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株式会社メカノクロス – メカノケミストリーの社会実装に向けた企業の設立

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メカノケミカル有機合成の社会実装に向けた、北海道大学発スタートアップ企業「株式会社メカノクロス」が 2023 年 11 月に設立されました。メカノクロスは、ケムステにも何度もご登場いただいている、北海道大学大学院工学研究院・同大学化学反応創成研究拠点 (WPI-ICReDD) 教授の 伊藤 肇 先生が中心となって立ち上げられました。

メカノケミストリーは、固体物質に摩擦や圧縮などの機械的刺激を加えることで、無〜省溶媒で効率的に化学反応を進行させる、近年大いに注目されている研究分野です。無機化学の分野では比較的古くからメカノケミスリーの概念が注目されていましたが、有機化学分野への応用が発展してきたのはごく最近の話になります。伊藤教授らは、Grignard 反応といった古典的有機化学反応や、鈴木-宮浦クロスカップリングなどの重要な触媒反応とメカノケミストリーを組み合わせ、反応の時短・効率化と溶媒量の削減など注目すべき成果を多数挙げられています。ケムステでは、これまでにもスポットライトリサーチにてさまざまなご研究を取り上げてまいりました。

空気下、室温で実施可能な超高速メカノケミカルバーチ還元反応の開発
メカノケミカル有機合成反応に特化した触媒の開発
ボールミルを用いた、溶媒を使わないペースト状 Grignard 試薬の合成

不溶性アリールハライドの固体クロスカップリング反応
メカノケミストリーを用いた固体クロスカップリング反応

メカノクロスの設立メンバー

メカノクロスの事業内容

有機合成化学は、過去100年以上に渡って、医薬品や高機能化学材料を作り出す重要なテクノロジーですが、
石油由来の有機溶媒を大量に消費するという欠点がありました。
私達が注目するメカノケミカル有機合成では、従来の溶液系反応に比べて、反応における有機溶媒の量を大幅に削減できる上、
反応の高速化、操作の簡素化とコストダウンが可能になります。
またこれまで活用できなかった、不溶性化合物を反応に利用できるなど、
メカノケミカル有機合成は、有機化学の新しい世界を開く革新的な技術です。
メカノクロスは、この革新的な技術の産業化・社会実装を目指します。

株式会社メカノクロス HP より

メカノクロスは、同社の強みとして次の技術を挙げています。

  • 反応の高速化 (典型例:従来法の400倍以上)
  • 溶解性の低い化合物 (未利用原料) を用いた反応の実現
  • 有機溶媒使用量の削減 (従来の 15分の1 以下)

そもそも有機合成反応における溶媒は重量・バルクの大部分を占めるだけでなく、反応終了後は廃棄物となり、使用・回収・再利用にも相応のコストがかかります。また大気中への散逸や焼却処分に伴う CO2 排出など、環境へ多大な負荷を与えます。メカノクロスの技術は、そんな “必要悪” とも言える溶媒の使用を必要最小限・時には無使用に抑えつつ、反応時間の大幅な短縮を同時に達成可能とする革新的なものです。
また、溶媒に溶けない物質は基本的に化学反応への利用が困難でした。メカノケミストリーでは機械的な力で効率的に物質を混合・反応させるため、今まで未利用のまま見過ごされてきた不溶性物質を新たなケミカルスペースの開拓に応用することが可能となります。
さらに、ボールミルを用いたメカノケミストリーでは、触媒反応とは切っても切りにくい不活性ガス (窒素・アルゴンなど) の使用を回避できる利点があります。ボールミルの反応装置内はそもそも密封されており、酸素や水分の混入を最大限に抑えることができ、触媒の失活を防止できます。不活性雰囲気下での反応はバルーンやグローブボックスの使用が必要になり、スケールアップするにつれて運用が困難になっていきます。ボールミルでの反応は不活性ガス不要なので、スケールアップにも耐えやすいという利点を持っています。

メカノクロスの中核技術

メカノクロスの技術

有機合成化学は、過去100年以上に渡って、医薬品や高機能化学材料を作り出す重要なテクノロジーですが、
石油由来の有機溶媒を大量に消費するという欠点がありました。
私達が注目するメカノケミカル有機合成では、従来の溶液系反応に比べて、反応における有機溶媒の量を大幅に削減できる上、
反応の高速化、操作の簡素化とコストダウンが可能になります。
またこれまで活用できなかった、不溶性化合物を反応に利用できるなど、
メカノケミカル有機合成は、有機化学の新しい世界を開く革新的な技術です。
メカノクロスは、この革新的な技術の産業化・社会実装を目指します。

株式会社メカノクロス HP より

メカノクロスの研究チームでは、一般的な粉体作成用のボールミルと、メカノクロスカップリング用に独自開発された触媒系 (Pd(OAc)2/SPhos/COD) を用いて、超高効率な化学反応の実現に成功しています。詳細は以下の論文およびスポットライトリサーチ記事 (不溶性アリールハライドの固体クロスカップリング反応) をご覧ください。

“Tackling Solubility Issues in Organic Synthesis: Solid-State Cross-Coupling of Insoluble Aryl Halides”

Seo, T.; Toyoshima, N.; Kubota, K.; Ito, H.
J. Am. Chem. Soc. 2021, 143(16), 6165–6175. DOI:10.1021/jacs.1c00906

その後も伊藤研ではより温和な条件で反応を促進させる、メカノケミストリーに特化した配位子の開発に成功しており、今後のさらなる技術発展が期待されます (記事:メカノケミカル有機合成反応に特化した触媒の開発)。

“Mechanochemistry-Directed Ligand Design: Development of a High-Performance Phosphine Ligand for Palladium-Catalyzed Mechanochemical Organoboron Cross-Coupling”

Seo, T,; Kubota K.; Ito, H.
J. Am. Chem. Soc. 2023, 145(12), 6823–6837, DOI: 10.1021/jacs.2c13543.

この中核技術を基に、メカノクロスではパートナー企業との共同研究事業をさまざまスケールで展開しています。

  • イニシャルプロセステスト
    ご希望の溶液反応に対するメカノケミカル化を小スケールで検討 (<1 g)
  • セカンドスケールアップテスト
    イニシャルプロセステストに成功した反応を弊社所有装置でスケールアップ (セミラージ・100 g 程度まで)
  • プロダクションエバリュエーション
    セカンドスケールアップに成功した反応をさらにスケールアップ・工業生産への初期検討を実施 (ベンチスケール・1 kg から数100 kg 程度まで)

メカノクロスが展開するスケールアップ・事業化へのロードマップ

メカノケミカル事業に興味を持たれた方へ

以上、メカノケミストリーの産業化・社会実装を指向されるスタートアップ企業「株式会社メカノクロス」について概要を紹介させていただきました。

興味を持たれた企業の皆様方は、株式会社メカノクロスのホームページにアクセスして頂き、ページ記載のメールアドレスから直接ご連絡ください。また、同社はメカノケミカル反応の情報提供、海外及び国内の論文紹介、企業様同士の交流と情報交換などを目的とした、「メカノケミカル有機合成実装研究会」を立ち上げておられます。既にいくつかの企業様に入会して頂いている状況だそうです。こちらも詳細は同社のホームページよりご確認ください。

最後に、株式会社メカノクロスでは共にメカノケミストリーの社会実装を目指す研究人材を募集しております。同社の活動に興味を持たれた方は、お気軽にご連絡下さい。

メカノケミストリーに関する 伊藤肇 教授の講演動画

第 1 回ケムステVシンポより。メカノケミストリーの基本から応用に至るまで、わかりやすくご説明いただいております。

関連リンク

株式会社メカノクロス ホームページ

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創薬化学者と薬局薬剤師の二足の草鞋を履きこなす、四年制薬学科の生き残り。
薬を「創る」と「使う」の双方からサイエンスに向き合っています。
しかし趣味は魏志倭人伝の解釈と北方民族の古代史という、あからさまな文系人間。
どこへ向かうかはfurther research is needed.

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