アゾ重合開始剤とその関連技術について学べるシリーズ第3弾!
第1回と第2回では、アゾ重合開始剤について知識を深めていただきました。
アゾ重合開始剤はラジカル重合において開始剤として用いられます。ラジカル重合は様々な利点から広く用いられていますが、分子量分布の制御が難しいという弱点もあります。今回は、ラジカル重合をより精密に制御できる「RAFT重合」についてご紹介いたします。
富士フイルム和光純薬株式会社では、量産化レベルでご提供できるRAFT剤を多数ラインナップしております。また、RAFT剤の合成からRAFT重合までの一貫した受託製造も承っております。
サンプルのご提供や、研究に合わせたご提案も可能ですので、是非お問い合わせください!
Ⅰ.ラジカル重合の弱点
ラジカル重合は多様なモノマーへの適用が可能で特殊設備を比較的必要とせず、水中での反応も容易であるというメリットから、工業的に広く使われています。
しかし、従来のラジカル重合は、成長ラジカル同士が結合する「再結合」による停止や、成長ラジカルが反応系中の他の分子から水素などを引き抜いて失活するとともに新たな成長ラジカルが生成する「連鎖移動」等の副反応が起きることから反応の制御が難しく、また、一旦ラジカル活性種が生成すると停止反応や連鎖移動反応が起こるまでは成長反応を続けるため、分子量の精密な制御は困難であるという特徴があります。
このため、ラジカル重合の生成物は重合度がまちまちな、分子量分布の広い高分子になりやすいという弱点がありました。
この弱点を克服できるのがリビングラジカル重合であり、中でも注目されているのが『RAFT重合 (Reversible Addition-Fragmentation Chain Transfer Polymerization, 可逆的付加開裂連鎖移動重合)』なのです!
Ⅱ.リビングラジカル重合とは?
リビング(生きている)とは、まさに重合活性種(成長ラジカル)が死なないことです。したがって、リビング重合とはポリマー末端の生長点が「生きた」まま、すなわち反応性を保った状態で重合が進むものを指します。
リビングラジカル重合としては、主に ATRP、NMP(Nitroxide-Mediated Radical Polymerization:ニトロキシド介在ラジカル重合)、RAFT重合の3種が知られています。
中でもRAFT重合は、
・通常のラジカル重合系にRAFT剤を加えるだけで精密重合が可能
・有毒な金属触媒を必要としない
・多くの官能基や溶媒(水を含む)が利用可能
という利点から、その論文数・特許件数は徐々に増加しています
Ⅲ.RAFT重合とは?
RAFT重合は、連鎖移動剤(RAFT剤)を用いて分子量分布が狭いポリマーやブロックポリマーなどの高機能なポリマーを合成することができる手法です。
生長中のポリマー末端のラジカル(P・)に対して、RAFT剤が付加した後、脱離基Rがラジカルとして離れてゆき、ここから新たなポリマー鎖が生長します(連鎖移動反応)。新たに生成したジチオエステル類は再び連鎖移動剤として働くため、これらの反応はモノマーが完全に消費されるまで繰り返されるというのが、RAFT重合の基本的な流れです。
Ⅳ.RAFT剤の選び方
前述の通り、RAFT重合は交換連鎖によってリビングラジカル重合になっていますが、この平衡反応は成長末端のラジカルとRAFT剤に付加してできるラジカルの安定性が重要です。
そのため、モノマーに応じて最適なRAFT剤を選ぶことが、十分な制御の実現につながります。
富士フイルム和光純薬では、様々なモノマーに適合するRAFT剤をご用意しております。
【RAFT剤とモノマーの適合表】
Ⅴ.アゾ重合開始剤残存率計算ツールのご紹介
最後に、アゾ重合開始剤をお使いの皆様へお役立ちツールを紹介します!
通常、残存率や反応条件(分解反応時間、分解反応温度)を特定するためには、文献を参照したり複雑な計算式を用いて計算したりする必要がありますが、それらをワンクリックで算出できるのが『アゾ重合開始剤 残存率計算ツール』です。
当社の研究部門でも大好評のツールですので、研究の際には是非ご活用ください!
ここまでお読みいただきありがとうございました。
富士フイルム和光純薬では、豊富な知見から様々なご提案をさせていただいております。皆様の研究をサポートいたしますので、お気軽にお問い合わせください。
関連リンク
アゾ重合開始剤とその関連技術について学べるシリーズ
- 第1回 アゾ重合開始剤の特徴と選び方
- 第2回 AIBNに代わるアゾ開始剤!優れた特長や金属管理グレート品、研究に役立つ計算ツールもご紹介
- 第3回 ラジカル重合の弱点を克服!精密重合とポリマーの高機能化を叶えるRAFT重合
- 第4回 ポリマーを進化させる!機能性モノマーの力