。選んだクリニックBは、いろいろな検査を実施しており患者の選択の自由度が高いように感じました。またオンライン診断を併用しているため待ち時間が極めて短いことも選んだ理由の一つです。
体外受精(検査の続きと男性側の診察そして2回の採卵)
ポリープは切除しましたが、もう少し検査をしてから体外受精を再開しようと思い、いくつか検査をしました。しかし特に異常は見つからず治療をすることはありませんでした。一方クリニックBでは男性不妊にも力を入れており、初診で泌尿器科による触診と精液の検査を受けることになっています。診察の結果、精子の運動量が若干少なく、精索静脈瘤があるとのことで精索静脈瘤手術を受けることになりました。これはクリニックBで受けることができ日帰りの手術でした。術前は痛くないとのことでしたが、メスを入れるため局所麻酔があってもやはり痛く一週間ぐらいは痛みが残り歩くのも大変でしたが、妻はこの何倍もの痛みを経験しており、これぐらいは耐えなければと思いました。
これで準備は万端となり、2回目の採卵を行うことになりました。クリニックBではスタンダードで一般的な中程度の刺激を行います。そして診断のたびに育っている卵胞の数とサイズがシェアされ、場合によっては薬を追加の指示になったりしました。受精方法は、コンベンショナルと顕微授精の半々を予定していましたが、顕微授精を行う場合には、卵子の周りの細胞を取り払い、育っていることが確認できた卵子のみが使用されます。当初の予定よりも顕微授精できる卵子が少ないと、コンベンショナルを予定していた卵子を顕微授精に使うことができますが、細胞を取り払うとコンベンショナルには使えないので後戻りはできないリクエストになります。結果、コンベンショナルで2個、顕微受精で1個の受精を行うことができましたが、どれも胚盤胞まで育ちませんでした。より積極的な刺激方法を選んだにも関わらず何も凍結できず、年齢の影響かと何もできなかった3年間を大変悔いたことを覚えています。
気を取り直して3回目の採卵を行いました。刺激方法は大体同じですが、顕微授精においては、カルシウムイオノフォアとヒアルロン酸成熟精子選別法を実施しました。クリニックBでは、胚盤胞にグレード付けをしています。グレードは三つの項目、3(胚盤胞の進み具合)A(ICM:赤ちゃんになる細胞の評価)B(TE:胎盤になる細胞の評価)からなり、良い胚盤胞ほど妊娠し出産する確率が高いとされています。現状の保険適用は移植の回数に制限がある(後述します。)ため、妊娠できる確率の高い胚盤胞を選ぶことをお勧めするクリニックも多いと見られます。クリニックBでもこのグレード付けを行っており特に後ろ2文字のアルファベットが三段階のABCでBB以上を凍結をお勧めする基準としていました。結果3個の胚盤胞を凍結しました。
体外受精(移植と妊娠確認)
クリニックBにおいてはじめての移植となりました。クリニックAでは、自然周期をスタンダードとしていましたが、Bでは仕事などの予定で移植できなくなる事態を防ぐため、ホルモン周期を基本としていました。また他のクリニックの説明会においても理由は不明ながらホルモン周期の方が妊娠率が高いということを聞いたので、ホルモン周期で行いました。
移植回数が限られているので、この一回に全力を尽くすことにしました。できるオプションはすべて行い、胚盤胞を2個移植しました。これは、効率を重視した方法ですが、多胎妊娠のリスクも上がるため2個移植には条件があります。クリニックAでは行っておらず、クリニックBでも少し渋られました。また食生活を良くしたり、鍼灸もやってみました。さらに移植後も気を遣い、なるべく安静でいるようにしました。これらについて直接的な効果は無いとの論文が発表されていたり、クリニックから安静の必要性は無いと説明を受けていましたが妻のネガティブな効果が無ければ、何でもやってみようというマインドを遮ることはしませんでした。
上記の通り、クリニックBでは通院を最小限にしており、妊娠判定も事前に配布されている妊娠検査薬を使用します。朝一番にチェックするのですが、その直前の夢で陽性になった夢を見ましたが、その直後にそれが現実となりました。その後、何度も出血がありそのたびにクリニックBに駆け込みましたが、順調に育ちクリニックBから産科病院に転院しました。そして出産を迎え、今は育児に邁進する日々を送っています。
長くなりましたが、ここまでが不妊治療クリニック通院開始から妊娠に至るまでの時系列でのまとめになります。ここからは、全体を通してのまとめとアドバイスです。
理系の考え方で思う不妊治療の難しさ
結局のところ、私たちの不妊の原因は最後まではっきりしませんでした。この原因不明のケースは少なくなく、各種検査で問題ないけど不妊というケースは少なくないと見ています。原因が分からないとなると、普段の生活の小さなことにも問題があるのかと思ってしまい、食事や生活習慣に気を付けすぎてストレスになりました。また、不妊治療の結果は0(妊娠陰性)か1(妊娠陽性)であり、もう少しでもう少しで妊娠できたとか妊娠に程遠かったなど、中間の結果は当然得られません。すると治療が良い方向に行っているのか逆効果などといった情報は得られず、やみくもに同じ方法を繰り返すか変化点を作ることになっています。特に染色体異常の胚が一定数あるため、その他の因子が無くても一定の割合で妊娠しないわけであり、この不妊治療を難しくしていると思います。
妊娠した移植では、鍼灸やストイックな食生活の改善、サプリメントなどが妻主導で行われましたが、正直どれも科学的に効果があるとは思っていませんでしたし、妊娠にこれらの効果があっかどうかも分かりません。ある程度一般的な科学的な知識があれば私と同じ意見を持つかと思いますが、健康被害があるようなネガティブな効果が無ければ妻の希望を許容するのは、治療に満足してもらうために必要かと思います。一方で不妊治療をしている人にとって見れば、〇〇をして妊娠しました!といった広告には弱く、つい惹かれてしまいますが、高額にもかかわらず科学的根拠が乏しい物もたくさんあります。もちろんそういうのに対しては、信じず購入しないことは言うまでもありません。
率直な気持ち
正直、自分としては長くつらい戦いでした。不妊治療中に夫婦の仲が悪くなるのはよくあることで私たちも何度も夫婦喧嘩をしました。冒頭でも述べましたが、治療のタイミングは生理周期で決まり、一回のチャンスを逃すと来月になってしまいます。仕事の予定などを合わせて通院することは極めて大変であり、焦る気持ちと予定が合わない悔しさ、心が折れて治療を止めたい気持ちなどいろいろな物が混ざり合って喧嘩になっていたと思います。しかし、治療を受けるには基本的に女性だけであり妻の方が何百倍もつらかったと思います。採卵では卵巣を刺激するためにほぼ毎日、自己注射を行いますし、診察や治療では下半身を毎回確認されるため、大変不快であることは間違いないです。旦那さんが思う気持ちもいろいろありますが、不妊治療では奥さんに寄り添い、サポートすることが必須であると強く感じます。
かかった費用
人工授精:1回数万円
体外受精・採卵(保険適用前の場合):1サイクル約60万円
体外受精・移植(保険適用前の場合):1サイクル約20万円
子宮鏡検査・ポリープ除去:全部で約20万円(医療保険で多くはカバー)
精索静脈瘤手術:約10万円(医療保険でほとんどはカバー)
体外受精・採卵(保険適用の場合):1サイクル約20万円(高額療養費制度適用前)
体外受精・移植(保険適用の場合):1サイクル約8万円(高額療養費制度適用前)
*クリニックやオプションによって価格は大きく変わります。
途中までは不妊治療は完全に保険適用外でしたので、幾分かの地方自治体のサポートがあっても大きな出費でした。しかし、途中から保険適用になったため、費用はかなり少なくなりました。保険適用になると高額療養費制度も適用になるため、場合によっては払った費用の一部が払い戻されます。また税制における医療費控除も適用されます。
保険適用になった不妊治療
令和4年4月から不妊治療は、保険適用となりました。しかしながら、通常の治療とは異なりいくつかの制限があります。まず女性の年齢で治療開始時も43歳未満であることです。そして体外受精に対する最も大きい制限が回数の制限であり、女性が40歳未満の場合は子ども一人に対して最大6回まで、40歳~43歳未満の場合は最大3回まで保険適用となります。この回数は移植の回数でカウントされるため、クリニックBでは”質の良い”胚を選んで凍結していました。ただし命の選別にもなってしまうため、選ぶことは強制はしていませんでした。これは難しい問題ですが、保険適用が無いとそれなりのお金がかかってしまうので、一回の移植の成功率をなるべく上げ、移植できる胚が無くなったら採卵を行うことが経済的には重要だと思います。もちろん女性への体の負担が大きいことは理解して治療の継続を検討すべきです。体験談ではあまり触れませんでしたが、移植にはいくつかのオプションがあり、これらは保険適用外であるものの併用することが認められています。前述の通り移植の回数は限られているので、なるべく全部のオプションはやったほうがいいと思います。ただしクリニックによっては最初から勧めない場合もあり、調べてこちらから医師に希望する治療を提案することも場合によっては必要かと思います。
回数制限6回というのは、体外受精の一回当たりの妊娠率から、6回あれば9割の人が妊娠するというところから設定されたようです。逆に言えば、1割の人は6回移植しても妊娠できなかったわけであり、7回目で妊娠する可能性があったのに、保険適用の壁であきらめてしまうケースもあるかと思います。確かに体外受精は高額な治療費ですが、最近では高額な治療薬も登場しており、少子化対策を最優先とするならばもっと許容回数を増やしてもいいと思いますが、このルールの上で上手く治療を行う必要があります。
良いクリニック選び・治療方針
第一に不妊治療を専門に行うクリニックの方が良いと私は思います。総合病院・大学病院でも実施していますが、曜日や時間で配慮はあるものの、どうしても妊婦さんや赤ちゃんと出会う機会もあり劣等感を感じてしまうこともあるので、そのような心配のない専門クリニックをお勧めします。専門クリニックでは夜遅くまで診察をやっていたり、土日祝日も受け付けていたりと働く女性に配慮しており、通いやすいかと思います。次にクリニックの選び方ですが、多くのクリニックが通院前の説明会を行っており、そこで方針などを聞くことができます。クリニックBを選ぶ前にはクリニックCにも初診で行ってみましたが、院長の態度が横柄でこちらの希望などは聞いてくれない感じだったので通院しませんでした。また男性側もしっかり調べてもらえるクリニックが私は良いと思います。不妊の原因を女性側に押しつけるのではなく、結果に関わらず男女で公平に診てもらったほうが、夫婦の仲に亀裂が入るのを防げると思います。
私たちの場合、何度か体外受精をやっても妊娠せず、転院したら結局一回の移植で妊娠したわけですが、前述の通り染色体異常もあるため、クリニックAでもう一回移植しても妊娠できた可能性も否定できません。転院したら一回で妊娠できましたという口コミもそのクリニックの治療関係なしに同じケースだと言えます。そのためいつ、どこに転院するか、そのタイミングは難しいと思います。同じクリニックでの治療に疲れてきたら、気分を入れ替える意味を含めて転院するのが良いのではないでしょうか。ただし、転院するといろいろなものがリセットされるので自身の治療経過をまとめ、自分の希望をしっかりと伝えることが必要になります。
不妊治療中は友達や同僚が妊娠・出産すると取り残された気分になり、家族の人数、子供の成長の話題には入れず寂しい思いをしますが、クリニックに行けば、比較的若い世代の方も含めてたくさんの患者さんが待合室にいます。不妊で悩んでいる夫婦は、珍しくなくたくさんの人が同じように悩んでいると思うと気が少し楽になるかもしれません。そして不妊に関する研究も日々進んでおり、今では自分の時にはなかった治療法が臨床で登場しています。化学とは遠い分野になりますが、医療技術の発展により、少なくとも女性の負担が減ることを切に願います。