有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2024年1月号がオンライン公開されています。
複雑な気持ちで始まった2024年。自分にできることを頑張ろうと思う次第です。
有機合成化学協会誌は今月号も充実の内容です。
キーワードは、「マイクロリアクター・官能基選択的水和・ジラジカル・フルオロフィリック効果・コバレントドラッグ」です。
今回も、会員の方ならばそれぞれの画像をクリックすればJ-STAGEを通してすべてを閲覧することが可能です。
巻頭言:教育と研究の明るい未来
今月の巻頭言は、東京大学大学院薬学系研究科 大和田智彦 教授による巻頭言です。
自分の大学で講義を行なっている身として、深く刺さるものがありました。大学教員以外にも、必読です。
マイクロリアクターの特長を活かした環境調和型の精密高速合成化学
2020年度有機合成化学協会企業冠賞 東ソー・環境エネルギー賞受賞
*北海道大学大学院理学研究院化学部門
マイクロフロー合成化学の第一人者である著者がこれまでに進めてきた「精密高速合成化学」の研究をまとめた総合論文です。有機リチウム,ベンザイン,カルボカチオンなどの短寿命で高反応性の化学種を介した合成反応を中心に,フラスコ反応では原理的に不可能なプロセスが高速フロー法によって見事に達成されています。フロー合成の一般的な特徴と意義もまとめられており,必読の内容です。
触媒と反応場の制御による官能基選択的な水和反応の開拓
2019年度有機合成化学奨励賞受賞
*京都大学大学院薬学研究科、京都大学学際融合教育研究推進センター重水素学研究拠点ユニット
単純でありふれた試薬を用い複雑な分子を作ることは合成化学の神髄です。本論文では「水」を試薬に用いる水和反応に関して触媒と反応場の制御を基盤にした新展開がまとめられています。とくに高い官能基選択性を実現できる触媒システムが興味深いです。
m–キノジメタンを基盤とする縮合多環ジラジカルの創出
2022年度有機合成化学奨励賞受賞
*大阪大学大学院基礎工学研究科物質創成専攻機能物質化学領域
ジラジカル種は、閉殻構造にはみられない特異な性質を有することから、近年有機磁性材料など材料科学の観点から非常に注目を集めています。本論文では清水先生らが近年開発された各種m-キノジメタン型非ケクレジラジカル種の合成、構造、物理化学的特性についてわかりやすく解説されています。本研究により得られた「適切な分子設計により熱力学・速度論的に開殻三重項/一重項構造を安定化できる」という知見は、今後の機能性材料開発への優れた指針を提示していると考えられます。
分子間および分子内フルオロフィリック効果を活用する有機合成
ペルフルオロアルキル基は、水とも有機溶媒とも親和性が低い。しかし、性質の似たペルフルオロアルキル基同士の間では誘引的な相互作用が働く。本総合論文では、「フルオロフィリック効果」と呼ばれる、この相互作用をキーワードに、生物活性ペプチドの簡便合成や配座制御に基づく高活性な遷移金属錯体の開発といった最先端のフルオラス科学がまとめられている。
コバレントドラッグのための細胞内反応化学
標的タンパク質の求核的アミノ酸残基と選択的に反応するようデザインされたコバレントドラッグの開発が近年活発になっている。本総論ではケミカルバイオロジー研究のプローブ分子から医薬品化合物まで、求電子基ごとに幅広くレビューされており、コバレントドラッグ研究を俯瞰するには最適と言える。
Review de Debut
今月号のReview de Debutは1件です。オープンアクセスですのでぜひ。
・高度に歪んだ6員環アレンを用いた環化付加反応(名古屋大学大学院生命農学研究科)宮坂忠親
Message from Young Principal Researcher (MyPR):大切にしてきたこと
今月号はMyPRがあります!千葉大学大学院薬学研究院の山次健三 教授による寄稿記事です。
学生時代のエピソードから、現在に至るまで様々なドラマを感じさせてもらいました。オープンアクセスです。
ラウンジ:有機電解合成を主軸とする有機合成の展開
今月号のラウンジは、岡山大学名誉教授であられる鳥居滋教授による寄稿記事です。2022年度有機合成化学特別賞を受賞されています。
現在、世界中で行われている有機電解合成。その歴史を感じることができます。
感動の瞬間:頑張った人には多くの感動の瞬間が待っている
今月号の感動の瞬間は、岐阜大学名誉教授の安藤香織 教授による寄稿記事です。
筆者は、学部3年生の講義で安藤先生の反応を教えています。この度、安藤先生の3つの感動の瞬間のお話が聞けて来年度の講義でも紹介しようかなと感じました。みなさまぜひご覧ください。
これまでの紹介記事は有機合成化学協会誌 紹介記事シリーズを参照してください。